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トゥテラリィパレード  作者: ぶれいん
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第2章 七話 ー突然変異ー

 

「ただいま!!」


 セイルは家に帰ってきてから家中に響く大きな声で言った。


「おかえりなさい、セイル。」


 そのセイルの声に対してお母さんが優しい声で「おかえり」を返してきた。


 セイルにとって家の手伝いは既に日常の一部となっていた。

 今も野菜の買い出しから帰ってきたところだ。

 セイルの家族はリスティルで出店をやっている。料理などの主な業務はお父さんが行い、それ以外の業務をお母さんとセイルで担っている。


「セイル〜。買ってきてくれた野菜をここまで持ってきてくれないか〜?」


 厨房からお父さんの声が聞こえてきた。


 お父さんが出店でやっているのは鉄板焼きだ。なんでもこの星では珍しい料理らしく、家族3人が何不自由ない暮らしができるほどには繁盛している。


 セイルはお父さんに買ってきた野菜を渡し、それから自分の部屋に入った。

 自分の部屋と言っても簡単な机と椅子しかない小さな部屋だ。家自体の1階全てを店にしているため、セイルたち家族が生活しているのは2階だけだ。だから家族の生活の場が狭くなるのは仕方なかった。


「はぁ〜。勉強しなきゃ。」


 セイルは部屋に入ってからそう呟き、手首につけているリングを起動させた。


 アルタレルに学校が無いわけではないが、セイルは望んで通学しようとは思わなかった。

 お母さんもお父さんもセイルに通学を勧めていたが、通学は義務ではないし、何よりセイル自身が家の手伝いをすることを望んでいたからだ。

 だからセイルはこうしてリングで授業動画を見て勉強している。


 それから1時間後ーー


「今日は早めに寝よ!」


 そう言ってセイルは勉強を早めに切り上げた。

 今日はなぜか体が重く感じる。


 風邪かな・・・・・・?


 そう思ったセイルは勉強を切り上げて早めに寝ることにしたのだ。


 ーー翌朝ーー


 セイルは毎朝決まって7時に起きる。いつ頃からかは分からないが、自然と習慣として身についてしまっていた。


 セイルは寝床から起き上がって、部屋の電気をつけようと立ち上がる。

 セイルの部屋の電気は比較的古いタイプで、直接ボタンを押さないと起動しないタイプだ。


 セイルは部屋の壁についているボタンを押して電気をつける。

 その瞬間部屋が急に明るくなり、セイルは一瞬目が眩んだ。

 朧気ながらも少しずつ視界が安定していくーー


「きゃっ!!」


 それを見た瞬間、セイルは思わず腰が抜けてしまった。

 それもそのはず、視界が安定したセイルの目の前に、


 ーー自分と同じくらいの大きさの黒い人影があったのだーー


 腰が抜けて尻もちを着いた状態で、その人影がセイルの目に鮮明に映るようになっていくーー


「!?」


 その人影の正体に気づいた時、セイルは自分でも感じたことがないくらいの凄まじい恐怖に見舞われた。


 ーーその人影の正体は、紛れもなく『自分自身の影』だったーー


 影のはずなのに立体的で、セイルとまったく同じシルエットをしている。一見すれば、自分と同じ体型をした黒いマネキンに見えた。


 それから間もなくして、お父さんとお母さんがセイルの声を聞いて部屋に駆けつけてくる。


「セイル!!」


 お母さんが人影を確認した上でセイルの名前を叫んだ。

 お母さんは一瞬人影に驚いていたが、そんなことよりもセイルの身の危険を案じたのだろう。


「お母さん、助けてっ!!」


 セイルもそんな両親に助けを求める。

 するとお父さんが、1階の厨房から包丁を持ってきて人影の腹辺りにその包丁を突き刺した。


 その瞬間、それまで微動だにしなかった人影が、刺さった包丁をそのままにセイルの方へ歩き始めた。


「こっ、来ないでっ!!」


 セイルは必死に抵抗する。


「娘に近づくなっ!」


 セイルの両親もその場にある椅子や、新たに持ってきた包丁などで人影を攻撃する。

 だが、その攻撃も全て無駄なようで、人影はセイルの目の前まで来て歩みを止めた。


「なに・・・・・・?」


 セイルは目前まで迫った人影に恐る恐る問いかけた。今のこの状況に、セイルは自分の顔が恐怖で引きつっているのを感じていた。

 そんなセイルの問いかけに反応したのか。次の瞬間ーー


 その人影は徐々に崩れていった。


 人影は黒い粒子状になり、空気中に飛散する。

 それから粒子が徐々にまとまりを帯びて黒い波のようになった。


「何が起こったんだ!?」


 お父さんはそれらの光景を見てから震えた声で言った。


 黒い波はそれから一気に動きの激しさを増していき、突然セイルの方に向かっていったかと思えば、セイルの目の前まで来て突然消えた。


「大丈夫か、セイル!」


 黒い波が消えて少し経ってからお父さんがセイルに無事を確認する。

 だが、その場にいる3人は内心ではセイルに怪我が無いことにはとっくに気づいていた。

 なぜなら・・・・・・


 人影は消えたのではなく、『セイルの中に入った』からだ。


 もちろんその考えに確証はない。だが先程見た光景から、そう考えるのが一番妥当に思えたのだ。

 もしそう仮定するとして、なぜそんなことが起こったのか・・・・・・。

 その場にいる3人に考えられることは1つだけだった。


 それは・・・・・・


 原因は分からないが、『セイルが後天的にレイダーズに目覚めた』という事だ。


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