桜ちゃんのランドセルと文鳥のピヨちゃん
ピヨちゃんは一歳になった頃に桜ちゃんの家にお迎えされました。
フワフワの羽毛は真っ白で、目の周りとクチバシは真っ赤。
小さくて、すごくすごくかわいい白文鳥です。
桜ちゃんは五歳。
春からは小学生です。
桜ちゃんは、ピヨちゃんと同じ色の赤と白のかわいいランドセルを買ってもらいました。
ピヨちゃんもそのランドセルが大好きで、上に乗って歌いながらかわいいダンスを踊ります。
「ピュウピュウチュッチュピュウ……」
そのかわいい姿を見ると桜ちゃんは笑顔になります。
それから六年。
桜ちゃんは六年生になりました。
ピヨちゃんは七歳。
人間の年齢にするとだいたい六十歳くらいです。
ピヨちゃんはいつの間にか桜ちゃんより年上になっていました。
明日から夏休み。
桜ちゃんが学校から帰ってくるとママが悲しそうに泣いています。
「桜……ピヨちゃんが……もうダメかもしれないの」
桜ちゃんが、ママの手の中にいるピヨちゃんを見るとぐったりしています。
いつも真っ赤だったクチバシと目の周りがベージュになって、呼吸も苦しそうです。
「ママ……ピヨちゃんはどうなるの?」
「病院で獣医さんに診てもらったんだけど……もう無理だろうって……」
「そんなの嫌だよ!」
桜ちゃんはそれから毎日、食欲の無いピヨちゃんに一粒ずつ穀物を食べさせたりお水をあげたりしました。
羽根の生え換わる時期が終わるとピヨちゃんは少しずつ元気になって、またかわいく歌うようになりました。
桜ちゃんは、ランドセルの上でかわいく踊るピヨちゃんを優しく見つめながら残りの夏休みを楽しく過ごしました。
……でも。
冬の羽根に生え換わる頃……
ピヨちゃんはまた体調が悪くなってしまいました。
「また、絶対元気になるよ! 頑張ってお世話するから!」
桜ちゃんは一生懸命お世話をしました。
翌日、ピヨちゃんはママの手の中で静かに目を閉じるともう動く事はありませんでした。
「絶対元気になるって言ったのに」
桜ちゃんは泣きながらピヨちゃんを撫でました。
いつも温かかった身体は冷たくなっています。
「嫌だよ……ピヨちゃん……またかわいいダンスを踊ってよ……」
桜ちゃんは泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまいました。
桜ちゃんが目を開けると、そこには見た事がないくらい大きな木がありました。
「……? ここは……どこ? あ! わたし……ピヨちゃんを捜していたんだった!」
桜ちゃんはなぜか夢の中でピヨちゃんを捜しています。
「ピヨちゃんは家から出たら危ないから早く見つけないと!」
見た事がない場所を走り回ってピヨちゃんを必死に捜します。
それでもピヨちゃんは見つかりません。
「ピヨちゃん……どこにいるの?」
桜ちゃんが泣きながら大きな木を見上げると、聞き覚えのある歌が聞こえてきました。
「ピュウピュウチュッチュピュウ……」
「ピヨちゃん!?」
大きな木の枝に、かわいいダンスを踊りながら歌うピヨちゃんの姿が見えます。
「ピヨちゃん……生きていたんだね……良かった。あれは夢だったんだ」
桜ちゃんが笑顔で呟くとピヨちゃんは空高く飛んでいきました。
「ピヨちゃん! ピヨちゃん! 外は危ないの! 帰ってきて!」
どんなに叫んでもピヨちゃんは戻ってきません。
「ピヨちゃん……一緒に家に帰ろうよ……」
瞳から涙がポロポロとこぼれ落ちると桜ちゃんは夢から目覚めました。
「今のは……夢? ピヨちゃんは!?」
桜ちゃんは走ってピヨちゃんのケージに向かいました。
でもそこにはもうピヨちゃんの姿はありません。
「桜……大丈夫?」
ママが心配そうに話しかけると、桜ちゃんは夢の話をしました。
「桜が今みたいに泣かないように、夢の中に会いに来てくれたのね」
「夢の中に?」
「ピヨちゃんは楽しそうに歌っていたんでしょう?」
「うん。すごくかわいかったよ」
「最期に元気な姿を見せに来てくれたのね」
「……うん。泣いているわたしに笑って欲しかったんだね。ピヨちゃんのダンスを見るといつも笑顔になったから」
中学生になっても桜ちゃんの部屋にはピヨちゃんと同じ色のランドセルが置いてあります。
そして、そのランドセルを見るたびに桜ちゃんは笑顔になります。
もうあのかわいいダンスは見られないけれど、桜ちゃんの心の中でピヨちゃんは生き続けています。
小さな小さなピヨちゃんはずっとずっと桜ちゃんの大切な家族です。