10 推しの〇〇
「あれ……?」
ガセボの屋根の下にある石造りのテーブルと椅子。
そこに、誰かいる。
そっと進めば。
「せんせ……」
確実に聞こえるだろうその距離。だけど、聞こえていないようだった。
もう少し進むと、先生の姿が見えた。
テーブルの上に乗せた腕に顔を埋めている。というより、枕にしているようだ。ただ、左耳を下にしているから顔が見える。
「寝てる……?」
その呟きは中に消えていく。
そっと近づいて少しだけ覗き込めば、寝息も立てずに寝ている。間違いなく寝ている。
腕の下には少しだけクシャッとなった紙があり、近くにはペンが置いてある。
……寝てる。マジで寝てる。
それを確認すると私は少し離れ、先生に背を向けた。
「ほわあぁ!?」
かわいっ!マジでかわいいっ!
寝顔かわいい。初めて見た。
もう一度少しだけ近寄り、そっと寝顔を見る。
本当に化粧をしているのか?っていうぐらい自然なメイク。閉じられた瞼には少しだけキラってするアイシャドウが見えた。
薄い唇がわずかに動いて、呼吸をしていることがわかる。耳元の髪も少しカールし、飛び出ていた。
かわいい。
それはとってもいいんだけど。
……私、課題を提出しないといけないんだよね。
休んでいた昨日の課題を。今日、頑張って休み時間とかも使って完成させた。偉くない?
で、提出するために先生を探してたってわけ。だけど先生って結構神出鬼没なんだよね。一瞬視線を外したら見失っていたことは数知れず。今日も全然先生が見つからず、ここでやっと見つけ……!しかも寝ている!寝てるんだよっ!(大事だから2回言うのっ!!)
……さて、どうしようか。
このまま見ていた気持ちもあるが流石にそれはマズイ。選択肢としては
①そっと帰り、課題は明日提出する。
②先生を起こして、課題を提出する。
だね。
いやだけどここにずっといたら流石に風邪引く……けど、寝る時間は大事だよね!?私、気持ちよく寝ているところ起こされたら嫌だもん。ほんと、どうするのがベストかなぁ……。
「ん……」
あ、やばい、起きる?
そっと距離を取る。今まさにきましたよーって言うみたいに。
だけど、首の向きを変えただけだった。セーフ。
いや、セーフってなんだ?って自分にツッコミ返す。
セーフどころの話じゃないんだよ、こっちは。どうするか、真面目に悩んでいるのです。
え?どうする?マジでどうする?マジのマジでどうする?
エイミーを呼んでくる?
いや、その間に起きて行動してたらやばいな。
「ん……?」
そうこうしているうちに、ゆっくりと、瞼が半分だけ開いた。
……起きちゃった。
「だれ……?」
ゆっくりと身体を起こし、目を擦っている。
え、かわい。マジでかわいい。猫みたい。
「リーナ……?」
私は観念して口を開いた。
今から逃げてももう遅い。
「はい。……リーナ・ヴィルネです」
いや、答えはこれしかないよね。
とろんとした目が次第にいつもの少しキリッとした目になる。
「……リーナ!?」
「……はい。リーナです」
自分でリーナっていうのはどうなんだ?と思いながらいう。
「わ、私、寝てた……?」
「……っぽいですね」
ごめんなさい、若干嘘です。寝てました。ガチガチに寝てるところ見て可愛いって内心悶えてました。マジかわいかったです。ごちそうさまでした。
「ちなみにいつぐらいに来たの……?」
恐る恐る、というように言われる。
「……ついさっきデス」
「何その微妙な間……」
そんなものはないですよ??ニコリ。
「えっと……それで、何の用?」
落ちた髪を耳にかけながら先生が問いかける。
「これを提出しに来ました」
そうだよそうだよ。本来の目的はこれです。忘れちゃダメだよね。
「これ、お願いします」
差しだしたノートを見て先生は納得を顔に浮かべた。
「あ、昨日の課題か」
「はい。その……遅くなってすみませんでした」
「大丈夫だよ。それより、病み上がりで疲れが溜まってたりしてない?」
若干いつもより疲れているかもしれないが、多分気のせい。
「……多分大丈夫です」
「そう?無理しすぎないようにね」
推しからの心配その2!?
これは何が起こってますか!?
「それにしても、リーナが体調を崩すなんて珍しいね」
「そんなこと、ないです」
私だって人間だからねぇ。先生も人間です。ウフッ。……と考えてやばいやばいと思い、表情を引き締める。
変な表情をして引かれて嫌われないようにしなければ。もし先生から嫌われてたら私、悲しすぎて絶望する。世界がモノトーンになるわ。
「明日の魔術実技、楽しみにしてるね」
先生はそういうと、ガセボから去っていった。
え、何、去り際の後ろ姿まで美しいんですけど。髪が風で美し〜くなびいてますぜ?何これ最高すぎる。
それにしても今日はついているよ!!
推しの寝顔が見れるとか、何これ天国ですか?
推しの〇〇→推しの寝顔




