1 推しがマジで可愛い
久しぶりの投稿でドキドキしてます!
どうぞ、よろしくお願いします!
……推しが、かわいい。
いやマジで可愛い。かわいいだけじゃない。可愛綺麗だ。可愛いかつ綺麗。
笑った時の笑顔、まじ可愛い。
更に言うなら、3年間、ずっと推してる。
……だけどそんなこと、絶対絶対ぜ〜ったい口が裂けても言えないんだよね。
だけど、言いたくなるじゃん!
私の推し、マジで可愛いって。最高だって。
だから、そこのあなた。
私の推しのこと、聞いてくれませんか!?
◇ ◇
遠くから、微かに聞こえるピアノの音。聞こえるか聞こえないのか、そんな微妙なバランスだ。いや、実際には聞こえないだろう。私は無理やりこの音を聞こうとしているのだから。
鍵盤の底までしっかりと触れているその音は、少しだけ鋭い。だけど、柔らかくもあり、豊かな色合いを含んでいた。
「リーナ、どうしたん?」
予想外の大きな音に驚く。きっと、無意識にあの音の発生源を追っていたのだろう。だけど、他の人には、きっと聞こえない。
予想外の大きな音の発生源……エイミーの方を向いて答えた。
「ん?なんでもないよ」
「そう?」
「そう」
等間隔に綺麗に並べられた椅子。……そう、私たちが朝から苦労してせっせと並べたものだ。
「楽しみだね〜。どんな子が入って来るのかな」
「さあね。どっちにしろ1年生は科で分かれてないからエイミーが楽しみにするのは2年生の方じゃない?」
「そうかも」
国立ランテーズ学園。
国内屈指の4年制名門校で、倍率は毎年100倍を超える。
入学資格は金持ちから平民まで、その出自は問わない。必要なものは本人の実力と才能、そして意欲。
そんなランテーズ学園4年生、魔術科所属の私、リーナ・ヴェルネ。
学園での最後の年が始まろうとしていた。
◇◇
「……ことを願っています」
学園の創立以来の歴史を長々と語られ、そこからこれからどのように学んでいくか、長々と語られた理事長が登壇する。
……マジで長い。なんなら寝たい。だけどそんなことはできないんですよねー。はぁ、悲しい。
「続いては新入生歓迎の言葉。在校生代表、ソフィア・バレッタ」
はい、という明るい声の返事。彼女が登壇したタイミングで私たちは立ち上がる。そして、彼女に合わせて礼。
……はぁ。なんで私たちは立ったり座ったり礼をしたりしなくちゃいけないんだろう。
これがあるせいでおちおち眠ってもいられない。
早く終わらないかなぁ。
「新入生の皆さん、ようこそ、ランテーズ学園へ!」
ありきたりなセリフと共に、朗々と言葉が紡がれる。
だけど、私には右から左へ、流れるように抜けていく。そんな時間に飽き飽きとしてそっと視線を動かす。
ずっと前には緊張からか、肩が上がっている新入生。その後ろにいるお上品なお父様お母様方。飽き飽きとしているけど一応はちゃんと姿勢を正している生徒。斜め前を見れば先生の密集地帯。だけど、そこに私の探している人はいない。
……果たしてこんな長い時間、入学式をやる意味があるのか? いや、ないでしょ。
そうなると私の思考は一気に飛ぶ。所謂、現実逃避ってやつだ。
「続いて、職員紹介に移ります」
その声に我に帰り、前をみればゾロゾロと先生方がステージ上に上がっていくところだった。
立派な髭を持つ校長先生により一年生担任の先生から紹介されていく。
セーフ。気づいてよかった。下手したら聞き逃してたわ。
視界に映る鮮明に映る銀の髪に私は心を躍らせる。
その美髪の持ち主が、最前列に出た。
「4年魔術科担任、クレア・リンパル先生」
美しくお辞儀をするその仕草に私は見惚れる。
サラリ、とポニーテールにされていた髪が肩を滑った。顔を上げたその時に、そっと髪を払うその仕草さえ、様になっている。
「魔術科薬医学を担当されます」
「やっと終わったぁ……」
長時間による苦行から解放され、私は大きく背伸びをする。
入学式後のSHR前。
先生がやってくるまで各々雑談に耽っている。
「リーナ、途中から眠そうだったもんねぇ」
「だって仕方ないじゃん。あんなダラダラと長引いてたら。10分で終わらせて欲しい」
「いや、10分は無理でしょ」
そう突っ込むのはエイミー。
ハキハキしてるけど時々天然気味の友達だ。
「ん〜、じゃあ、15分」
「ほぼ変わらないじゃん。多分、理事長の話で終わるよ」
「確かに」
理事長の話はマジで長かった。
ただでさえ長い言葉をゆっくりというもんだからたまったもんじゃない。ある意味子守唄に近い。
寝なかった私、偉い。
からり、とドアの開く音がして先生が入ってくる。
歩く時に少し髪が揺れた。言わずとして知れた我らが担任、クレア・リンパル先生だ。
「リーナ、見惚れてるぅ?」
「ちょ、エイミー……!」
「相変わらずだねぇ」
何か微笑ましいものを見るような目で言われる。
教壇立つのは私の憧れの人で。
「リーナはリンパル先生を追ってるよね」
「だって推しだもの!」
「言い切れるところがリーナらしい……」
「ありがと!」
「いや、褒めたつもりはないんだけど……」
もちろん、この会話は小声だ。
先生に聞かれたら生きていけない。主に羞恥の面で。どんな顔して顔合わせればいいんだ!?っていう感じ。
私的には姿見れるだけでマジ嬉しい。キャパオーバーせずに冷静に(?)いられるのはこれくらいの距離感なのだ。
「リーナは奥手だなぁ……」
その声は聞こえなかったことにした。
クレア・リンパル。
ランテーズ学園魔術科薬医学教師であり、国家薬医学魔術師資格を持った、私たち4年魔術科の担任。
多くの優れた研究をして論文を書いており、まだ若いながらも、魔術界では有名な人だ。その力を私はよく感じており、すごく尊敬している。
そして、裏では4年生や魔術科の一部の生徒からは「リンちゃん」と呼ばれている。……私はほとんど口にしないけどね。ただし、心の中ではちょくちょく呼んでたりする。リンちゃん神ってるぅ!って。
気づいたら人の輪に溶け込んでいるコミュ力を持ちながらもよくよく考えると自分のことはあまり話していない、少し秘密主義。
限りなく銀に近い緑の髪をポニーテルにして軽く巻いている、美人さん。
私はそっとその言葉を口に転がす。
「私の推しがマジで可愛すぎる」
だけど、そんなこと絶対に言えないんだよね……。
お読みいただき、ありがとうございました!
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