第一王子、ジークレイ・エラージュの一目惚れ
長期休暇中で閑散としているのはわかっていたが、学園の視察に訪れていた。
あんな女生徒が在籍していたくらいだ。
風紀が乱れていないか心配だった。
残っている生徒は補習を受けているのか、生徒がまばらな学園内は、今のところは混乱は無いように思えるが……
「お、お兄様、ほ、ほら、休み中は生徒が少ないから、もう行きましょう」
妹のシンシアが、強張った表情で話しかけてきた。
ついてこなくていいと言ったのに、案内するからと、この視察に同行していた。
生徒が少なければ、余計に俺達の存在は目立つ。
残っている生徒から、王族に向ける羨望の眼差しが向けられる。
いちいちそれに反応をしていられないが、ふと、一人の女生徒に目が留まった。
俺達に視線を向けることもなく、少し先を通り過ぎていく姿は、群を抜いて見目麗しい容姿をしており、
「彼女は……?」
憂いを帯びたその横顔に、ひどく惹かれるものがあった。
「あ、彼女は、アニーさんで」
「では、例の処分が下された女生徒の妹か?」
シンシアが焦る様子は、彼女達姉妹を庇いたいからだろう。
「お願い、アニーさんとは友達でいたいの。彼女のことはそっとしておいてあげて。私のせいでお姉さんが退学になったって思われたくはないわ」
やはり、そうか。
「分かった。彼女には理由は伝えずに伏せておく」
辺境国出身の女など、取るに足らぬ者と思っていたのに、彼女に一目で惹かれていた。
しかし、王族としての最低限の矜持を思えば、今ここで容易に話しかけるわけにはいかない。
それに俺は公務できているのだ。
公私混同はできない。
だが、このまま彼女と接する機会を失うのも惜しいものはある。
何か彼女と話す口実を考える必要があった。