青妖精族とカラシニコフの組み合わせだと
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──青妖精族とカラシニコフの組み合わせだと
我々は合意に達し、青妖精族に武器弾薬を提供することになった。それと同時にバルトロの軍事部門が彼らを訓練し、青妖精族の若い男たちを現代戦に適応した兵士たちへと訓練していく。
実に幸いなことにこの隠れ里には精霊帝国の手は全く及んでおらず、訓練を行うには打ってつけの場所であった。
我々は青妖精族の若者たちに基本的なAKM自動小銃の使い方を、PKM汎用機関銃の使い方を、RPG-7対戦車ロケットの使い方を、60ミリ軽迫撃砲の使い方を教え込んだ。
「凄い……」
彼らは現代の銃火器がもたらす破壊力を十二分に理解し、畏怖した。
標的である黒い人型の的が鉛玉で蜂の巣にされるのを見て、対戦車ロケットのもたらす破壊力を見て、軽迫撃砲の火力を見て、彼らはこれさえあれば精霊帝国に勝てるという確信を抱いた。同時にこの力が恐ろしいものであることも理解した。
これまで青妖精族は弓で精霊帝国と戦ってきた。この東部山岳地帯に群生する植物を加工したもので、その射程は40メートル程度。腕のいい青妖精族の射手ならば、1分間に12本程度の矢が放てるそうである。
だが、その装備はあまりにも貧弱すぎた。
精霊帝国の兵士たちはクロスボウの射程の中に青妖精族の抵抗運動──ミラ国内軍の兵士たちを収めることができたし、たとえ1分間に12発の矢を放っていようと圧倒的数の優位を誇り、魔術によって攻撃を繰り広げてくる精霊帝国には手も足も出なかった。
しかし、我々のもたらした兵器でその事情は大きく変化することになる。
銃火器で武装した青妖精族の火力も射程も絶大なものであり、精霊帝国の傭兵たちを容易に葬り去ることができる。慎重に戦いさえすれば、貴族だろうと殺せる。
「これは……戦場を変えてしまうな」
訓練の様子を見に来たカミルはそのように告げて呻いた。
戦争は変わるだろう。必要なステップを踏まずに進化した戦場において、彼らがどこまで適応できるかは問題だ。だが、その問題があれど、青妖精族は銃火器で武装することは止められない。これからの戦場は昔ながらの弓を使った戦いではなく、ウィンストン・チャーチルが嘆いたような殺戮の場になるのだ。
そのことにカミルは衝撃を覚えているのだろう。
「どうだろうか。これが精霊帝国と戦ってきた武器というものだ」
青妖精族の体形は人間と変わりなく、人間のために設計された武器も取り扱うことが出来た。そして、今けたたましい銃声を響かせて、射撃訓練に勤しんでいる。
だが、少しばかり人間より華奢なのか、命中率は人間のそれと比べると劣る。誤差の範囲内ではあるが、その分訓練はしっかり行って置かなければならないだろう。
射撃に加えて整備の訓練もして置かなければならない。カラシニコフが如何に頑丈な武器であろうとも、いつまでも整備なしで動くほど世の中は甘くはない。カラシニコフの銃身を掃除し、機関部をメンテナンスしなければ弾詰まりを起こして、いざという場合に弾が出ないという事態になってしまう。
青妖精族に限らないのだが、彼らは現代的な銃火器を工業製品ではなく、魔法の道具だと思っている節がある。ある意味では彼らがそう考えるのも当然だ。この世界には工業製品と呼べる工業製品はなく、どれも職人が腕を振るって作った作品ばかりなのだ。
大量生産も、共通規格の概念もない世界に、突如として大量生産の象徴ともいえるカラシニコフを持ち込んだ結果、それは工業製品に対する整備の重要性の不理解とともに、奇妙な風習を呼び込むことになった。
兵士たちは銃に祈りの言葉を刻み、他の兵士たちの銃と自分の銃を区別しようとし始めたのだ。彼らにとってこの銃火器は大量生産されたもののひとつではなく、自分のために生み出された世界にひとつのものだと思おうとしたわけだ。
大量生産され、大量消費される工業品に慣れた我々には、奇妙に映る光景だ。どれをどう使っても同じ結果が出せるのが、大量生産された工業製品の素晴らしいところなのだ。それをわざわざ区別するなどとは。
彼らは銃に祈りの言葉を刻み込むことによって、それが魔法の道具であると信じ込もうとしているのだろう。それは問題の解決になっていないし、非合理的だが、突如として未知の道具に遭遇した彼らにとっては論理的なのだ。
「素晴らしいな、銃という武器は。これがあれば精霊帝国など恐れるにたらん。ヤシロ、この武器はどの程度我々に供給してもらえるのだろうか?」
「ひとり1丁は必ず。これからは弓ではなく、全面的に銃で戦うことになる。だが、用心してくれ。精霊帝国の貴族が操る魔術は時として、銃火器の性能を上回る」
「……そうだな。確かに楽観することはできない。精霊帝国の貴族どもの魔術というのはこの世の理を捻じ曲げたものだ。それがどのような威力を発揮するかは貴族次第だが、高位の貴族となると本当に脅威となる。黒書騎士団がそうだった」
「黒書騎士団を知っているのか?」
カミルが苦々しく告げるのに俺が疑問に思ってそう尋ねた。
「12世紀前。ミラ王国を滅ぼしたのが、黒書騎士団だ。圧倒的な魔術によって我々はねじ伏せられ、王国は崩壊し、我々生き残りはこの東部山岳地帯に追い込まれてしまった。今はミラ王国のあった大地はティベリア藩王国に併合されてしまっている」
彼らは元から山岳地帯の民ではなかったのか。元はティベリア藩王国のある土地にミラ王国はあったのか。そして、彼らは12世紀前に滅ぼされ、山岳地帯に追いやられた。それからの12世紀の歴史の間に、彼らは山岳地帯での暮らしを学んだのだろう。
「黒書騎士団とはやはり強力なのか?」
「ああ。今も変わってはいないだろう。連中は精霊公に次ぐ魔術の才能を持ち、全てを焼き払い、全てを水に沈め、全てを吹き飛ばし、全てを土の下に埋め尽くす。連中に対抗するにはもっと強力な武器が必要になるかもしれない」
黒書騎士団の戦力はこの目で確認した。あの炎の魔術だけでも相当な脅威だというのに、それ以外にも強力な魔術があるとは、奴らに立ち向かうのは相当苦労することになりそうだ。ある意味では地球の常識は通用しないのだ。
「皆の者」
俺とカミルがそんな会話をしていたとき、エリスの声が響いた。
「訓練に励んでいるようだな」
「はっ。殿下、ご視察いただき光栄です」
エリスがそう告げるのに、カミルがそう返した。
「ヤシロ殿。どの程度状況が進んでいるか教えてはもらえるだろうか?」
「それでしたらコシチュルシュコ元帥にお聞きなった方がいいかと」
「元帥からは既に報告は受けている。妾はあなたからの報告を聞きたいのだ」
こういう流れでカミルが面子を潰されたと思わないといいのだがと思ったが、カミルは事前にこのことを了承していたようであり、俺に何の迷いもなく頷いて返した。
「では、ご説明を」
まず手を付けなければならなかったのは、部隊の編制からだった。
これまでミラ国内軍の部隊の編制は、5名1組のグループで戦っていた。それ以上の部隊がまとまって行動することはない。
というのも、彼らはどこまでも機動力で勝負することに賭けていたからだ。弓では火力は発揮できず、精霊帝国の貴族たちや大軍勢と真正面から戦うことになると、いいようにやられてしまうのがオチであったがために。
だから、彼らは機動力に重点を置き、機動力を以てして作戦に臨んだ。そういうと聞こえがいいかもしれないが、実際は死人の数を減らすためだ。
これまで青妖精族側は戦えば戦うほど犠牲が増え、全滅の危機にあった。だが、抵抗運動はミラ王国の存在を示すために、攻撃を続けなければならなかった。たとえ死人が出ようとも抵抗運動を続けなければならなかったのだ。
だから、彼らは攻撃を仕掛ける部隊の規模を小さくした。攻撃はするが、大部隊を投入して、大きな犠牲が出ることは避ける。必要最小限の戦力を山岳地帯を縦横無尽に機動させて、敵を撹乱させ、それでいて犠牲は1、2名に抑える。
確かにこれまでの戦いだったならば、それはある意味では合理的だ。
だが、これからは異なる。
これからの戦闘では機動力を生かしながらも、火力を発揮して戦うことになる。確かに5名編成なら機動力は高いだろうが、火力という点においては普通の分隊に劣る。そうであるからにして、5名編成の部隊を通常の10名編成の分隊にしなければならない。
基本的に俺は部隊を竜騎兵として運用するつもりだ。竜騎兵。銃火器で武装した騎兵。戦闘時には下馬することが多く、移動のために騎乗する。
これを分隊単位で組織し、AKM自動小銃に加えて、PKM汎用機関銃やRPG-7対戦車ロケットなどを含めた部隊として運用する。
作戦の基本単位はまずはこの分隊から始める。それから小隊を組織し、より大規模で、高度な作戦に耐えられるように指揮官たちを育成していく。
これまでの5名編成のときから10名編成になるのは指揮官にとっては2倍の負担だ。それに耐えられるようにきちんと指揮官を育成し、サポートしていかなければ、いくら現代兵器を供給したところで成果は見込めない。
指揮官は兵站を把握し、兵士それぞれのコンディションを把握し、自分の兵力でできることを考えなければならない。5名から10名の増員というものは、単に人数が増えただけで終わる話ではないということだ。
指揮官はこれまでは存在すらしなかった下士官の力を借りて、部隊を取り纏めなければならない。指揮官は自分に2倍の重みが伸し掛かるのに、耐えなければならないのだ。
指揮官の教育も、射撃訓練と同じように重要だった。
今は銃火器に慣らすとともに、指揮官を育成していかねばならないわけだ。
「現在訓練中の戦力が実戦力になるまでは?」
「最低でも残り2週間。指揮官はこれまでの襲撃という実戦を積んでいるだけあって、それなりの者たちが揃っていると見ています。指揮官に教えることは多々ありますが、実戦で学んでいれば習得も早いでしょう。後は銃での戦い方になれるだけです」
エリスが尋ねるのに、俺はそう告げて返した。
幸いにしていろいろな指揮官の負担を上げたものの、その多くは彼らがこれまで少なくない実戦経験を積んでいるということで解消される見込みである。もっとも、これまでの損耗率からして、経験豊富な兵士がどれだけ生き残っているかは問題になるが。
後は銃火器を使った戦術に慣れてもらうことだ。弓の戦闘とは戦闘速度も、射程も、死ぬ人間の数も変わってくる。弓の戦闘と同じペースで戦っていては、時間が無駄になるし、無駄な損害も出してしまう。
火力を叩き込み、迅速に移動する。それが必要だ。
「それから動物を銃声に慣れさせなければなりません。あなた方の使用する鹿はまだ銃声に怯えている。これがクリアできれば、ようやく実戦段階だ。それまでには2週間はかかるだろう。彼らに銃火器は脅威ではないと教え、銃声に慣らしていかなければ」
何も軍隊に使用される動物は軍用犬だけではない。昔ながらの馬は、今も警察や軍の治安部隊で使われている。犬と猫は人類の良き友であるが、馬もまた古来からの人類の良き友なのだ。この場合は馬ではなく、鹿──とても頑丈な種族だ──を騎乗するものとして使用している。これが機動力の要だ。
北部同盟が馬を使って戦闘を繰り広げたように、このミラ国内軍も鹿に跨って戦闘を繰り広げるわけである。山岳地帯での戦闘において、そのような輸送手段があることは望ましい。軍用ロボットがあれば、解決できる問題だったが、21世紀序盤にはそんなものはなかった。馬だけが頼りだったのだ。
その教訓のためか日本情報軍では乗馬の訓練も一部では行われていた。馬を使って移動する軍属の中に紛れるには、そのような技術が必要なのだ。
もっとも、中央アジアの軍閥のお気に入りはどこの戦場にでもよくある日本製のピックアップトラックに、重機関銃を据え付けたものであったが。テクニカル。あれはどんな戦場でも見かけないことはない。
しかし、それでも道が碌に整備されておらず、切り立った崖を進まなければならないような場合は、日本製のピックアップトラックよりも、動物の方が頼りになる。扱い方を間違って、崖から転落するようなことがない限り。
「我々の扱う鹿たちは賢い。しっかりと教えてやれば、銃声が響いても狼狽えて、暴れ出したりはしないだろう」
エリスはこれまで自分たちの活動を支えていてくれた鹿たちに自信を持っているようだ。やはり愛着というものが湧くのだろう。
「皆さん」
俺とエリス、カミルが話していたとき、エーデが姿を見せた。
「お茶をどうぞ。訓練中の方の分もご用意しましたので」
エーデはそう告げて香ばしい香りのするお茶を大きなポットからカップに注ぎ、俺たちの前に並べた。紅茶の類だろうか。だが、カフェインの気配はしない。
「ありがとう、エーデ」
俺はエーデの淹れてくれたお茶に口を付ける。
渋みはあまりない。さわやかな味わいだ。ハーブティーのようなものか。
「どうですか?」
「美味しいよ、エーデ」
エーデにそう告げると彼女は嬉しそうに笑った。
「青妖精族の方々が好むお茶だそうです。私も試してみたのですが、とても美味しかったですので。お口に合えばなによりです」
青妖精族のものだったのか。どうりでカミルやエリスは戸惑うことなく口に運んでいるというわけだったのだね。
「しかし、エーデ。君は随分と青妖精族の里に馴染んだようだね」
「そうですね。皆さんいい人ばかりですし、我々を受け入れてくださっていますから。何かお礼ができるといいのですが」
エーデはそう告げてエリスに顔を向ける。
「エーデ。そう急かずともよい。そなたのことを頼る日は近い。我々の軍勢が戦う準備を整えたのならば、ともに戦ってもらいたい。女神ウラナとは女神シバと同じ存在。聖女であるそなたが、ともに戦ってくれるならば、皆の者も励まされるだろう」
「はい、エリス殿下」
さて、我々はそのエーデの戦いのためにも、青妖精族を武装化させなければならない。彼らに訓練を施し、武装を与え、憎悪を焚きつけて精霊帝国にぶつけるのだ。
これからこの穏やかな土地も血と硝煙の臭いの漂う場所になるのだろう。
そう思うと心が少し安らぐのを感じた。
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