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8 推しが心配してくれる

「リーナ〜、生きてる〜?」

「生きては、いる……」

「半分死んでるね〜」

「こら、マリーナ、そう言うことは言わないの」

「は〜い。……ところでリーナ、自分の名前、言える?」


 ……うん。

 私はリーナ・ヴェルネ。

 ランデーズ学園の4年生魔術科所属、推しはクレア・リンパル先生……。


「うん、これは間違えなく風邪じゃない?」

「そうだね。熱、喉の痛み、咳。ウチらもうつらないように気をつけないと」

「そうだね〜。というわけでリーナは今日休みね〜」


 えぇ……それは困る。


「今日は……魔術実技の試験が……!」

「リーナらしいが却下。休みなさい」

「エイミー、だけどこの子の場合、体調が悪い時の方がセーブされて……」

「一概にそう言えるの?」


 きっとエイミーは鋭い視線をミノエに向けているだろう。目を開く気力もなくて半分閉じてるからわからないけど。


「下手に体調が悪い時に魔術を使えば、うまくセーブできないんじゃない?」

「確かに……。つまり休むのが優先だね」


 そ、そんな……。

 ミノエは味方だと思ったのに……。


「それに今日は……」

「今日は?」


 薬医学の授業が、先生の授業があるんだよぉ……。

 そこで私の意識は暗転した。




 ◇◇




 微かに音が聞こえた、気がした。


 私はその音をもっと聞きたくて、魔術を使う。

 そうすれば、音は途端に大きくなり、足音さえ大きなノイズとなる。たくさんの音が、押し寄せる。

 ……違う。その音は私が聞きたいものじゃない。


 聞きたい。聞きたい。聞きたい聞きたい聞きたい聞きたい聞きたい聞きたい……。


 目的の、きっとなっているであろう音を私は全力で探す。

 これじゃない。あれでもない。これでもあれでもあっちでも……。


 ……やっと、見つけた。

 キラキラと輝いている音。私が大好きな音。その音を見つけて仕舞えば、私の鼓膜はその音に占領される。

 最初は一つずつ音を確かめるようなもの。次第にその動きは早くなり、旋律を持つようになる。

 抑揚のあるメロディーとそれを引き立てる伴奏。そのメリハリに、音に、私はドキドキして鳥肌が立つ。憧れる。もっと聞きたいって思って……次は、どんな音があるんだろう、って考える。




 ◇◇




 ぼんやりと視界が滲む。だけど、視界は暗い。

 朝に感じていた怠さは抜け、体が軽かった。


「あ、リーナ、起きた?」


 ちょうど部屋に入ってきたらしいエイミーによって部屋の明かりがつけられる。すると薄暗い視界が一気に眩しくなり、私は目を細めた。


「熱は……もう下がったみたいだね」


 エイミーは私の額に手を当てる。外は冷えていたのか、エイミーの手は少しひんやりとしてた。


「それにしても良かったよ。リーナが元気になったみたいで」


 ベッドの脇に置かれていた水差しからコップに水を注いで渡してくれる。


「ありがと」

「いえいえ。あ、今日はいつも通りに授業あってね、明日は──」




「そういえば、先生がリーナのこと、心配してたよ」

「っゴホッ!ゴホッ!?」

「ちょ、リーナ、大丈夫?」

「だ、大丈、夫……」


 気管支に水が入りかけて咽せたけど、なんとか?なってる。地味に痛いけど……。


「せ、先生ってリンパル先生!?」

「ん?そうだけど」


 な、なんと。

 お、おお、おおお、推しが!!!!






 推しが、私の心配をしてくれてるーーーー!!!!!



 何これまじ天国ですか。最高すぎ。幸せすぎて死にそう。まだ死にたくないけど。


「今日も綺麗だったよ〜」

「だよね。ほんと、どうしたらあんなに綺麗可愛くなれるんだか……」


 ドアからニュッと頭が出てきてマリーナとミノエがいう。


 ……くそっ!私も今日、先生に会いたかった!!御尊顔を拝見させていただきたかったです!!

 だけど私のことを心配してくれたっていうのも嬉しいんだよね……。




 ◇◇




 ……あ。


「先生!リンパル先生!」


 風邪でダウンしたから結局、魔術の実技できなかったんだよね。それをいつやるのか、訊かなきゃ……。


「あ、リーナ。体調大丈夫?」

「大丈夫です。それより魔術実技……」


 いや、待て私?

 今、さらっと推しの心配を受け流してしまわなかったか?


「魔術実技?あ、そっか。まだだもんね。明日の放課後でどう?」

「分かりました。ありがとうございます」


 そして引き返せないところまで会話が進んでしまった……。


 もうちょっと会話を引き伸ばせば良かった……。

 元気なのは事実なんだけどなんか虚しさが残る……。

貴重な機会を自らぶった斬ったリーナ

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