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午前0時のスケアリータウン  作者: 三森れと
Chapter1『眠りにつく街で眠れない私』
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Chapter1『眠りにつく街で眠れない私』2

………


【23:30】


普段は22時半頃のタイミングに飲むカモミールティー。


子供の頃、寝付きが悪かった私のために父が淹れてくれたのをきっかけに、睡眠の悩みがなくなった今でもルーティンとして飲んでいる。


いつもなら22時半頃に飲んで23時にはベッドに入るようにしているのだが、今日は0時まで起きている必要があるので、いつもより30分ずつスケジュールがずれている。


せっかくなら父と一緒に0時を迎えたかったが「今日中に書かなければいけない原稿があるから」と、夕食の後すぐ自室にこもってしまった。


そのような状況だというのに「引っ越し記念のご馳走を食べよう!」と豪華な夕食を用意して一緒に食べてくれる、娘思いの父を困らせるわけにはいかない。

私一人で0時を迎えよう。


それに、父からは「もし0時を過ぎても眠ることがなければ、その時は俺の部屋に来るといいさ。お前のドヤ顔を見てあげるから」と言われているので、0時になったらお望み通りドヤ顔を見せつけてやろうと思う。


【23:55】


私の自室と父の自室は隣り合っていて、耳を澄ませば父の生活音が聴こえてくる。


生活音と言ってもちょっとした音であれば、扉と窓を閉めていれば当然聞こえない。


聴こえてくる生活音というのは、引き出しを乱暴に閉める音や、ぎっちりしまわれたところに無理やり本を戻した時の反動で本棚が壁に当たる音のことだ。


防音とまではいかないがそれなりに厚さのある壁なので、父が物や家具を丁寧に扱う人だったなら、これらのお音も聞こえなかっただろう。


過去に何度か注意したことはあるが一向に直す気配がないし、嫌なことがあった日は父の出す生活音に安心感を覚えたりもするので、よっぽどのことがない限りはもう言わないことにしたのだ。


「もうすぐ、父さんにドヤ顔を見せつけにいく時間ね」


取り付けたばかりの、1秒の狂いもない壁時計の針を見る。


カチッ、カチッと規則正しく動く針は、気づけば23時59分30秒をさしていた。


「あと30秒か」


ここからは時計を見ず、自分の体内時計を頼りに0時までカウントダウンすることにした。


「…26、25、24、………20、19、」


すぐ父の部屋に行けるよう、残り10秒のタイミングで部屋のドアノブに手をかけた。


「10、9、8、」


残り7秒のタイミングで、隣の父の部屋から再び引き出しを閉める音が聞こえてきた。

ーー本当に乱暴なんだから…。


「…6、5、4、3、2、1、」


『0』


そう口にしたと同時に、


ーーゴーン、ゴーン、


窓越しに鐘の音が聴こえてきた。


スケアリータウンにはどこにいても鐘の音が聴こえるよう街のいたるところに鐘が設置されている。


教会であったり、ホテルのような大きい施設であったり。


人通りの少ないところにも鐘の為に設計されたのであろう小さなオブジェが設置されている。


建物の外観や街中の景観に合わせて塗装された多種多様な鐘達もスケアリータウンの見所の一つだ。


私達が今日から住み始めたマンションから一番近くの鐘までは5分程の距離で、窓越しでもそこそこ大きな音として聴こえる。


眠りが浅い日であれば目を覚ましそうだが、熟睡していればどうだろうか。


「父さんは眠りが浅いから目が冴えてしまうかもしれないわね。…って、そうだ!」


今後の睡眠事情を思案するのは後にしよう。


0時になった瞬間強制的に眠ってしまうなんて話、やはり都市伝説だったじゃないか。


であれば、私の方が正しかったと父に言いにいってやらねば。


正しかった方が何でも願いを叶えてもらえる、そんな賭けでもしておけば良かった。


今からでも言えば聞いてくれそうだな、ーーそう考えながら自室から出てすぐ隣にある父の部屋をノックした。

「父さん、私。入るわよ」


返事を待たずにドアを開ける。


「………」


いつもなら部屋に入った瞬間「どうした?」と振り返ってくれる父が、何も反応してくれない。


今日のように原稿の締め切りが迫った慌ただしいタイミングだとしても、私が声をかければ律儀に振り返って声をかけてくれるあの父が、今日は何の反応もしないのだ。


「あれ?父さん、もう寝たの…?」

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