第一章 第七話 【〝朽の使者〟】
どこから来たのか────ホラスのその問いに、リョーガは自分が通ってきた場所の話しをした。
目が覚めたら邪龍王の遺骨の隣りだった····。
にわかには信じがたい────いや、リョーガのいた世界ならまず鼻で笑われるか頭を心配される様な話を聞いた二人が黙り込む。
「────」
その不自然な間に、リョーガは密かに身構える。もしかしたら龍の骨の事は話さない方が良かったかもしれない。
「はぁ·····」
コロルが鼻をスンとすすって俯く····。
その目から落ちた一筋の涙がゆっくりと頬を伝った。そのすぐあとから、さらに大粒の涙がテーブルに落ちた──。
コロルは、泣いていた。
「いや、すまねぇ····」
「ええがな·····」
コロルが、ホラスに背中を軽く叩かれて涙を指ではらう。
「本当に、終わったんだな·····」
「神っておるんじゃねぇ·····わし無神教だけど。」
「····ってかなんで泣いてんだよ」
ただ一人、場の湿った嬉し泣きムードについていけないリョーガが頬をかく。
その微妙な空気感を察したホラスが、静かな口調で説明を始めた──
「まぁ龍の死骸の言い伝えは探せば幾らでもあるから適当に流してもらって構わんのだが·····数ある逸話や予言の一つに、〝朽の使者〟ってのがあってな·····」
「〝朽の使者〟·····?」
聞いたことない単語に首を傾げるリョーガ。朽の使者·····少し語呂の悪い感じのする言葉だ。
「〝龍の骨、廻転する時、朽の使者がその報せを伝えるだろう〟·····。」
「まぁ···」と、少し区切ってお茶で口を潤してから話を続ける
「人間、長い事生きてりゃ時々自分達の仕事が本当に意味あるものか分からんくなる····。
だが続けなければならぬ───ならせめて希望を持てるように、楽しい話を信じた方がええじゃろが·····。
全てが終わった時に、その喜びを告げる者がおらねば救われん」
人々の望みから生まれた伝承───、
「───ま、われが本当にその〝使者〟かは分からんがな」
それだけの事を話し終えたホラスは、カカ─と笑った。
湯呑みを置くコトリという音だけが、静寂に満たされたこの場に響いた····。
長い、長い沈黙が続いた────別に不快ではなかった。
相変わらず話とムードにはついていけなかったが·····。
「じゃ、わしゃこれで·····祭りの準備せにゃあかんけん!」
楽しみにしとけよ、と言って最後にパン、とコロルの背を叩いたホラスが日光に満ちた外へ姿を消した。
「なァ、リョーガ·····。まだ会って一日も経っとらんが、お前さんとは楽しくやってけそうな気がしてんだ」
落ち着いたのか、涙を止めたコロルがしみじみと呟く。
「なんつーか、おめぇは良い奴だよ····全然話してもないのに分かる」
何が言いたいのかいまいち要領を得ないコロルの言葉にとりあえず軽く頷くリョーガ。
心の中で酔ってんじゃないかとツッコミながら、転移してからの出来事を整理していく。
自分で言うのもなんだが、リョーガは、自分は良い奴だと思っている。
まだ数人としか会話していないが、この村の人達は良い人だ。
そしてリョーガは、良い人を邪険にする程図太い神経は持ち合わせていない。
「お前さんが〝使者〟で、もしオレの頼みを聞いてくれるってんなら·····ついてきてくれないか?」
顔を上げたコロルの目線が、写真立てに吸い寄せられる。
涙のかわりに決意を浮かべたその目をリョーガに向けて言った────
「オレと娘の話し合いに─────」
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