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午前0時のスケアリータウン  作者: 三森れと
Chapter1『眠りにつく街で眠れない私』
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Chapter1『眠りにつく街で眠れない私』5

人間から迫害されたスケアリー達は、どんな気持ちだったのだろう。


当然良い感情は持っていないだろう。


職も家も、何もかも奪われて、明日生きながらえることだけを考えていたスケアリーにとって、たった6時間だけでも安心して過ごせる場所があるというのは、どれだけ心安らいだか。


スケアリーを助けた魔法使いだって、彼らのその様子を見て、人間達から庇いきれなかったことへの悔恨の思いが少しは薄れたであろう。


そのような経緯があってかけられた魔法なのに、今日の私のような『たまたま眠らなかった者が現れる』という不具合が起こるなんて、そんなことあって良いのだろうか?


いや、あってはならないだろう。


そんなことがあっては、たまたま眠らなかった者がスケアリーの存在に気付き、目を覚ました人間達に言いふらしかねない。


歴史として現代を生きる私達に伝わっている以上、何かをきっかけに魔法の存在を知られることになったのだろうが、おそらくそれはスケアリーの血が完全に途絶えた後の話だ。


父から聞いた話だが、少なくとも街に魔法がかけられてからの数十年間、スケアリーは平穏に暮らしていたらしい。


勿論、人間が眠りにつく6時間以外の時間は何も変わっていないのだから、スケアリーにとっては辛い時間の方が多かっただろう。


それでも、これまでは四六時中人間の目を気にしながら生きてきたスケアリーにとっては、例え6時間という短い時間であっても至福の時だったのだ。


魔法使いも影から支えていたようで、最後のスケアリーと呼ばれた女性が生涯を終えるまで、スケアリーにとっては平穏な日常を過ごせていたらしい。


ーーつまり、平穏に過ごせていたということは、魔法の存在に気づかれなかったということだ。


ということであれば、6時間の途中に目が覚めた人間や、0時になっても眠らなかった人間はいなかったということではないだろうか。


ーーそれなのに、何故私眠らなかった?


魔法とは無縁の私が行う当てにならない考察だが、数百年前にかけられた魔法だから効果が薄れたのではないだろうか。


だから、私のように眠らない者が一人は出てしまうのかもしれない。


まぁ、どれだけ考えたところで、魔法を使えないただの人間である私に答えを出すことはできない。


答えをだすことはできないが、『スケアリーが生きている時代に、このようなことが起きなくて良かった』とは心の底から思った。


もし私が当時を生きる人間だったとして、今の私の状況はスケアリーにとって平穏な時間を壊しかねない脅威そのものだ。


今までもこれからも出会うことのない存在ではあるが、私は彼らを傷つけたくないと心から思う。


だから、このようなことが起きたのが今で、もう彼らが存在しない現代で、本当に良かった。




ーー音を発するものは私と時計の秒針のみで、まるでこの世界には私しか存在しないのではないかと錯覚する程の静寂。




誰にも邪魔されることのないこの静寂さは、考えを巡らすのに最適だ。


つい考え込んでしまい、周りのものは一切見えていなかった。


いや、どうせ私以外起きていないのだからと、気にする必要がなかったのだ。


だから、私は気が付かなかった。


私に向かって何かを叫びながら走ってくる存在に。


その存在の足音、息づかい、声をやっと認識できた頃には、私はその存在に腕をグッと強く掴まれていた。


「!」


自分以外にも起きている者がいたことへの驚きと、強く掴まれた腕への痛みで声が出なかった。


声が出ないかわりに、私はその存在をまじまじと見つめた。


それは、私より頭一つ程背の高い男性だった。


15歳の私よりは年上に見えるけど、それでもそこまで歳は変わらないように見える。17歳くらいだろうか?


一目見た瞬間、思わず怯んでしまうような、恐ろしささえ感じる美貌の少年。


腕を掴んだ手から伝わる体温は熱いのに、それに反して肌の色は白い、というより病的に青白い。


街灯が照らす絹糸のような髪は金色のようにも銀色のようにも見える不思議な色だ。


長く伸ばされた前髪から覗かせる切長の目、瞳は見つめた者の中に流れる血をそのまま吸い取ったかのように赤い。


そして、走ってきたことによる呼吸の乱れを整えようとしているのか、その為に開かれた口から見えるのは長く鋭い歯、いや、牙だ。


少年は、私が、いや、ファンタジー作品を目にしたことがある者なら誰もが想像する『吸血鬼』のような容姿をしていた。

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