Prologue『スケアリータウン』2
この体質は所謂身体のメカニズムによって生まれたものではない。
いつからかこう呼ばれるようになり、もう元々の街の名前を覚えている者はいないくらい定着してしまった『スケアリータウン』…そう呼ばれるこの街の歴史が、この体質と関係しているのだ。
ーーこの世界に"魔法使い"と呼ばれる存在がいた時代、魔法使いと同じく存在していた"スケアリー"と呼ばれる者達は人間達から忌み嫌われていた。
スケアリーとは、人間の血に怪物の血が流れている者の総称。
スケアリーは"見た目以外は"ごく普通の人間と変わらないのだが、その血に流れる怪物の身体的特徴が身体に現れ、稀に特性まで現れる者もいる。
怪物の種類は様々で、比較的多い種類の中から挙げるのであれば吸血鬼、獣人、透明人間あたりであろうか。
人間からしてみれば魔法使いも怪物の一種のように思えるが、魔法使いとスケアリーの大きな違いは"魔力を持つか持たないか"。
魔法使いは魔力を持ち、その力を自分達の為、そして人間の為に使っていた。
しかし、スケアリーは見た目以外は普通の人間と変わらない。
人間に怪物の血が流れている"だけ"なので、魔力を持たない者が殆どだ。
稀に魔力を持つ者がおり、身体的特徴だけではなく特性…吸血鬼で例えるなら吸血衝動だろうか。
そういった特性まで現れる者は微力ながら魔力を持っているが、そういった者達はスケアリーの中でもごく僅かしかおらず、人助けが出来る程の魔力は持っていなかった。
『自分たちにとって何の役にも立たない存在。だけど自分たちとは異なる血が流れ、自分たちとは異なる見た目をしている』
それを理由に、人間たちはスケアリーを忌み嫌ったのだ。
当時の魔法使いは世界平和の均衡を保つ存在として人間から絶対の信頼を寄せられており、又、差別的な思想を持たないことからスケアリーからも同じく信頼を寄せられていた。
その為、魔法使いは長いことスケアリーと人間の仲介役を担ってきた。
魔法使いは、スケアリーと人間で共存の道を選択できないかと長年働きかけてきた。
しかし、半々程の割合であったスケアリーと人間の数が2:8程の割合になった頃、魔法使いの力に頼らずとも生きていける十分な力を人間は手に入れ、それと同時に魔法使いの地位も低くなってしまった。
もはや魔法使いの言うことを聞く人間はほとんどいない。
そして、仲介役がいなくなったことにより、スケアリーと人間の共存の道も途絶えてしまった。
その後スケアリーは、職も、学ぶ場所も、住む場所さえも取り上げられてしまう。
自身の力足らずを憂いた魔法使いは、何とかスケアリーを救いたい、僅かな時間だけでも安心して過ごしてもらいたいと、人間たちには内緒で"ある魔法"をかけた。
『人間が眠っている間、この街はスケアリーだけのものだ。0時を告げる鐘の音と共に人間は眠りにつく。朝の訪れを告げる鐘の音…この街は朝の6時に鳴るのだったな。その朝6時まで、人間は絶対に目を覚ますことはない。0時から6時までの6時間は、スケアリーたちの為だけにこの街は存在する。せめてその時間だけでも、何にも怯えることなく自由に暮らしてほしい』
迫害されたスケアリーたちが集ったある街で、そう魔法使いは魔法をかけた。
ーーその街こそ、この『スケアリータウン』である。
魔法使いが魔法をかけ数百年以上経った今尚、スケアリータウンには魔法がかけられたままだ。
この世界に、魔法使いとスケアリーはもういない。
だけど魔法はかけられたままなのだ。
その為、この街の住民は0時から6時までの6時間、目を覚ますことなく眠りつづけるし、街全体にかけられた魔法である為住民でなくとも街に足を踏み入れればその瞬間この体質になってしまう。ーースケアリータウンの魔法にかかってしまうから。
勿論、街から出れば元通り、スケアリータウンで生まれ育った者も街から離れれば"普通の体質"になる。ーースケアリータウンの魔法が解けるから。
そう、正確には『街にいる者の特異体質』ではなく、『数百年経っても魔法が解けないスケアリータウンという街に現代の人間が巻き込まれ、当時の魔法がかかってしまう』ということなのだ。
しかし、長ったらしい説明…それも、現代の人間には縁のない"魔法"という存在が絡んだ長ったらしい説明をされるよりは「そういう特異体質です」と簡潔に説明された方が納得できるということで、『住民及び街に訪れた者にのみ現れる特異体質』ということになったのだ。
そして今日も、街にいる者は眠りにつく。
ーーゴーン、ゴーン、
街中の鐘が一斉に鳴る。
その鐘の音を合図として、0時までに眠りにつくことができなかった者達も規則的な寝息を立て始めた。
ーー住民も、街に訪れた者も、0時から6時までの6時間は目を覚ますことなく眠りつづける。
ーーーその6時間だけ目を覚ます、この世界からいなくなったはずの"彼ら"の存在に気づくことなく、眠りつづけるのだ。