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ィ世界天龍;ドラグーン  作者: 鰹節の会
第一章 龍の肺は千年の時を刻み
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第一章 第二話 ドラゴンアゲート


「ぅぁ?·····ウゲッ、ゲボっ····」


 鼻から流れ込む強烈な悪臭に嗚咽がもれる。

あまりの死臭に晒された目が涙を溢れさせる。


「うェェェ、ゲェぇぉェェ·····」


何処だ····ここ····。

 涙を流し、喉を逆流する胃液を必死に止めながらも、できるだけ心を静める。


───洞窟の中のように見受けられる周囲は、陰気な暗闇に包まれている。



 しばらくの間身動きを取れずに地面に突っ伏したままでいると、鼻が慣れてきたのか悪臭が少しだけ収まった。


ジャリジャリと音を立てながら何も見えない暗闇の中に立ち上がる。

 どうやら嗅覚と共に視覚もこの空間に適応してきたようで、さっきまでは文字通り一寸先も見えなかった闇も、今では薄らと輪郭が分かるまでになっている。



「·····!?」


 辺りを窺った時、自分の背後に〝ある物〟を見つけ、暗闇の中で1人、息を飲んだ───


 濃い闇と悪臭の中に浮かび上がるのは地面に這いつくばってこちらを向く、巨大な龍─────、の骨。



 それは骨格だけなのにも関わらず、全ての存在に有無を言わさず平伏させるだけの圧と風格があった。

····死してなお獲物を噛み砕かんとする特大サイズの頭骨を前に、リョーガはしばし身動きできずに佇んでいた。


 先程から頭を駆け巡るひとつの考えが、龍の屍を見て急速に膨らみ、広がっていく。


ポツリ····と、口に出して呟いた。



 「異世界転生·····?」



いや、どうも違う····。

龍の全身骨格から離れない頭を下に向け、自分の体を見る。


 見慣れた白い無地のTシャツに、お気に入りの黒いパーカー、歩く度にガサガサと音を立てる黒いズボン·····。

頭に猫耳が付いた様子もなし、尻尾も生えていない。そして、美少女ロリ神と出会ってチートを貰った記憶も当然ない。


····いつも通り、ただの一般ノーマルピーポーだ。



これは異世界転生じゃない····異世界転移だ。



「はぁ·····やべぇ·····」


異世界に来た事────、龍がいて魔法が存在する(多分)異世界に来れたのはこの上なく嬉しいが、懸念事項が多すぎる。


 龍の顎の骨にズラリと並んだ禍々しい牙を興味深く眺めながら頭を抱える───。



 まず水だ。

水筒は持っていたのだが、水筒が入ったリュックは自分と一緒に転移してきていない様だ。

 リュックには多少の食糧も入っていたのに·····残念だ。


 非常時に備えるのが趣味で、リュックには紐もライトもハサミも未開封の水と缶詰と方位磁石とファイヤースターターと歯ブラシと·····。

·····その他もろもろが入っていたのに。


 ため息を一つついて意識を切り替える。

ないものはない、そう割り切って状況を整理する。



 持ち物は──自分の体と、お気に入りのパーカーに少し動きにくいズボン等々身に付けている服のみ·····つまりは一文無しである。



「いや、そもそもほんとに転せ····転移したのか?」


 化石鑑定士でない以上、この龍の全身骨格が本物なのかはたまた精巧な偽物なのか見分けはつかない。異世界転移よりも、薬で眠らされて暗い部屋に閉じ込められたと考える方がまだ現実味がある。 ────いや、それもないか。

 こんな説明しようのない威圧感を放つ超絶リアルな龍の骨を作れるとは思えない。



····暗闇の中で1人途方に暮れる。


「·····マジでどうしたらいいんだ?」


 口を飛び出た呟きが、底のない暗黒に溶けて消えた。

時間と共に夜目は効いてきたが、とても目前の深い闇を透かすには程遠い。


 生まれて初めて、星灯りも、電気も無い暗闇·····真の暗闇を知ったかもしれない。少なくとも、ここまでの暗闇は今まで見たことがない。

 体を重く取り巻く闇は、まさに漆黒という言葉で呼ぶに相応しい代物だった。



「よし·····」



 覚悟を決めて一歩を踏み出す····。

たったそれだけで、今まで見えていた龍の骨は視界から掻き消えた。


小刻みに、少しづつ、本当に少しづつ、歩みを進める────



 つま先に何かが当たる。

何度か足でつついた後に、意を決して手で撫でると、岩の様なザラザラした手触りが感じられた。──長いようで、短いような時間が終わる。



 どうやら壁にぶつかったらしい。


こんな時はあれか····左手の法則か。

 左手の法則とは、迷宮を確実に脱出する方法で、内容はいたってシンプル·····ただ壁に左手をつけたまま進むだけだ。



 何も見えない暗闇の中、唯一確かに存在する岩壁を頼りに進む。



「どれくらい歩くんだ·····これ?」


 いい加減うんざりし始めたリョーガは、左手に感じた異変に立ち止まる。

さっきまでは痛いほど壁に擦りつけられていた手の指が宙に投げ出された。


「曲がり角···か?」


少し後退して、壁に体を押し付けながら角を曲がる。



「そろそろ喉渇いてきたな····」


転移した瞬間に見た風景や、取り落としたゼリー飲料の事を考えながらただ歩く、歩き続ける。

 出来ることはそれしかないのだから。


頭に浮かんでは消える懐かしい顔、顔、顔·····。

 お母さん────お父さん──弟─────。


─────俺は今、異世界にいます。





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