権利
猫は支配者である。
しかし、猫は支配者がキライだ。
猫は世界の支配者である。
しかし、猫は支配者が大嫌いだ。
ある時、カラスのすみかの支配者がやってきた。
「猫のすみかのごみ捨て場は、美味しいものがたくさんだ。だからみんなでゴハンを食べにきてやったぞ」
しかし、猫は支配者である。
その大きなかぎづめをつかって、やってきたカラスのつばさをもいでしまった。
ある時、ねずみのすみかの支配者がやってきた。
「おつよいおつよい猫の支配者さま。そのおいしそうなゴミの山、我らに分けていただけませんか?」
しかし、猫は支配者である。
そのするどいきばをつかって、ねずみのくびを狩りとった。
ある時、犬のすみかの支配者がやってきた。
「猫の支配者くん。キミのゴミ山、美味しそうだねぇ。ぼくにも少し分けておくれよ?」
しかし、猫は支配者である。
高い所からにらみつけ、犬は怯えて逃げてしまった。
追い返した犬の背を見て、猫は得意げに口をひらいた。
「このいやしい支配者どもめ。われらのすみかを奪おうなんて、百年たっても早いんだ。」
猫は支配者だ。
この世界を統べる、圧倒的な支配者だった。
しかし、猫はやり過ぎてしまった。
するどいきばを見せつけて、彼らのからだを傷つけたのだ。
ある時、カラスの支配者が言った。
「あのゴミ山を、今こそ我が手中に収める時だ」
ある時、ねずみの支配者が言った。
「忌々しい猫の支配者め。あのくびねっこに喰らいついてやる」
ある時、犬の支配者が言った。
「上から見下ろす支配者に、ぼくらの世界を見せてやろう」
これによって猫は倒され、ボロボロになってすみかを追われた。
猫は支配者だった。
しかし誰かに助けてもらわねば、もはや生きる力もなかった。
そんな時、一人のニンゲンの支配者が言った。
「わたしたちが貴方を助けましょう。我らのすみかにいらして下さい」
こうして、猫はニンゲンの支配者に助けられたのだ。
───とある会場で猫の集会がひらかれた。
「ニンゲンの支配者、あいつはダメだ。まるで礼儀がなってない」
「へぇ。じゃあボクが喰ってやろう。こっそりと近づいて、頭から丸かじりだ」
猫は支配者である。
とあるニンゲンの支配者が、皆の前で挨拶をしていた。
それを見て、しめたと思った黒猫は、ニンゲンの支配者にパクリと一口噛み付いた。
それによって、ニンゲンの支配者は居なくなった。
猫は、新たな支配者を選ぶことになったのだ。
猫は支配者が嫌いだ。
しかし、猫は支配者を選ぶ権利がある。
自らの暮らしをまもるニンゲンの、支配者を選ぶ権利があるのだ。
猫は支配者である。
しかし、猫は気まぐれでのんびりとした生き物だ。
だから、猫は権利がありながらも、使い方を知らない。
だって、アイツらは気まぐれでのんびりとしていて、そして自らがいちばん強いと知っているからだ。
自分たちがいれば世界が廻ると、知っているから動かないのだ。
猫は支配者だ。
この世界においての、圧倒的な支配者だ。
そう、いつだって、猫に選ぶ権利があるのだ。
猫が、居心地の良い場所へと自らのすみかを決めるように、猫には全てを選ぶ権利が与えられているのだ。
なのに、なぜ選ばない?
ぐうたらとしたこの猫め。
嫌うくらいなら最初から、選ばなければ良かったじゃないか。
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