虚偽王女、シンシア・エラージュの焦燥
もう!
何でわざわざお兄様は学園なんかに足を運んだのよ!
嘘がバレたらエリオットお兄様に叱られてしまうわ!
まさか、ジークレイお兄様が、あの人を退学処分にするとは思わなかったのだから!
生真面目な顔で学園内を見て回るお兄様に、焦りを募らせる。
うっかりアニーさんと会ったりして、嘘がバレたらどうしたらいいの!
って、言ってるそばからアニーさんが少し先を横切って行ったわ。
危ない、危ない。
「彼女は……?」
ひぃ!
お兄様が、アニーさんに興味を向けてしまったわ。
彼女、美人で、お兄様好みの顔立ちをしているのよ。
銀髪の女性なんて、この国では見られないから。
「彼女は、アニーさんで」
「では、例の処分が下された女生徒の妹か?」
お兄様が彼女に近付く前に、先手を打たないと。
「お願い、アニーさんとは友達でいたいの。彼女のことはそっとしておいてあげて。私のせいでお姉さんが退学になったって思われたくはないわ」
「分かった。彼女には理由は伝えずに伏せておく」
やった!
これで、私の嘘がバレなくてすむ。
お兄様さえ、彼女に病気のことを尋ねなかったら、私の嘘はバレないはずだわ。
やったわ!
今度の休暇は、ちゃんと別の言い訳を考えないとねっ。
この視察が終わりさえすれば、お兄様ももう、このことは忘れてくれるはずよ。
冷や冷やしながらも、お兄様の視察はこれで終わったはずだったのに、
「アニー・ロッソ嬢は、姉が退学処分となり、不安を抱いていることだろう。城に招いて、その不安を解消してあげるべきだな」
そんな事を言い出したものだから、さらに取り繕う方に頭を悩ませなければならなかった。