風船
少年よ。なぜ泣くんだい?
それは、風船が飛んでいってしまったからです。
ならば、手で取ればいいだろう?
人の手では、届かないのです。
小さな私の手では、届かないのです。
......ならば。
新しい風船を買えばよかろう。
いえ、私には、もうお金が無いのです。
あの風船を買うために、おかねをあつめたのです。
はぁ、計画性のない人間だ。
そもそも、なぜ手を離したんだ。
そらをとぶ鳥が美しくて。
見とれていたら、手を離してしまったんです。
あぁ、私もあんなふうに美しく飛べたら、風船にもてがとどいたのに。
あぁ愚かな人間よ。
安易に美しいなどと、いうものでは無い。
それは、"我々"にとって失礼なことだ。これでも、必死になって羽根を動かしているのだから。
......しかし、称賛の言葉を掛けてくれたこと。
それだけは、難く誇りに思おう。
───これは、選別にくれてやる。
そう言って、かの鳥は少年に風船を手渡した。
その後、一対の羽根を器用に動かしながら、彼は大空へとその躰を翻して去っていく。
そんな、遥か彼方に消えていく姿を眺めながら。
少年は呟く。
あぁ、やっぱり、美しい。
彼らにとっては命懸けなのかもしれないけれど。
それでも───。
......ものの見方は人によって違う。
鳥と少年の意見は、これからも合うことは無いのだろう。それを思うと、少し、私は哀しくなる。
けれど、分かり合えなくとも。
互いが互いに、少しずつ、歩み寄ることは出来るのだ。
───その、今はもう少年の手に繋がれた風船の紐を、かの鳥がそっと手渡し飛び去ったように。
───その、飛び去っていくかの鳥の羽ばたきを、少年が最後まで見守ってくれていたように。
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