Chapter1『眠りにつく街で眠れない私』7
「僕のことスケアリーだって思ってる?」
もしかしても何も、一目見た瞬間からそう思っていた。
私が想像する吸血鬼像そのものの容姿もだが、彼の人間離れした美貌からも"普通の人間"らしさが感じられなかったからだ。
彼の持つ美貌は心が惹かれる美しさではなく、見た者を怯えさせるような美しさなのだ。
怪物には、人間を誘惑する為に美しい容姿を持つ者が多いと聞いたことがあるし、その点も踏まえロディはスケアリーなのだと勝手に思い込んでいた。
「違うの?」
「いや、あってるよ。あってるんだけど、うーん…完全にそうとは言えないというか、少なくとも今の僕はスケアリーだ」
「今の僕は?」
ロディは一呼吸置いた後、それまでの明るい表情を真剣なものに変え、こう言った。
「僕達は、普段は人間だけど0時から6時の6時間だけスケアリーになるんだ。それ以外の時間はただの人間で君達と変わらない」
「普段は人間ということは、0時になったらその容姿に変わるってこと?」
「うん、そうだよ。僕は吸血鬼のスケアリーなんだけど、肌の色、髪の色、瞳の色、そしてこの牙!全部普段の僕とは違うんだ」
そう言うと指で口を横に広げ、鋭く尖った牙を見せてきた。
顔に似合わず無邪気な仕草をする人だと思ったが、陽だまりと蜂蜜が混じり合ったようなやわらかく甘い声にはその無邪気さがよく似合っている。
「顔の造りはそこまで変わらないから、ゲームでいうと2Pカラー的な感じかな?」
「ゲームはやらないから分からないのだけど…」
ロディは少し残念そうな顔をした。
「そっかぁ…。でも確かに、居ても立っても居られなくて、夜中だっていうのに移住初日の街を歩き回れる行動力はインドアって感じがしないな」
「僕も見習わなきゃなぁ」と自嘲気味に笑ったが、そんな笑い方すら絵になる。
「でも、顔の造りはそこまで変わらないってことは、顔の良さは元々のものなのね」
「それって、僕のことカッコイイって言ってくれてる?」
私の顔を覗き込んだかと思うと、目を細め悪戯っぽく笑った。
ロディの快活で人懐っこい人柄に触れたからだろうか。
つい先程まではその美貌が恐ろしいものに見えていたのに今ではその感情が薄れ、恐ろしさのない彼の美貌は、例えるなら小さな頃から大切にしてきた宝石のような安心感のある美しさだ。
そんな美しい少年が、私の顔を覗き込み悪戯に笑うのだ。
私は動揺して咄嗟に目を逸らしてしまった。
ロディにこんなことをされたら、きっと誰だって同じ反応をするだろう。
自分でも分かるくらい顔が赤くなる。
その恥ずかしさからニットカーディガンに顔を埋めた。
ロディはそれを、単に顔を近づけ過ぎたから嫌がったのだと勘違いしたのか「わ!ごめんごめん。つい…」と謝ってきた。
「歴史上のスケアリーには顔が整ってる人が多かったらしくて、そのスケアリーの要素がある僕達にも顔が整ってる人が多いんだ。自分ではそうは思わないんだけど、確かに他の皆はカッコ良かったりキレイな人が多いんだよね」
謙遜しているのか本当にそう思っていないのか、判断に困るトーンでそう語る。
「ちなみに僕達にスケアリーの血自体は流れていなくて、今僕が"スケアリーの要素"って言ったのもそれが理由なんだけど、スケアリーの血はさっき君が言ったとおり、スケアリー最後の女性といわれる『マリア・スウィーニー』が亡くなって完全に途絶えたんだ」
「え?スケアリーの血が流れているわけではないのに、スケアリーになるってどうして?」
ロディは難しい顔をしながら「うーん…」と唸る。