第一章最終話 第十四話 【 薪割りと二日酔い 】
朝の空気を吸い込んでいる事を認識した瞬間、目が覚めた────
天井の木の木目を見ながら、リョーガは思った。
『頭がいてェ····』
理由は勿論昨夜の酒だ。
記憶が抜け落ちているのであまり思い出せないが、そこそこ飲んでしまったのだろう。
まさか記憶が飛ぶまで飲むとは·····。
忘年会って怖い····。
「酒ってこわい!」
「怖いのはテメェじゃい!····イチチ」
自分の体を抱きしめて酒の怖さを実感していると、扉を開けて入ってきたコロルがリョーガに怒鳴った。
「お?おっちゃんも二日酔いか?大人なのに情けねぇな」
「おのれこのガキゃァァァ!イッテェ!?」
自分の怒鳴り声が頭に響いたコロルが、頭を抱えて蹲る。
なんで怒ってるのか分からないが·····無様だ。
「ほれ飲め····」
「お、サンキュー」
木のコップになみなみと注がれた水を受け取り、喉に流し込む───
「ゲェッ!?にっが!?·····うぉ」
「ガハハハッ、そりゃ二日酔いの薬だぜ」
「騙···した····な·····おえっ」
「いつ水だと言った?」
コイツ·····とんだペテン師だぜ····!
だが確かによく見ると、椀の水は薄らと緑がかった色をしている。薬草でも入っているのだろう。
「あとはこれも飲め····」
「?」
コロルが腰に下げた巾着から、乾燥した黒い実を三つ取り出して、リョーガに手渡す。見た目とサイズは正露丸に近い。
椀に残った薬草汁で、実を飲み込む。
「よし、飲んだな?じゃぁ寝ろ」
「はーい·····」
扉から出ていくコロルを見てから布団に倒れ込む。
昨夜の疲れを残した体に、眠りはすぐにやってきた────
◇
「完全復活パーフェクトリョーガ様だぜぇぇぇ!」
「何言ってんだ、おめェ····」
「ネタが通じないこの切なさよ·····」
外にいた村人に、顎をしゃくらせて回復を伝えるも、ネタが通じない事にちょっぴり寂しくなるリョーガ。
····まぁ分かっていた事なので、気分を切り替えて周りを見渡す。
周囲は森のようで、明るく暖かな日差しが降り注いでいる。
リョーガが寝ていた小屋は、森を切り開いて建てられたようで、周りには切株が点在している──。
「おいリョーガ、起きたなら手伝え!」
コロルの声が聞こえてきた方を見ると、村人達が斧で丸太割っていた。·····一人が薪を割り、もう一人が薪を小屋の壁に付けられた棚に運ぶチームプレイだ。
さらに、奥の森の方では木を切り倒している村人もいる。
「薪割りはっ、早めにっ、終わらすにっ、限る····今サボるとっ、雨が降る梅雨っ、熱い夏っ、野菜収穫のっ、秋っ·····冬まで薪割りの機会が無くなるからな·····」
「ん?おう」
コロルに手渡された斧を受け取り、近くに落ちていた丸太を切株にセットする。
丸太は白っぽく、所々に薄く苔が生えている。····イメージは白樺に近いだろうか。
「ところでっ、ここはっ、どこっ·····なんだ?」
少し太めの丸太目掛けて、斧を振り下ろす────
カコンと、いい音がして丸太が二つに割れた。
「ここはっ、森のっ、はずれのっ·····薬草小屋だ。山なんかで採ってきた薬草を保管する小屋だな····昨日お前らが騒ぎすぎたせいでっ、酔っ払った奴ら全員薪割りやらされてんだぞ!」
え?なにそれ?もしかして俺のせいにされてる?
ひでぇ·····俺なんもしてないのに·····。元々酒に弱いから大して飲まなかったと思うけど、記憶がないからどうしよもない。
だんだんつらくなってきた腕を、気合いで上げて斧を振り下ろす───左右非対称に割れた薪が、左右に飛んでいく。
····今のは左の方が大きかったな。
次こそは真ん中を····。
斧を振り下ろす────左が小さい···今度は右が小さい···左が少し小さい····右がかなり小さい·····
切株の上を睨んで黙々と斧を振り下ろしていると、どこかで甲高い笛の音が聞こえた。
「よし、終わりだ·····」
「え、マジ?」
コロルに習い、斧を切株に突き刺して、近くの切株に腰掛ける。周りの村人達も、それぞれ思い思いに寛いでいる。
しばらくすると、昼食が配られ始めた。
竹の葉に包まれたおにぎりを、たくあんと一緒に口に放り込む。塩気の効いた雑穀の旨みが口いっぱいに広がる。
「なぁ、肉って食わないのか?」
「ん?·····まぁ島じゃ肉はあんまり採れないからな。たまに外から買ってくるが、オレらは基本魚だ」
「ふーん·····」
皆が食事を終えて、辺りが会話で騒がしくなる。
男子校の昼休みを彷彿とさせる光景に苦笑していると、コロルが立ち上がった────
「今日の仕事は終わりだ·····。湖の事が知りたいなら小屋を見りゃいい──、薪溜めから直角に行けば村に出るからな、日が沈むまでに帰ってくりゃいいぞ」
「!分かった」
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