美的せんす・侵食・優しくない
《美的せんす》
雨雲がほおづえついて居座っています
それはどんよりとした雲です
いつかそれは大きくなって雨を降らすでしょう
もしかしたら雪かもしれません
それはさらに大きくなって大雨になるでしょう
もしかしたら嵐になるかもしれません
やがていつかそれらは止み、綺麗な青空が広がるでしょう
もしかしたら虹がかかるかもしれません
太陽が元気いっぱい広がっています
辺りを明るく照らしています
いつかそれは眩い程の光を纏うでしょう
もしかしたら見えないほどかもしれません
それはさらに光って誰かの光になるでしょう
もしかしたら辺りに花や草木が育つかもしれません
ですが、やがてそれらは雲に覆われるでしょう
雨が降るかもしれません
移り変わるは、人の心
時にはそれを面倒に思うかもしれません
もしかしたらなくなってしまえば楽なのにと思うかもしれません
でも、私は思うのです
移り変わるからこそあなたはとても美しい
★
《侵食》
脳天とつま先に、黒い何かが落とされた。
ポトリポトリ。
それはゆっくりとでも確実に広がっていく。
じわりじわり。
音を立てて、私の息の根を止めるために。
音を立てて、私の心の臓を染めるために。
ほら、どんどん進んでいくよ。
ポトリポトリ。
真っ黒い何かは蠢いて。
じわりじわり。
音を立てて、私の世界を止めるために。
音を立てて、私の未来を染めるために。
真っ暗な世界に取り込まれたよ。
ポトリポトリ。
立っていることもできないよ。
じわりじわり。
音を立てて、私の世界が崩れていくよ。
音を立てて、私の地面は狂っていくよ。
無音の世界にやってきたよ。
ポトリポトリ。
怖いよ怖い。
じわりじわり。
音を立てずに、私の地図は崩れていくよ。
音も立てずに、私の感覚は狂っていくよ。
イタイイタイ。
ポトリポトリ。
クルシイクルシイ。
じわりじわり。
嗚呼、楽になってきた。
ポトリポトリ。
何も感じないよ。
じわりじわり。
侵食完了。
何処かで誰かがそう呟いた。
★
《優しくない》
ボクは優しくない人間です。
ボクは人形ではありません。
ボクは傀儡ではありません。
ボクは人間なのです。
自分の意思だってあります。
ボクはボクの道を進むために生きているのです。
ボクはボクらしく世界を彩るために生きているのです。
ボクはボクだけの未来地図を描くために生きているのです。
誰かに指図されるほどボクの人生はやすくないのです。
誰かの代わりに生きてあげられるほどボクの人生はやすくないのです。
ボクはボクになるために生まれてきたのです。
ボクはボクらしく生きるために生まれてきたのです。
キミのために人生を生きるほど慈愛に満ちていないです。
ボクは優しくない人間です。
でも、わからないけれど、多分それでいいと思います。