第5話(僕と彼女の異世界手術)
僕と焔ちゃんが大きな鳥に案内されて、鳥の巣にやってくると、元気の良い2匹の鳥とちょっと元気の無い1匹の鳥に出迎えられる。
「コケケコケケッココケケケ、コケコケココケコケケコケケコ!!(強い魔力の匂いと、美味しそうな餌の匂いだ!!)」
「コケケコケケッココケケケ、コケコケココケコケケコケケコ!!(強い魔力の匂いと、美味しそうな餌の匂いだ!!)」
「コケケコケケッココケケ……コケコケココケコケケコケケ?(強い魔力の匂い……美味しそうな餌の匂い?)」
「モルルルモッルルルモルル?モルルモルモルモルルルモルルモルモルル(何ていってるんだろう?えらく興奮しているみたいだけど)」
鳥の巣に入ると子供サイズ。とはいえ親があのサイズなので、子供と言っても人間より大きいサイズの小鳥?が騒ぎ立てる。
小鳥?の視線の先は焔ちゃんの大きな胸に集中しており、このエロ鳥めがと僕は憤慨する。焔ちゃんの胸は僕が護る!!
「ぷくくくっ!強い魔力の匂いと、美味しそうな餌の匂いだって言ってるよ。この子達。モルさんまた餌扱いだね」
焔ちゃんは胸元にすっぽり納まっている僕の頭を撫でながら、小鳥?達の言葉を伝えてくれる。笑う度に肩と胸が震えてしまって、特に柔らかいものに挟まれている僕の小さな身体は全身が揺さぶられて、頭がクラクラしてくるんだけど。嬉しいやら悲しいやら。
「モルルモルモゥルル!(僕は餌じゃない!)」
憤慨して叫ぶが、当然小鳥?達に伝わるわけも無く、相変わらず無遠慮な視線を焔ちゃんの大きな胸に集中させている。あれ?アイツ等、焔ちゃんの胸じゃなくて、僕を食べ物としてロックオンしてる?何か涎垂らしてるんだけど!!
「コケケケコケコケコケッココケッココ?コケコケココケケケ……(子供を見てくれるんじゃなかったの?あの言葉嘘なら……)」
「心配しないで、嘘なんか言っていないから。変なことはしないから、ちょっと状態を見せてね。」
親鳥が焦れた様子で鳴き声を上げるので、焔ちゃんは親鳥に答えながら調子の悪そうな小鳥?に近付いていく。
「コケ?コケ?コケコケケコケ?!(何?何?何されるの?!)」
小鳥?達が不安げな鳴き声を上げるが、焔ちゃんは気にせずに、調子の悪そうな小鳥?似近付いていく。当然胸に収まっている僕も近付いていく。あれ?僕の身の危険が危ないんだけど……
「まずはちょっと診るだけだよ」
調子の悪そうな小鳥?に焔ちゃんは近付くと優しく声をかける。小鳥は?警戒して威嚇のポーズをとるが、親鳥から静止の鳴き声が飛び、大人しくなる。
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大きな鳥に連れ去られて、危うく餌になるところだったけど、何とか鳥と交渉して命の危機を回避した私とモルさんは、大きな鳥の持っている課題を解決するために巣に来ていた。
巣に来てみると、確かに子供の3匹中1匹の元気がないので、私はこの世界に転生させられた際に身につけたチートスキルで何とかしようと試みる。
「多分。魔力がおかしいならこうすれば……」
私は小鳥?のお腹に手を当てて目を閉じる。モルさんが不安げに身体をモゾモゾさせる。私が失敗したらモルさんは間違いなく、あっという間に餌にされてしまうだろう。そんな危険と隣り合わせの吊り橋を渡るような状況だけど、私が何とかしなきゃいけないんだ!
ちょっと震える身体を押さえつけながら、私は魔力を薄く放出して、小鳥?の身体に浸透させる。どこかで魔力が反射されるなり吸収されるなりしたら、それが原因だと思う。
私は集中しながら少しずつ魔力の濃度を上げて、浸透させる魔力を増やしていく。スキルの補正があり何となく使い方が頭に入っているけど、凄く繊細な作業で集中を要するから、私の額からはびっしょり汗が出て、顎を伝って落ちる。
私にとってはかなりの長さだけど、他からしたら一瞬とも思える時間が過ぎて、私の流した魔力に反応がでた。小鳥?のお腹の中で私の魔力が急激に減衰したのだ。そう魔力が喰われるようにだ。
「コケケ!コケケ!コケコケコケケ!!(痛い!痛い!お腹が痛い!!)」
私の魔力放出を受けていた調子の悪い小鳥?がバタバタと翼を振りながら痛がって転がる。
「コケケコケコケケ!!(お前何をした!!)」
親鳥が殺気をみなぎらせながら、大きな身体を更に大きく広げて威嚇してくる。言葉を間違えたら間違いなく殺しにくるくらいの殺気だ。
「お腹の中に魔力を喰う何かがいる。私の魔力を喰ったそれが暴れているみたい。多分直に治まるよ。」
私はそう答えると、いったん魔力の放出を止めながら一歩離れると肩で大きく息をする。そして額の汗を服の袖で拭う。汗びっしょりで相当集中していた事がわかる。
「次はちょっと痛い事するけど、我慢できるかな?これしないといつまでもお腹痛いし元気でないよ?」
私は体調の悪い小鳥?に声をかける。この後はお腹の中にいる何かを殺さないと、小鳥?が元気にならないと思うからだ。
「コケケコケコケコケケコケコ?コケケココケケコケコケ(痛くない方法は無いの?子供が可哀相だわ)」
親鳥が心配そうに私に話しかけてくるけど、私の力では薬は作れないから、直接原因の除去をするしかない。だから私は首を振りながら拒絶を表す。
「コケケケコケコ……コケ、コッケコケケコケケッココケケ……(痛いの嫌だ……でも、ずっとこうなのはもっと嫌だ……)」
調子の悪い小鳥?は、そんな親鳥と私を不安そうに交互に眺めた後、勇気を持って痛いのを受け入れる事を了承する。
親鳥を見ると不安そうな雰囲気を全面に表しているが、了承とばかりに頷く。
私も覚悟を決めて、治療に当たることを決意する。これも失敗してしまうと、大事なモルさんが餌になることが確定してしまう。
「こい!焔丸!!」
私の意志に応じて、一振りの日本刀が私の手の中に現れる。私はそのまま焔丸を鞘から抜くとギラリと鋼の輝きが光を反射する。
私は左手を開いて小鳥?に添え、右手を後ろに引き、切っ先を左手の親指と人差し指の間に乗せる。当然まだ信頼していない鳥達は物凄い怒気と不安をごちゃ混ぜにした気を私にぶつけてくる。何かあったらわかっているんだろうな?そんな想いが気から伝わってくる。
小鳥?に添えた左手から、再び魔力を薄く放出していく。目を閉じて魔力の広がり、引っ掛かりで鳥の身体の構成を少しでも理解しようと、どんな些細な反応も見逃さないように集中する。すると私の脳裏に鳥の身体の構成の詳細なイメージが広がる。
これなら!と私は魔力の反応と詳細なイメージを重ね合わせていく。そして違和感がある一点。異物の場所を特定する。更にその異物にいたるルート上の重要な臓器を避ける一筋の道を見つける。私は微妙に手の位置をずらして、そのルートの入り口に焔丸の切っ先を乗せる。
「っっっ!」
大きく一度深呼吸をして、神経を研ぎ澄まし、最後の異物の位置を再確認すると、小さく息を鋭く吐くと同時に焔丸を小鳥?の身体に突き入れる!!
焔丸は私の思い通り、1mmも違わず小鳥?の身体を貫通し、その切っ先で異物を捕えた。焔丸を通じて私はその異物を明確に認知する。
「焼き尽くせ!焔丸!!」
私は小鳥?の内蔵を傷めないように焔丸から炎を迸らせる!!一瞬で異物を飲み込み炭化させる炎だが、意思を持っているかのごとく、小鳥?の内臓には一切のダメージを与えていない。
私は突き入れた焔丸で小鳥?の身体を傷つけないように静かに抜く。突き入れた場所がよかったのかほとんど血も出ずに、痛みも最小限だったようだ。私はそのまま添えていた左手で治癒の力をこめた魔力を放出する事で小鳥?の傷を癒す。
「コケッココ?コケッココ?(終わったの?治ったの?)」
親鳥が心配そうに聞いてくるので、私は大きく頷くと、あまりの集中していて疲労が限界まで達していたのか、腰が抜けて尻餅をついてしまう。
「あーっ!!できたーーー!!でも!!すっごい疲れたーーーー!!」
私は大の字になって倒れこみながら、心から出た安堵の大声が綺麗な空に吸い込まれていくのだった。