毒を食らう
ある時、フランスに1人の男がいた。名はクリス。
母は奴隷出身で父は弱小貴族出身であった。弱小貴族と言えども親には勘当されており、平民へと成り下がったのであった。それでも両親の仲は良く、妹も生まれ幸福に包まれた生活を送っていた。
そんな中、クリスが4歳の時父が死んだ。母はまともに働けず、妹もまだ幼い。もちろんクリスもである。家を頼ることも出来ず、一家は絶望に満ちていた。
母は叫ぶがごとくクリスに言った。「奴隷になんぞ戻りとうない。クリス。お前が働け。お前は男なのだから家族を支えて当然だろう。」齢4歳にして働くことを強いられたクリスは朝から晩まで仕事に明け暮れた。だが所詮子供。それだけ働いても生活は困窮していた。
母は家事すらロクにせず、文句を垂れようが垂れまいが物を投げ怒鳴る。「お前は出来損ないだ。お前が死ねばよかったのだ。」
母はクリスに暴力を振り続けた。呪いの言葉と共にそれはクリスの心と体に傷を与え続けた。
そんな状態に晒された幼き妹は、愛情に飢え母親とおなじ道を辿った。親子とはそういうものだ。妹は母の分身と化した。
クリスは母の代わりに食事を作った。楽しく食事をした記憶が年月を経て薄くなるにつれ、暴力は増していった。怒鳴り喚き物を投げ暴力を振るう母と妹をクリスは愛していた。そしてまともに稼げぬ自分を恨み、自虐的になっていた。
数年後、そんな妹も大きく成長し、運命の人を見つけ結婚した。だが、妹はクリスを結婚式に呼ぶことはなかった。妹も婚約者もクリスをゴミのように扱い、嘲笑った。クリスはそれを当たり前だと捉え、妹夫妻を祝福した。
クリスが35歳になったある日、クリスがいつものように暴れ叫んでいる母をなだめているとと、急に母が倒れた。何が起こったのか分からぬクリスは、急いで医者を呼ぶが、脳梗塞により死んでしまった。葬式にはクリス以外誰もおらず、空虚なものだった。
それから数週間が経ち、隣人は不思議に思っていました。叫び声を上げたりする母親が居なくなったので騒音がしないのは理解ができる。でもそれにしても静かが過ぎるのです。隣人がチャイムを鳴らしても返事はありません。一言置いて部屋に入ると、荒らされた形式がありました。これはおかしな事でした。なぜならクリスは母が暴れる度に部屋を元通りにしていたからです。もしこれをクリスがしていたとしても、それはクリスの気が触れたということになります。恐る恐るクリスの部屋に行くと、なんとクリスは痩せ細り息絶えていました。
なんでもクリスは母が亡くなり急にやってきた自由によって、人生における意義というものを見失い、全てにやる気を見出すことが出来なくなってしまったのです。そうして何もせずにすごし、餓死してしまったのでした。
息絶えたクリスは白鳥になって、やがて私に話しに来てくれました。