15 推しの推論
「……あれ?」
その声は、静かな薬草園に小さく響く。
だけど、その声は、私の世界に光を差し込んだ。
「また……会ったね」
いつも通りの、穏やかな声色。
信じられない、あり得ないと思いながらも顔を上げればいつも通りの柔らかな笑みを浮かべた人がいた。
「リンパル、先生……」
「うん。久しぶり。ちょっと長い間、休んでてごめんね」
その姿に、私の涙腺は限界を迎え、ボロボロと涙が溢れる。
歯止めの効かないそれの勢いは、衰えることがない。
「え?ちょ、リーナ!?」
驚いたように声を上げた先生が、近づいてくる。
「どうしたん!?」
「だってぇ……」
先生に、久しぶりに会えたから。
だけどそんな言葉、私から出るはずもなく、ただしゃくりあげるだけだ。
なんとか涙を堪えようとしても、次々に溢れてくる。
「……泣いて、いいんだよ」
私の隣に座った先生が、そっという。
「言いたくなければ別にいいんだけど……」
一通り泣いてやっと落ち着いた私に、そう前置きした先生は言う。
「なんで泣いてたの?」
……。
「………………………自分の無力さに打ちひしがれてました」
「そう……」
一応納得してもらえた、かな……。
恐る恐る先生の方を見ると、にこやかな笑顔があった。
「そんな嘘に私が騙されると思う?リーナの癖なんて分かりきってるわよ」
……ですよねー。
何せ、3年間も担任の先生だったし。魔術科の先生ですもんねー。接点多いですもんねー。むしろ多すぎますもんねー。嬉しいけど。
「で、本当のところは?」
……言う?言っちゃう?
いや、言えるわけない。こんな気持ち。
「…………………………………………………………………黙秘、します」
「リーナらしい」
絞り出した答えも軽く納得(?)されてしまう。
だけど、さっぱりとしたところが、何よりも先生らしかった。
「だけどさ、無力に打ちひしがれて〜って言うのも嘘じゃないでしょ?」
「……そう、ですね?」
そもそも今はなんで泣いてたんだっけ?って言う状態だ。
先生がいきなり来たから全て吹っ飛んだもん。嬉しすぎて。
「驚いちゃった。明日から学校だし、薬草園の状態見て休憩のために来たら誰かいるし、しかも啜り泣いてるし」
「……泣いてましたか?」
「ん〜、少なくても私主観では泣いていたかな」
……そうですか。
「で?結局、なんでなの?」
逃げを逃さない、含みをもつ笑顔に私は気圧される。
「どうなのどうなの?」
……言う?いうの?
本人の真ん前で先生がいなくて悲しすぎて泣いてました、なんて。
「……………………………………魔術の制御もろくにできないのにどうしようと思って」
「そう。そう言うことにしておこっか」
それ以上の追及はないようでホッとする。と、同時に少しだけ後悔がよぎる。
代案的なものに逃げたこと。。本当のことを言えない情けなささ。
……いつか、言いたい。この理由を。
「……都合がいい。じゃあ、しようか?」
え?
「特別レッスン」
特別、レッスン……。
「私、ずっと考えていたんだよね。なんでリーナは魔術を制御できないのかって」
え、私のこと考えてくれてたの?嬉しすぎるんだけど。何この推し最高すぎ。
……と言うのは流石に置いておいて。
「だから、私は魔術を発動するためのトリガーを考え直した。今まで魔術を使うために必要と考えられてきた能力は2つ」
2つ、というとき、先生は指を立ててる。
というか、指長くて細くて綺麗だなぁ。色白なんだけど。なんでこんなに綺麗なんだ??
「まず、魔力量があること」
魔術を発動するためにはエネルギーを増大させる魔力が必要となる。
魔力は誰でも持っている。だけど、その量は個人によって大きく変わる。ただし、なんでその差が出るのかは今のところ不明だ。
「次に、魔術についての知識、センスがあること」
占星術だったら星の、錬金術だったら錬金術についての知識、センスということだろう。
「この2つが軸になる。だけどリーナの場合、魔力量も多いし、魔術についての知識もある。センスは計り知れないけど」
あはは……。
「私、この2つ以外に何かトリガーになるものがあるんじゃないかって思ってすっごい探したの」
そ、そうなんですか……。
「でも、見つからなかった」
「……え?」
「何回も何十回も、何百回も魔術を発動して他の人の魔術も見たけど、この2つ以外にトリガーとなる要素が見つからなかった」
「…………えぇ?」
つまり?
「つまり、リーナにはセンスがない可能性が高いんだよ」
えぇ?
私、そんな理由で魔術を制御できなかったの?そんなバカな。
「でも、私、制御できないだけで魔術を発動できますよ……」
「うん。魔術を発動するセンスはある」
じゃあ、センスはあるんじゃ……。
「……あなたの部屋は綺麗です。なぜですか?」
「え?何の質問ですか?」
「いいから選択肢から答えて。①自分で掃除したから。②みんなで掃除したから。③同室の子が掃除したから。④そもそもきれいじゃない」
「③です」
確かにマリーナがいつも掃除してくれてるね。
「……そう。自分で掃除は?」
「汚れが目立ったときだけ」
「じゃあ、第2問。あなたは友達と遊びに行くことになりました。予定はどうする?①事前に友達と計画を立てる。②自分のプランを提案する。③友達にプランを提案してもらう。④その日の気分で」
「③ですけど、結局④になります。」
「やっぱり……」
え?
何がやっぱりなの?怖すぎなんだけど。
「私の仮説としてはリーナは魔術を発動するセンスはすごくあるけど、大雑把だから制御するセンスがあるのかは怪しい、っていうもの」
つまり、私、テキトーに魔術を使ってたから制御できなかったってこと……?
「リーナはおそらく、発動するセンスは十分過ぎるほどある。それゆえに制御するセンスの不足であんな魔術をバンバン放つようになってたんじゃないかな」
そう……なのかな?
「私は私の仮説がわからないから……ここで魔術授業しようか」
先生の目が怪しくきらりと光る。……これは先生じゃなくて研究者の目だな。
「私とリーナだけの、魔術授業だよ」
だけどそれは、魔法の言葉みたいに軽やかで甘美な、特別な響きを持っていた。
リンパル先生はめちゃめちゃ有能なので日常業務(授業準備など)と自分自身の研究をこなした上でリーナの魔術について考えてました




