第2話 戯心闇祈ハレーション
宙さんに連れられるままに、私は気付くと校舎の屋上にいた。
「それで、お話というのは…?」
「私が『Galaxias』を生み出した宇多田株式会社の社長、宇多田克宗の娘だってことはご存じですの?」
「え…?えぇぇぇ!?そ、それ初めて聞いたんだけど!?」
「それで、我が社でお父様お墨付きのプログラマーの方のご子息の方が昨日のシステム不良について何か知っていることがあるのではないかと思ったのですが、放課後に訪れてみてはどうですの?」
「え?その子たちってすごいの?」
「サイバー犯罪について中学校の部活として捜査しているそうですの。案内はいたしますので」
「そっか。それなら、放課後に正門前集合でいい?」
「はい。喜んで」
*
いやぁ、まさか宙さんがあの宇多田株式会社のご令嬢だったなんて…。そりゃ生徒会長やるか。
あと、何で私、宙さんに向かって好きだって言ったんだっけ?
「待って、咲良!」
「あれ、小春ちゃん?どうかしたの?」
「いや、咲良が急に生徒会長に好きだとか言うし、屋上連れてかれちゃうし…。まさか、生徒会長に人の前で言えないようなことでも言われたの?」
「いや、そういう訳じゃないけども。あ、あと、宙さんに好きって言ったのは言おうと思って言った訳じゃないからね!?」
「ならよかったぁ。それで、言いたくて言った訳じゃないって何かあったの?」
そして、私は朝からの一部始終を話してみたけど…。
「ふぅん。じゃあ、私のことはどう思ってるの?」
「え、でも、さっきまでのアレは急に私の口から出たヤツであって…」
私の体は、急に1歩踏み出した。気づいた時には、小春を抱きしめていた。
「あ、あれ!?私ったら何やってるんだろ?あ、あー、最近暑くなりだしてるし気でも狂ったかなぁ?」
自分でも収集が追い付かなさすぎる。どうしたら、急にこの美少女を抱きしめようとした私よ。あの時は仕方がなかったとして。誰かに体でも乗っ取られてるのかな…?いや、それは考えすぎかな。
「案外ツンデレなとこもあるんだね。私を助けてくれた時もそうだったじゃん」
「で、でもあれは仕方なくてで…」
そう、あれは丁度2年生に上がって3日目くらいの時だった
*
私、立花小春は限界が来てしまったみたいだ。家に帰っても親は無し、無愛想で乱暴者の兄しかおらず、ボロアパートで寂しく育った。人付き合いが苦手だった私には小学校の頃から友達もごく僅かで、陰口も散々叩かれた。そんな私でも、兄の苦労の末、高校に進学はできたが…。
1年生も面白いことがあるわけでも無ければお金がなくて研修に参加できず、その上友達もできず、ただ兄のお下がりのガラケーで動画サイトとにらめっこする日々。
2年生に上がって3日目、数学の苦手な分野でイライラしていると、急に賢者モードになった。こんな人生なら、いっそ死んで次に賭ければいい、と。
保健室に行くフリをして階段を駆け上がり、屋上へ行った。
ありがたいことに、この学校で自殺者の前例も屋上でのトラブルもなかったことで屋上は誰でも行けた。まぁ、それがこの学校の良さでもあったけど、もう
お別れ、だ。
何故屋上から飛び降り自殺する女子高校は靴を脱ぐのだろう。この認識は私だけだろう。そんなこと考えたところで意味はないとは分かっているけど。
ここに来る過程で美術準備室から盗んできたペンチで金網を切り、剥ぎ、私はフェンスの外にいた。そこは立っているのがやっとでバランスを崩せば真っ逆さまに落ちてしまいそうだった。
――それで私は楽になれるのかな
でも、金網を掴んだ指が何かで硬直してしまい、右手が離せない。何かが私の目から溢れでた。
こんなはずじゃなかった。まるで、悪戯心でここまで来て戻れなくなって泣いているみたい。こんなどん底で祈ったって、自業自得。どうせ助けなんか来ない…。
「キミ!?何やってるの!?」
後ろから同学年くらいであろう女子生徒が駆け寄ってきた。こんな姿見られちゃ、生きてられないよ。でも、まだ私の右手はまだ硬直している。まるで、まだ生きていたい、と叫んでいるように。
「私なんか放っておいてよ!」
「そんなことできないよ!だって私、キミを見殺しになんかできないし…」
「死にたいのは私の勝手!あなたが関わる必要はない!」
「…ごめんね。ずっと声掛けれてなくて」
「…どういうこと?」
「私、ずっとキミが気がかりだったんだよ。いっつも悲しそうな顔してたし、美術準備室からペンチ持ち出すなんて怪しいじゃん。だからつい、放っておけなくて…」
「でもそれ、あなたの自己満足でしょ?」
「そ、そりゃ別にあなたのことが好きだったからとかじゃないけど…」
そう言いながら彼女は私の右手を金網からほどいて、力いっぱいに抱きしめてきた。
「ひ、1つしかない命は大切にしないと!辛いこともあるけどしっかり生きて。まぁ、これも私の自己満足だけど…」
その後何故か2人して泣きじゃくったことは、私と咲良の秘密。
*
「今日の放課後は正門集合だよ」
「そっか。咲良、これからも私の歌姫でいてくれる?」
「私はみんなの歌姫だよ。だから、もちろん小春ちゃんの歌姫でもあるよ」
「じゃあ、私だけの最高の親友でいてくれる?」
「そういう時は最高の親友じゃなくて、マブダチって言うんだよ。まぁ、細かいことはいっか。うん、私はいつまでも小春ちゃんの最っ高の親友だよ!」
続く