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序章(僕と彼女の異世界転生)

「こんな提案許可できる訳がないだろうが!」

 徹夜込みで2日かけた提案書が、机の上に投げ捨てられる。あーぁ、頑張ったんだけどなぁと思いながらバラバラになった資料を集めて整える。

「明日までにまともなリカバリー策の提案書を持ってこなければ契約破棄だからな!」

 先方の部長はエライ剣幕で怒鳴り散らす。自分のミスが上に伝わると、自分の進退の旗色が悪くなるから必死だ。僕の仕事なんて大抵こんなものだ。


 よく言えば温和で人当たりがよい。悪く言えば自己主張が少なくて捨て駒にしやすい。そんな性格の僕だから、会社にもいいように使われて、こんな火噴き案件の収束が任される事が多い。


「すみませんでした。明日には御満足のいく資料を持ってこれるように努力します」

 僕はそう答えると、数ページ読まれただけで廃棄扱いになった資料を持ちつつ退席する。この仕事だって属人化したプロジェクトリーダーが顧客の要望に耐えられなくなって、鬱と言う名の逃走をしたから、僕に回ってきたわけで。

 最近は鬱と言えば休めるみたいで、そんな人の後始末ばかりの仕事だらけだ。


 僕は客先を出ると、スマホを取り出して、いつものアプリを起動する。Mutterつぶやきと呼ばれる3500万人のアクセス数を誇るアプリだ。


『打ち合わせ終わったよ。相変わらず凄い怒られた(´・ω・`)』

 僕はDMダイレクトメールで、いつもの人にMutterする。僕の飼っているペットのモルモットのアイコンが僕の心を少し癒してくれる。

 するとファンタジーの美少女戦士風のアイコンからすぐに反応が返ってきて

『お疲れ様。いつも大変だね。でも、気を落とさないで頑張ってねo(*^▽^*)o~♪』

 その返答に、ささくれ立った僕の心も癒される。身長もあまり高くなく、少し太り気味で容姿も良くない。年齢も30代後半。世の中で言うアラフォーの世代だ。こんな僕に優しく声をかけてくれる人なんて、リアルにいるはずもない。


『これからまた会社に戻って徹夜で資料作成になりそう(ノω・、) ウゥ・・・』

『身体壊さないでね。( ノД`)』


 そんなDMでのやり取りをしながら僕は交差点で信号が変わるのを待つのだった。


-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-


「疲れたなー。何とか地方銀行に入社できたけど、お茶汲みとか雑用で嫌になっちゃうなぁ」

 私は銀行が15時に閉まってからの事務作業にあたり、先輩社員からのお菓子の買出しを頼まれて、コンビニに向かっていた。

「そういえば、モルさん。また客先で怒られるって言ってたけど大丈夫かな?」

 私は歩きながらMutterを起動する。すると丁度、DMを受信して未読マークがつく。いつもの可愛らしいモルモットのアイコンだ。


『打ち合わせ終わったよ。相変わらず凄い怒られた(´・ω・`)』

 モルさんの仕事はいつもいつも大変だ。それなのに空き時間には執筆して、私を凄く楽しませてくれる話を書いてくれる。私はモルさんの作品の第一のファンを自負していて、実はちょっぴり好きだったりする。話は面白いし、いつも優しいし、気も使ってくれてる。

 私は昔から絵が大好きで、特にファンタジーが大好きだったので、頑張ってそういう絵もいっぱい描いて、今ではそれなりの人に「いいね」を貰える様になってきていた。

 迷惑かもしれないけど、頑張って描いた絵を贈ってみたらとても喜んでくれて、その絵をイメージした話を次書くよと言ってくれたので、次の話を凄く楽しみに待っている。


『お疲れ様。いつも大変だね。でも、気を落とさないで頑張ってねo(*^▽^*)o~♪』

 私はそう返す。少しでもモルさんの気が休まってくれたら嬉しいな。という思いを込めて。


『これからまた会社に戻って徹夜で資料作成になりそう(ノω・、) ウゥ・・・』

 先日徹夜したばっかりなのに、また徹夜なんて。何て酷い会社なんだろうと、私は少し憤りながら返事を返す。

『身体壊さないでね。( ノД`)』


私はそう打ち込みながら、交差点の信号が変わるのを待つのだった。


-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-


 ふと気がついた瞬間には、交差点でMutterをしながら信号待ちをしていた僕の目の前に大型トレーラーのコンテナが突っ込んできていた。

 慌てて逃げようにも、つい直前までMutterに夢中になっていた僕は、気付くのが遅れていて、逃げ出す為の行動が取れていなかった。

 僕のすぐ横には一人の女の子が立っていて、スマホに夢中でまだ気がついていないみたいだ。女の子はここいらでは有名な地方銀行の制服を着ていた。


「危ない!」


 せめてもと僕は彼女を守るように、言う事を聞かない身体に鞭を入れて無理やり動かし、全く意味がない行動だと思いつつ、トレーラと彼女の間に割って入り、彼女を守るように背中をトレーラーに向ける。


 彼女を守ろうとする僕と、守られる彼女の目が合った途端、僕は何か感じた事のない凄い衝撃が身体を突き抜けると共に、何故か僕達の持つスマホが強烈な光を放って、僕達は光に包まれる。

 僕はその強い光の中で、徐々に意識が遠ざかっていくのを感じた。


 あー、でもココで死んじゃったらペットのモナカの世話。きちんと親がしてくれるのかなぁ……?


-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-


青い空、緑の草原、柔らかな風、暖かな日差し。世界はこんなにも綺麗だ。


「モルモルモルモル!モルル!!(って何なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!コレは!!)」


 僕が目を開けると、巨大な雑草が生い茂る草原のど真ん中だった。この世界にはなぜか巨大な石や木と見間違うような強大な雑草ばかりのジャングルのようだ。


「モルッル!(よいっしょ!)」


 僕は掛け声をかけて、思うように動かない身体を無理に動かして遠くを見ようとスクっと立ち上がってみるが、妙にバランスが悪くて立っているのが辛い。

 普段の自分の身体じゃないように感じる。二本足で立つのは諦めて、仕方ないので一番安定する四つん這いの姿勢に戻って周りを見渡す。


「モルル?モルルモル?(何だ?この身体は?)」


 そして、改めて身体を見回してみると全身が茶色い。そう全身が茶色い毛で覆われていて妙に暖かいのだ。手は短くて地面を掘るのに適してそうな鋭い爪を持っている。足も同様に短くて、手と同様に鋭い爪を持っている。胴体は長くて、首元を確認しようとするが首が回らないので腹から尻までしか見えない。


 ペタペタと顔を触ってみると、顔も毛まみれで、ピンと伸びた髭が数本生えている。歯は二本の歯が大きく突き出していて、硬いものを齧るのに適していそうだ。


 僕はこの生き物を知っていた。だが自分の現状を受け入れるのに非常に抵抗があるんだけど。


「モ、モルル!モルッルルル!!(も、モナカになってるーっっ!!)」


 こうして僕の第2の人生(モル生)は始まりを告げるのであった。


-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-


青い空、緑の草原、柔らかな風、暖かな日差し。世界はこんなにも綺麗だ。


 私が目を開けると、雑草が生い茂る草原のど真ん中だった。凄く見通しの良い草原で、私の身体は草のクッションに包まれて横たわっていた。


 上半身を起こしてみると、何かすごい違和感を感じる。重くて揺れているのだ。自分の胸が。

 今まで私はソコが全てのコンプレックスの原因といえるくらい薄い胸板だったのだが、今はビックリするくらい大きい。大きすぎてへそが見えないほどだ。


 そんな風に自分の身体を眺めてみると、私がアイコン用にデザインしたファンタジーの美少女戦士とそっくりな容姿をしている事に気がつく。鏡がなく自分の顔などが見れないから正確にはわからなくって断言は出来ないんだけど。

 でも、コレが噂の転生ってヤツ?と思って、不謹慎ながらも少し胸が高鳴った。


 確かMutterでいつものようにモルさんと会話していたら、急に車が突っ込んできて……何か優しそうな目をした人が見ず知らずの私を庇ってくれたんだよね。そしたらスマホから強い光が溢れて……あの人は大丈夫だったのかなぁと今の現状の現実を逃避するかのようにそんな事を考えてみる。


 私は身体を起こして立ち上がってみる。転生前と比べ身長が一回り小さくなっているけど、胸とお尻が大きくなっていると思う。いわゆるロリセクシーというヤツで、自分の描いた(ほむら)というキャラと瓜二つだ。


 私はそのまま周りを見渡してみると、少し離れた所の雑草が不自然に揺れる。

 この(ほむら)というキャラは空間を渡って、1本の日本刀の焔丸(ほむらまる)を呼び出すことができるという設定だったので、ココが私の思うような世界ならと、私は試しに右手を前に突き出し自分の愛刀である焔丸(ほむらまる)を召喚してみる。


「こい!焔丸(ほむらまる)

 私の喉から、キャラクターにイメージしていた通りの少し幼いけど可愛らしいアニメ声が発せられる。すると、私の突き出した右手に握られるように1本の日本刀が現れた。漆が塗られた黒地に炎の蒔絵が刻まれている鞘までイメージどおりだ。


 私はビックリしながらも焔丸(ほむらまる)を片手に、不自然な動きをする雑草の所へ、少しずつ、そろそろと足音を立てずに近付いていく。


「モ、モルル!モルッルルル!!」

 何か気の抜けるような絶叫が聞こえて、私は咄嗟に身をかがめ、叫び声の上がった地点を見る。


 するとソコには一匹の可愛いモルモットがワチャワチャしながら困惑していた。


「え?!アレ?!モルさん?!」

 そうそのモルモットは、私がちょっと懸想していた書き手のモルさんのアイコンと瓜二つだった。


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