第1話(僕と彼女の異世界能力)
「モ、モルル!モルッルルル!!(も、モナカになってるーっっ!!)」
と叫びながら手をワチャワチャしながら周辺をグルグル回っていたら、僕の事をビックリした目で見つめる美少女と目が合う。
肩口よりやや長めの炎のように赤い髪の両側を三つ編みに編みこんで、ハーフアップにしてリボンで止めた髪形。
服は黒の着物をベースとして、帯の代わりに革のコルセットのようなもので胴体を絞めていて、大きな胸が凄く強調されている。着物の裾はコルセットの下で大きく左右に広がっていふくらはぎ位まで達している。コルセットの後ろには濃い赤の大きなリボンがついていて、それがとても特徴的だ。
ボトムは赤色の車ヒダプリーツのミニスカート。黒のハイソックスに赤のブーツで全体的に赤と黒で構成されている容姿の女の子だった。
何かどこかで見たことあるなぁと思っていたら、その女の子がビックリした声を上げる。
「え?!アレ?!モルさん?!」
確かに僕はアイコンをペットのモルモットにしてて、よくMutter仲間からはモルさんと呼ばれていたけど……茶色いモルモットなんて他にもいっぱいいるでしょ?何で気付くんだろう?
「モ、モルルモゥル?(ほ、ほむらちゃん?)」
伝わらないと思うけど、一応聞いてみる。相変わらず口からは意味不明の言語しか出ない。というか本当のモルモットはグゥグゥとかキュィキュィって鳴き声なのであって、モルモルなんて鳴き声は上げないから……
「そうだよ。やっぱりモルさんかー。よかったー、知っている人がいて」
あれ?何故か通じたんだけど。
「モルルモルルモルッモルル、モルルルル(僕も心細かったので、嬉しいよ)」
「うんうん。突然知らない世界に渡らせられたら心細いよねー。でもなんかワクワクするかも?!モルさんも一緒なら楽しそうだし!」
うん。間違いなく通じている。一体コレは何なんだろう?
「モルモ、モルルモルモルモッルルモッル(僕の言葉モルモルってなってない?)」
「あー、なってるよ。でも何言ってるかわかるんだよね。なんでだろー?」
やっぱり、モルモル聞こえるらしいけど、焔ちゃんには何かの力が働いて聞き取れているみたい。これがいわゆるチート能力ってヤツかな?
となると、王道の異世界転生ものならステータスウィンドウとか出せること多いよね。よし、やってみよう。
「モーモル!モルールルモゥルモルゥ!(オープン!ステータスウィンドウ!)」
僕はがっくり膝をついて、いや四足歩行だからそのままなんだけど、ガックリと項垂れる。もうね、無理だよね。だって何言ってるかわからないもん。コレで開いたら奇跡だよ。
そう絶望しかけた僕の目の前に四角い窓が控えめに現れる。まじ?本当?!やったー!!と僕は猛烈に喜んだ。
しかし四角い窓は僕なんか眼中にない素振りでキョロキョロと周りを見渡して、頭をポリポリ掻いたかと思うと、シュタッと手を上げて消えていった。
僕は消えていったステータスウィンドウの場所をしばらく真っ白になって呆然と眺めていた。そして沸々と怒りが沸いて来る!
なんでステータスウィンドウがキョロキョロしてんだよ!頭を掻いてんだよ!シュタッと手を上げるんだよ!!何処の世界に生き物のようなステータスウィンドウがあるんだよぉぉぉぉぉぉ!!
僕があまりの怒りに悶死しかけながらゴロゴロと地面を転がっていると、僕の頭上からとても可愛い笑い声が響く。
「あははははははっ!やっぱりモルさん楽しすぎ!モルモル言ってるのもそうだけど!!ステータスウィンドウにバイバイされるなんてっ!!美味しすぎだよぅ!!」
焔ちゃんがお腹を抱えて笑っている。絶世の美少女で声も無茶苦茶可愛い。そんな女の子が自分の事をみて、腹の底から本気で笑っていたら、そりゃ惚れちゃうよね。
僕は爆笑する焔ちゃんを見て、不謹慎ながらドキドキしてしまう。
焔ちゃんはひとしきり笑った後、ちょっと真面目な顔に戻ると、先ほど僕の失敗したコマンドを実行する。
「オープン!ステータスウィンドウ!」
焔ちゃんのちょっと高めのよく通る声が響くと、目の前に四角い窓が現れる。四角い窓の真ん中辺りがやけにピンク色になっていて、ステータスウィンドウの横の線が頭をポリポリ掻いている。どうやら焔ちゃんの凄まじい魅力に照れているらしい。
あー、この世界のステータスウィンドウには感情があるのね……というか他人のステータスウィンドウも見えるのね。と僕はそんな事を思った。
『ステータス』
名前:紅 焔
職業:魔導刀士
HP:SSS、MP:SS、腕力:SSS、魔力:SS、敏捷:SSS、器用:SS、耐久:SSS
【スキル】
刀の極み、剣の極み、弓の極み、受けの極み、回避の極み、魔導の素質、魔導剣、超言語理解、
美少女、動物愛、懸想、永遠の絆
なんというかチートって言うやつですね。ステータスが軒並み偉いことになっているし、スキルも加味するとどんな敵地でも帰ってこれそうな気がする。あとスキルの後ろの方の意味がちょっとわからない。覗き込もうとすると、慌ててステータスウィンドウを消されてしまう。消す時は右上の×ボタンを押せば良いらしい。
「私の秘密を覗いちゃ、メッ!です」
ちょっと口を尖らして恥ずかしそうにすると、僕の額を人差し指でちょんっと触る。可愛いなぁと再び感慨にふけりながら、じゃあ気を取り直して僕も、もう一度呼んで見よう。
「モーモル!モルールルモゥルモルゥ!(オープン!ステータスウィンドウ!)」
やはりキチンとステータスウィンドウが現れる。ステータスウィンドウはまたキョロキョロするが、僕が猛烈にアピールをすることで、僕のステータスウィンドウだと気がついたらしい。すると事もあろうか、左右の拳をシュッシュッと突き出しながら、僕を威嚇する。
なんで僕はステータスウィンドウに喧嘩を売られているんだろう……肩を落としながら、めったにしない鋭い視線で睨みつける。
……ウルウルウル
ステータスウィンドウは僕の威圧的な眼差しに屈服したらしく、orz とガックリ項垂れると僕にステータスを見せてくれる。
『ステータス』
名前:モル
職業:モルモット
HP:モ、MP:モル、腕力:モ、魔力:モル、敏捷:モル、器用:モ、耐久:モル
【スキル】
二足歩行LV1、体毛変化LV1、ハードボイルド、永遠の絆
ガックリと項垂れるステータスウィンドウの前で、orz と僕はガックリ項垂れる。
もう、突っ込む気力すら尽きかける程の衝撃だ。まず職業モルモットって何ですか!そしてステータス!!ランクでも数値でもねぇ!!HP:モ、MP:モルって何だよ!!
しかもスキル!二足歩行、体毛変化はともかく、ハードボイルドって何だよ!!そして焔ちゃんにもあったけど永遠の絆って何?!
僕のステータスを覗き込んだ焔ちゃん再びお腹を抱えて大爆笑する。
「あははははっ!モルさんのステータス!ステータス楽しすぎ!!HP:モって!!」
その発言にショックを受けたのか、僕のステータスウィンドウは orz の姿勢のまま地面に溶けていくように沈んでいった。
「モ、モルモルルモルルモルルルルル(と、とりあえず町を探さないと!)」
「あー、楽しかった。もう1か月分くらい笑ったかも!!モルさんの言うとおりだね。何処に敵が潜んでいるかもわからないから安全の確保は重要」
2人で頷き合うと、僕と焔ちゃんは町を探しに出発するのだった