5:仮面姫と驚きの事実
火災騒動から、しばらく経っても仮面をつけたまま行動していれば、自然と火傷の痕が残ったままだと認識も広まり…気付けば、父の近くにあった私の部屋も離宮へと移動された。
火災で絶世な美貌と王の寵愛を失った"可哀想な仮面姫"の話は社交界に一気に広まった。
離宮は、私のお婆様が生前使われていたところで、ピアノをはじめ、たくさんの楽器や絵画、骨董品など…私にとって、たからの宝庫であった。
この国は魔法に頼りすぎて、文明の発展は遅れてるけど…この国の芸術は本物で安心したわ。
本物の芸術に囲まれて、暮らせるなんて、なんて贅沢なのかしら。幸せ、幸せ。
私はお父様から解放され、時々くる医療魔法使い方の診察だけ受けるゆとり生活になりました。
今までのシャーロットはお勉強のし過ぎだったからと、何もせず、紅茶をすするだけの優雅な日が過ぎていくのであった。
◇◇◇
ーーーそして、離宮でのある夜ことである。
今日は驚きの事実が判明しました。
それはまさに青天の霹靂。
…
……
「ルイ、もう一度言ってくれる?」私は離宮の自室のソファーで困惑していた。
きょとんとしながらも、はい!と正面に座っているルイは答える。
「…姉様の治療のために、隣国レオネドラード国の第一王女マーガレット・ロイヤル・レオネドラードもしくは有能な医療魔法使いを拐ってくるように指示を出したようです。レオネドラードは医療が有名ですからね。しかも最近第一王女が新たな治療方法を確立したとかで…」
他にも功績を話しているが入ってこない。…というかどんな功績か知っている。
「…マーガレット……レオネドラード……!!!」
思い出した!!なんと前世で娘の瑠美がやってた乙女ゲームの世界の主人公だ!
確か、医者が転生して、王女に生まれ変わって…医療の知識を使って国中の感染症の治療やら医療技術に革命を起こしながら、攻略対象者の過去の傷を癒しながら進めていくストーリーだったはず…。確か名前が、"愛の治療"とか言う名前だったはず。
娘が病院にいるからって、治療を題材にした乙女ゲームをやってたから覚えている。
あれって確か、ラスボスで魔王とか出てこなかったっけ?!
というか、私達のローズグレイ国の隣の国か乙女ゲームの地だとは…。一応、ゲームの世界に転生したわけね。それは理解した。
でもね、ローズグレイではゲームの知識は役に立たない…。まじでローズグレイどこだよ←
「…姉様?どうなさいました?」ルイは心配そうに私を見つめていた。
「…ああ、ごめんなさいね。…ただ、他国の王女まで巻き込むことになるなんて、驚いてしまって…」とりあえず、誤魔化しておく。
「さすがに、レオネドラード国は大国ですからね、表立って戦争するのは憚れたのでしょう。もし、バレたら結局、相手に開戦の口実を与えてしまうと思うのですが…。まあ、あの戦争好きは、その辺考えていないでしょうが…。」なんだか、笑顔が黒いよ弟よ←
「とにかく、これ以上拐われたり、戦争が始まるようなことは止めなきゃよね。」
「一応、今は手始めにレオネドラード国に密偵を送ったところらしいので…あと3ヶ月は時間がかかる予定です。具体策としては没落寸前の貴族を探して、味方に引き入れ、こちらでの爵位を与える代わりに医療の優れたものをこちらに運ばせる手筈のようです。」
「…なるほど!まだ時間が少しあるのね。」
「…はい。ただ、今から父上を説得するのは厳しいので…どうしたものかと…」ルイは行き詰まっている様子だった。
そのため、私は話題を変えてみることにした。
「ま!今ここで悩んでも仕方ないわ!ルイ前にお願いしてた、明後日の外出許可はとれた?」
「はい!思っていたよりすんなり上の許可がおりましたよ!」
実は少し前から、火傷の痕の件で、教会へお祈りに行く許可を申請していたのだ。前の私では絶対に通らなかったが…悲しきかな人は見た目が7割。いや、お父様にとっては10割か←
「では、明後日のことは明後日で考えましょ!…ルイの為にお姉様がピアノを弾いてあげるわ
、時には音楽を聞いてリラックスしないとね!」とウィンクをする。
ルイをそこに座らせたまま、私は窓側のピアノに腰かけた。ふと窓の外の月が目に入った。
こんな綺麗な夜には…ドビュッシーの"月の光"かしらね。
……
…
私はピアノにゆっくりと力を込める。
一音一音丁寧に流れるように。
ルイは驚いているようだった。
私がピアノを弾けることを知らなかったみたい。ふふふ、可愛いわ←
…
……
最後の一音を弾き終わると、気づくとピアノのすぐ近くまで弟は来ていた。
「…少しは落ち着いたかしら?」とかなり良いデキだったので、満足げに聞いてみる。
「…」
弟は何やら言葉がでないようだった。
しばらくすると、「あ、ちょっと、待ってください!!…素晴らし過ぎて、言葉に表せなくて…!なんと言うか…その…"姉様の凄さを世界中の人に知ってもらいたいほどの演奏でした。"」そう言われた瞬間。
ーーー"お母さんの凄さを世界中の人に知ってもらいたいほどの演技だったわ"という前世の娘の言葉が頭をよぎった。
!!!!
私にある一つの考えが浮かんだ…
「…まさか、まさか…そんなことって…」私はルイの方をガシッと掴んだ。ルイは困惑している。きょとんとしてて可愛い←
でももし、私の前世の娘の瑠美が今世ではルイだったら?そんな期待を抱かずにはいられない。私だって転生したんだもの!
「ルイ!好きな食べ物は?」
「姉様?…えーと人並みですが、お肉でしょうか…」
「好きな色は?」
「…緑色です…」
「好きな異性のタイプは?」
「ええ//えーと…あ…ね様のような行動力のある方でしょうか//…私が慎重派なので…//えーと…」
|
瑠美は、お肉が好きで、勝負服が緑色で、私のような行動力のある男性がいたらパーフェクトだと言っていた。
…うんうん、全てが一致する。
そういえば、誕生日が瑠美とルイは一緒だった…
なんで気づかなかったのかしら…。
気づけば視界は歪みはじめ、私の目からつぅっと涙が流れていた。
「…姉様?私の好みがお気に召さなかったと…か?…」私の涙にオロオロと戸惑うルイをガバッと力一杯抱き締めた。
「…全部、ぜーんぶ好みよ!あなたはやっぱり私の最愛の家族よ。」
「…あ、ありがとうございます//」私もですと私より一回り小さなルイは、照れながらも私の背中に手を回していた。
きっといきなり泣き出して訳のわからない質問されてルイは困惑してるんだろうなと思うけど、今回はスルーしてほしい←
私は今まで自分の人生は自分の力で、努力で、道を拓いていくものだと思っていた。でも今回だけは神様やありとあらゆる偶然に感謝したい。
私が転生したのは"この子"の為だったのだと…今世ではルイの為に尽くそうと心に決めた。
その後も、再びソファーに腰掛け、ルイに少し質問てみたが、私のように前世の瑠美としての記憶はないみたいだった。
それでも「私の全てをかけて…絶対にルイを王にしてあげますからね。」私は使命感に燃えていた。
「…姉様のお力だけでなく、私自身も頑張りますので、これからもご指導の程よろしくお願いします!」とにこやかに返ってきた。
ーーー私の全ては、この子のために。
私は満面の笑みを浮かべていた。