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4 そう言う推しが可愛い

さむ……。


やっぱ冬に活動するのは良くないと思うんだよね。人間も冬眠すべきだと思う。

といわけで私、リーナ・ヴェルネは冬眠しまーす。おやすみなさい……。



「起きなさああぁぁぁぁぁぁい!!!」


朝からよくそんな大声が出せるなぁ……。

感心するよ、おやすみ……。


「いい加減起きないと布団取るよっ!」


おっと、それは困る。私は縮こまり、布団を握る。

うん、あったかい……。


「もうっ!」


ふんっという声と共に冷気が触れる。……あぁ、布団取られちゃったんだね。

私はさらに縮こまり、できるだけ体温を逃さないようにした。


「起きなっていってるでしょ!」


知らないよ。あと少しぐらい寝させてほしいなぁ……。

すると突然、ヒヤリ、とした感触と共にくすぐったさを感じる。


「や……め……」

「だったら起きなさい」


それだけは断固拒否……。

ただ、そのくすぐったさに抗えるはずもなく、私はバタバタと足を動かし、あわよくば私をくすぐった犯人に当たらないかなーと考える。


「はい、おはよ、リーナ。いい朝だね」

「……寝起き最悪なんだけど」


無理やり

上半身を起こされた時には私の体は冷えていて、動いたせいか目もそれなりに冴えてしまっていた。


「全く。毎朝起こす私の身にもなってほしいよ」

「私、人間も冬眠すべきだと思うんだよね。こんな寒いのに活動しようとするのが間違いだよ」

「まだ雪も降ってないし、寒くないよ?」


まだ、ね……。


「十中八九、雪、降るんでしょ?」

「そうだね。今日の昼ぐらいから降るんじゃないかなってみんな言ってる」


どうりで寒いわけだ。やっぱり冬眠すべき。


「じゃあ、私寝る」

「いや、寝るな?」




**




「ざ〜む〜い〜」

「我慢しなさい、我慢」

「おが〜ざ〜ん!ざむいよぉ〜!」

「誰がお母さんだ」

「エイミー」

「マジふざけんなだよ。いくらリーナでも怒るからね」


いや、そう言われてもねぇ。

実際、エイミーはお母さんだと思う。私のことを起こしたりしてくれるし。

マジお母さん。……本人はこの通り、認めてないけどね。


「もう昼近くなんだから、いい加減諦めなさい」

「エイミーひどいぃ……」

「……授業中だよ」

「……知ってるよ」


はい、この通り、現在はお昼前最後の授業。

私たちは授業の最中に小声で会話しております。……しかも今、薬医学の授業なんだよね。……つまり。


リンちゃんの授業の最中です!!


……サボってるわけがないよ?

いくらこんなに寒くて眠くて冬眠したくても私は真面目に授業を受けている。なんたって超キューティフルビューティーな先生の授業ですもん。

……言っておくけど、これは授業によって態度をゴロゴロ変えているわけじゃないよ?ただ、先生の授業だから平常よりちょっとばかり気合を入れているだけで。

しかも、実験が終わってレポートをまとめている時間だから、授業妨害をしているわけじゃないし、手もちゃんと動かしてます。


「リーナって言い訳する時って自分の正当性を伝えようと躍起になるよね」

「何を言ってるの、エイミーさん。人間は自分の正しさを主張する生き物なんだよ」

「まぁ、そりゃそうだけどさ……リーナの場合はむしろ墓穴を掘ってるよね」

「失敬な」


そんなことはない……はずだ。


リンゴーン、と鐘の音が授業終了を告げる。


「それでは、授業を終わります」

「気をつけー、礼ー」


先生からありがとうございました、と聞こえれば空気は一気に緩む。

……私の手元には乱れた字が並んだレポートが。


「あれれ〜?リーナくん、大丈夫ですかぁ〜?」

「エイミー、黙って。あと、少し待ってて」

「りょーかい」


私は席に座り直し、ペンを動かし始める。

レポートを提出する人で賑わっている教室。


「リーナ、まだぁ?」

「まだ〜」


のんびりと話す声が聞こえる教室。


「リィ〜ナァ〜。まぁだぁ?」

「あと少し」


カリカリ、とペンの音が響く教室。


「リーナ、リーナ、まぁだまだ?」

「あと5秒」

「よぉ〜ん、さぁーん、にー、いーち、しゅーりょ〜」

「終わった!!」


私はやや急足に教室前方に向かう。


「先生、おねがします」

「ありがとう」


先生は柔らかく微笑んで私のレポートを受け取る。

……はぁ、可愛い……。


「……雪、降りそうだね」


窓の外を眺めた先生がそういう。ちょうど先生も教室を出るところだったらしく、私達と一緒だ。

渡り廊下に出れば、ひんやりとした空気が肌を触れた。


「……先生は『薬医学魔術師の挑戦』シリーズ、知ってますか?」

「知ってるよ〜」


薬医学魔術師の挑戦シリーズ。


それは一昔前にすこ〜し流行った薬医学魔術師を主人公とした本だ。

ど田舎でただ一人、薬草を育てたりして、のんびりひたすら実験する様子を本にしたもの。しかも本一つ一つがかなり分厚くて、かつ全部で20冊ある。読み応えがあるが淡々とただ実験の様子やらなんやらが書かれている。ただ、時々、ものすご〜くごく稀にコメディ要素がある。しかもそのコメディ要素がめちゃめちゃ面白いのだ。

……私は約医学の実験も楽しみだけど、それ以上にこのコメディ要素を楽しみにしている人間だ。

ここしばらくコメディ要素がなかったからもうそろそろコメディが入ってくるんじゃないかっていうのが私の予想。


「全巻揃えてる。しかも初版」

「まさかのガチ勢」


マイナーだったから知ってるかわからなかったけど……さすが先生だわ。


「あのシーンいいよね。『こんなの()()()お断り!』って言うの」

「わかります。断固なのに団子っていうところが最高です」


このシーンはいきなりきて無茶苦茶な要求をしてきた人に吐くセリフだ。

断固お断りを団子お断りっていうのが最高すぎてツボる。


「そんなに面白いんですか?」


エイミーは知らないらしい。……読むべき。先生も読んでいるんだもん。


「見るべきだよ〜。すごく面白い」

「そうなんですね〜」


エイミー、その返事は読む気はあるのかないのかどっちなの?


「せんせ〜!」


遠くから、人影がやって来る。

推しとの会話時間を邪魔された私は若干イラっとする。


「雪〜!」


先生は、小さく手を振った。


「わざわざいいに来てくれたんだ」


小声で呟く声が聞こえた。


「……可愛い」


ボソッといったその言葉を聞いてしまう。


……いやいや、そう言う貴女が可愛いですよ。

リーナ は 惚れた弱み(?)で イラつき を 忘れた!!

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