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ィ世界天龍;ドラグーン  作者: 鰹節の会
第一章 龍の肺は千年の時を刻み
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第一章 第十二話 【 祭り準備 】



 今夜、日時計の影が東を向いた頃·····まぁ要するに今日の夜、村ぐるみの大きな祭りがある。理由はもちろんクーストス家の悲願成就の祝いだ。


 祝われるのはコロルと、その娘のティーこと、クーストス・アルティマ。

コロルといいアルティマといい、どうも名前っぽくない名前だ。

 異世界だからなのか、この村特有の名づけなのかは分からないが····。



 「バリッ···ボリボリ····」


 広場の石に腰掛けて、慌ただしく祭りの準備を進める村人達を眺める。近くのザルに山盛りになったおかきの様な米菓子を口に放って、お茶で流し込む。


 おかきは小さな長方形をしていて、所々に豆が埋め込まれている。

豆が入ってるタイプはあまり好きではなかったが·····これは悪くない、普通よりも少ししょっぱいからかもしれない。



「なぁおい、食いすぎだぜあんちゃん」


 空になった手をザルに伸ばしたら、お茶を足しにきた男に注意された。

 仕方なく伸ばした手を、お茶で満たされたカップに向ける。


 中身が半分程になった陶器を左手でニギニギしながら、リョーガは、もう何度目になるか分からない思いを呟いた────



「暇だ·····」



 大きな角材を肩に担いだ筋骨隆々な村人が目の前を横切っていった────







 今リョーガ座っているのは、さっき登った山のふもとの広場の椅子だ。広場の広さはちょっとした市民プール程度。

 踏み固められた薄茶の地面の中心には、盆踊りのやぐらに似た簡易的な塔が建てられている。



 コップのお茶を見つめていると、右方面から鬨の声が上がった。


 見ると、村人達が何やら立派な台に乗った岩の様な物を大勢で担いでいる。

 装飾が施された台に乗っているところを見ると、御神体のような扱いを受けている物らしい。気になったので、近くに見に行ってみる事にした。


 岩は、担いできた村人達の手によって広場の真ん中に立てられた櫓の根元に設置された。



 「これなんすか?」


「ん?あぁ、これは〝龍魔石〟といってね。強力な魔物の体内から採取される魔石の一種さ」


 櫓に腰掛けて一休みしている村人の1人に聞くと、どうやらこの岩は魔石の一種らしい。


 リョーガの魔石のイメージと違って、その岩は煤けた灰色をしていた。中心には、掠れた魔法陣のような複雑な紋様が刻まれていておどろおどろしい雰囲気を発している。

 正直あまり崇めたくはならないが、真面目な村人A曰く、普通の魔石とは比べ物にならない程希少なのだそうだ。


 魔石には二種類あって、紫色で半透明の普通魔石と、目の前にある岩の様に灰色で謎の魔法陣等が刻まれた龍魔石があるそうだ。



 「龍魔石自体はそこそこ流通してるのを見た事があるが、ここまで大きなものは見た事がない」


····と、元行商人だった真面目な顔の村人Aとリョーガの会話に、隣でお茶を飲んでいた上裸の男が割り込む────、



 「でけぇのはあたりめぇよ!なんせこの石は七天龍の一体から取れたって話だぜ!?」


「だがそれは単なる伝説だろう?そもそも七天龍の目撃例が─────」


 議論を白熱させる真面目Aとお祭り男B····。


誠に残念な事に、リョーガは生まれも育ちもジャパンなので、こっちの世界の情報には疎い····というか全く知らない。

 しょうがないので情報収集するしかない。

リョーガは議論する2人から離れて、一人、ベンチでおかきを摘んでいる老人に話しかけた。


 老人といっても体はがっしりしていて、体に老いは見えない。ハチマキが様になっている所を見るに、このじいさんも漁師らしい。リョーガが質問すると、老人は日に焼けた顔でニカッと笑って説明してくれた。



 「七天龍っつーのはな、あんさん─、邪龍王の幹部の事じゃけぇ」


「ほーん····」


 自分も近くのザルからおかきを取って齧りながら、老人の話を拝聴する。



 「千年前に勇者様ん一行が戦った〝九天龍〟っつーそら強えぇ九体の幹部魔物達の生き残りだんべ」


 「へー、二体は勇者が倒したんだな」


「いや、九体全員倒したんっちゅーが、七体が後から復活したっつー話じゃけ」


 しばし米菓子を放り込んで口を休めた老人が、お茶をイッキして話を再開する────



 「なかなか人前に出てこうけん、七天龍は·····。出てきても遭遇したら攻撃的なもんで、人間側は全滅よぅ」


 なるほど、魔王配下の四天王みたいな扱いらしい。

····ロマンあるな。



 「どんなキャラ·····どんな奴らなんだ?その七天龍は」


「七天龍ゆうても伝説じゃけん、今確認されてるのはたしか·····」


 老人が空を見て指を折って名前を挙げる



 「〝 永戦将えいせんしょう 黒イタチのリベル 〟に〝 白鯨はくげい 〟·····〝 神狼しんろう 〟と〝 屍谷かばねだに飛竜王ワイバーン 〟の四体じゃな」


「oh····かっけぇ」


 なんとも厨二魂震える話ではないか。

神狼しんろうとか絶対フェンリルじゃん。ワイバーンに白鯨とかラインナップ豪華すぎだろ。てか白鯨て、モビーディックやん。

 黒イタチだけジャンル違うけどあれか、頭脳要員か。組織の戦略担当的な·····。

 でもなんで龍じゃないのに七天〝龍〟なんだ?



 「お、始まーみたいやぞ」


「ん?」


 老人の指さす方を見ると、やぐらの上にコロルが立っていた。その後ろにはアルティマの姿も見える。かなり不満げな顔をしてはいるが·····。

 武人系あるあるの約束は守るタイプでよかった。

····ってか回復魔法が存在しててほんとによかった。危うく向こう半年は左手動かせなくなる所だったからな。

ありがとう、見知らぬおじいさん!



 「おいてめぇらぁぁーー!·····」


 やぐらの上で、コロルが叫んだ────。



「色々言いたい事とかあると思う····がッ!!」


 先程までざわついていた広場も、今は咳ひとつ聞こえない。

全員の意識が櫓に集中されている事を確認したコロルが、大きく息を吸って続ける────




 「まずは祭りだぁぁぁーー!!」



   「「「わっしょいぃぃぃーー!!」」」



  祭りが、始まった────






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