第一章 第六話 色褪せぬ血
「·····ってわけだ」
「な···るほど····?」
万歳地獄から1日────。
よく晴れた日の午後、リョーガは一階の低いテーブルに胡座をかいて座っていた。
「まぁ、オレの代で終わって良かったよ」
リョーガの向かい側に座ったコロルが、写真立ての写真を見てしみじみと続ける──、
「ちょいと面倒な事になりそうだが·····娘には自由に生きてほしからな」
コロルの言うことによると、この村は〝ある目的〟のために、遥か昔──千年も前に作られたものらしい·····
◇
千年前────
時朽ちてなお、後の時代に語られるようになる
大いなる邪龍王【レベリオン】と、その配下の魑魅魍魎が跋扈していた頃の話···
·····ではなく、その後始末の話だ。
〝村〟の存在意義は、邪龍王が倒された後、その亡骸を封印した邪龍王城を見張る事だった。
千年前、勇者一行の結界術士が討伐した龍の死骸を龍王城ごと封印した。
勇者が殺したとはいえ邪龍王は邪龍王·····何かの拍子に意識を復活させないとも限らない。
そういった周囲の懸念を受けた勇者は、仲間の結界術士に邪龍王の死骸を城ごと封印させたのだが、いくら凄腕の結界術士でも所詮は人間である以上、完全に回復した邪龍王を留められる程の結界は作れない。
魂を勇者に砕かれても、邪龍王は邪龍王·····何かの拍子に完全回復しないとも限らない。
そういった周囲の懸念を晩年になって再び受けた勇者は、自らの子孫で結界術の素質を持った者に子孫代々、邪龍王の死体が朽ちるまで見張る事を命じた。
命じられた勇者の子孫·····それが初代 クーストス・ペカトール である。····実に頭がハゲ上がりそうな名前だ。
そして千年···時に注目され、時に忘れられ·····世間に助けられたり、邪魔されたりしながらも、一族と村の人々は先祖の約束を守り続けてきた。
邪龍王が復活した時、誰よりも早く世界に警告するために·····。
確実かつ迅速に邪龍王の復活を知るために、クーストス一族には特殊な力が与えられた。
祖先の血に残る並々ならぬ結界術の素質·····そしてもう一つが、魔力の存在を感知する力だ。
魔力の存在を感じる事ができる者は決して少なくない。
それなりの腕を持つ者なら大なり小なり魔力の存在を〝見る〟ことはできる。
だが当然ながら、その領域にたどり着くには豊富な経験と才能が必要だ。
しかしクーストス一族は、生まれながらにしてそれができる。
まさにチート、圧倒的チートの塊ッ!
「ずりィ」
「ガハハハッ!そりゃすまねぇ!」
リョーガの小さな妬みを豪快に笑い飛ばしたコロルが、湯呑みのお茶をグッとあおっていると──
「おいコロル、酒はこれでえ····おぉ!われ、元気になったんか!」
扉を開けて入ってきた男が、リョーガを見て大きな声で笑う。
農家のおじちゃんといった感じの老人で、白髪頭をみるに六十代は過ぎているのだろうが、シャンと伸びた背すじと日に焼けた精悍な顔立ちで、あまり歳をとっているようには見えない。
「おぉ、とっつぁんか」
コロルにとっつぁんと呼ばれた男が、草鞋を脱いで上がってくる。
「そうか、起きたばっかだから何も説明してなかったな····」
コロルが立ち上がって、リョーガに男を紹介した
「この人は レンブルー・ホラス ·····お前さんが溺れてるとこを見つけて助けた人だ····あとオレの義父でもある。」
「まぁ控え目にいーて命の恩人ってわけだ」
ヨロシクと手を差し出したホラスと握手して礼を言う。
「サンキューじっさん!」
「さんきゅ?·····まぁええけどね?じっさんはじっさんじゃけん」
ホラスは、じっさんと呼ばれたことに若干の不服を表しながらも話を進める。
「で?われなんちゅーんだ?」
「サガラ・リョーガだ····リョーガって呼んでくれい」
訛りの強いホラスに釣りこまれてついこっちまで訛りかける。
「で?どっからきたんじゃ、われ?」
「どっから来たって言うか、なんつーか·····」
質問に少しドキリとする·····。頭の中を、今聞いた邪龍王の話が駆け回る。
自分が転移した真っ暗闇な洞窟───巨大な龍の全身骨格があったあの洞窟が、コロルの話した邪龍王の話と無関係だとは思えない。
·····というか俺が見た龍の骨は、まんま邪龍王の遺骨である可能性が高い、ってか多分それだわ、うん。威圧感パなかったもん。
問題は、その事を言うべきか言わないべきか。
邪龍の城から来たというのはどうも心象が悪い。
そこから来たのではなく、通ってきた事にしようか。
「あー·····ここだけの話なんだが····」
「「ん?」」