表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/148

まさかの時の異端審問

……………………


 ──まさかの時の異端審問



 時刻0300(マルサンマルマル)


 我々は闇夜に隠れ、教会騎士団の宿舎を包囲するように展開した。


 教会騎士団の宿舎は3棟の建物によって構成されており、その建物の外周は塀で囲まれている。3棟の建物のうち、2棟が騎士の宿舎で、1棟は下層民である衛兵の宿舎と異端者として囚われている人間の牢獄がある。


 塀のある門には当然ながら衛兵がおり、我々はその衛兵をエーデとともにコンバットナイフと銃剣で始末すると、塀の内側に入った。


 塀から宿舎までの距離は200メートルといったところで、十二分な射撃スペースがある。我々は地面に伏せると、全ての部隊が展開し終えるのを待った。


 日本情報軍の都市型迷彩は石畳の道路と石造りの塀によくカバーされており、不用意に動かない限り発見されることはない。そして、脱出する際にも石造りの建物が多く、道路はある程度舗装された、このハリドワール市においてカモフラージュになる。


 デジタルパターンの迷彩服というのはなかなかのもので、ある程度色調が同じならば我々を風景に溶け込ませてくれる。もっとも、一番優れているのは環境適応迷彩だが。そんな高価な装備は供給できないので、今は迷彩服4型と防弾チョッキ4型を支給してある。魔術で生じる破片にも、防弾チョッキ4型ならば耐えられる。


 そして、ここで派手に戦闘を繰り広げた後のことだが、ハリドワール市からの脱出の際には買収した衛兵が城門を開くことになっている。もし、その衛兵が裏切ったとしても突破できるだけの火力はあるので安心していい。


「ヤシロ。全ての部隊が配置についた」


 俺がじっと地面に伏せて、建物をナノマシンに補正された視覚で見張るのにマルコムがそう告げた。マルコムは指揮官として暗視装置が装着されてたAKMN自動小銃を手にし、この暗闇の中で顔にドーランを塗って潜んでいる。


「よろしい。では、始めるとしたまえ」


「分かった。照明弾、用意!」


 俺が告げるのにマルコムが命令を下した。


「照明弾、撃て!」」


 その合図とともに照明弾が空高く打ち上げられて、教会騎士団の宿舎を照らす。


「RPG班、射撃用意!」


 照明弾が明々と教会騎士団の宿舎を照らし出すのに、兵士たちがRPG-7対戦車ロケットを構える。目標は教会騎士団の兵舎の窓。


「撃ち方始め!」


 RPG-7対戦車ロケットから放たれるのは、サーモバリック弾だ。


 その弾頭は教会騎士団の宿舎に突入し、そこで巨大な火の玉を形成する。衝撃波と噴煙が大地を舐め、空気を揺るがし、炸裂の痕跡を宿舎に刻み込む。窓から突入した弾頭は部屋を丸々ひとつ完全に吹き飛ばした。


 サーモバリック弾はその特徴的な火の玉を形成する爆発から、熱によって人を殺しているように見える。死体を見れば肺が潰れていることもあり、熱が酸素を奪って敵を殺傷しているのではないかという考えも浮かぶ。


 だが、実際のサーモバリック弾の威力の象徴は衝撃波だ。


 強力な衝撃波を以てして、相手を押し潰す。それこそがサーモバリック弾の強みだ。


 その特徴故に装甲車内や頑丈な建物の中にいる兵士にはあまり効果が見込めない兵器だが、衝撃波の伝わりやすい塹壕やソフトスキンの車両、そして簡易な室内などでは実に高い殺傷能力が見込める。ことに閉所でサーモバリック弾が炸裂すれば、間違いなく中の人間は死ぬだろう。


 そんなサーモバリック弾が同時に4発放たれ、教会騎士団の宿舎の一部を吹き飛ばした。発生した炎が建物に火をつけ、宿舎が炎上を始める。


「装填! 撃ち続けろ!」


 ここで畳みかけるように対戦車ロケット(RPG)が放たれ、再び宿舎を吹き飛ばす。この照明弾の明かりで照らし出された宿舎の中で、騎士たちが倒れる黒いシルエットが見える。恐らくは寝ていたところにサーモバリック弾を叩き込まれ、派手な目覚まし時計で起きることになった騎士たちが死んでいく。


「マルコム。敵が出てくる。準備してくれ」


「分かった。小銃班、機関銃班、宿舎の扉によおく狙いを定めておけ!」


 こちらは完全にこの戦闘の主導権を握っている。優位なのはこちらだ。


 主導権は常に攻撃によって得られる。サッカー選手が主導権を握るためにボールに食いつくようにして、軍事においても主導権とはボールを持っている人間──すなわち、攻撃を行っている人間の側に就くのだ。


 防御側は積極的な防衛措置を取らない限り主導権を有さない。要塞に篭った敵は必ず負けるという言葉の通りに、守備に徹していても勝利は得られない。そのことはコンスタンティノープルが、旅順が、セヴァストポリが証明している。救援の見込みも、反撃の見込みのない防衛は磨り潰されて終わる。


 現状、教会騎士団はそのような状況にあった。


 外部から対戦車ロケット(RPG)で滅多撃ちにされて、買収された衛兵が救助に来ない彼らは主導権のない防衛側だ。



 そして、これから虐殺が始まる。



 宿舎が燃えだし、炎に焼け出された教会騎士団の騎士たちが扉から飛び出て来る。誰も彼もがパニックに陥っており、冷静で、組織的な行動はできていない。騎士と名乗っていても、寝込みを襲われれば下層民と変わりない。


 そこにAKM自動小銃とPKM汎用機関銃が火を噴き、銃弾が騎士たちを薙ぎ払う。騎士たちは大慌てで炎から逃れてきたところを、けたたましい銃声とともに叩き込まれたライフル弾の前に血飛沫を撒き散らしながら地面に押し倒される。


「敵だ! 敵襲だ!」


「どこにっ!?」


 この状況でこれが敵襲だと理解できた騎士は冷静だ。この銃火器のない世界で、サーモバリック弾によって焼け出され、銃声によって歓迎されているのを、敵襲だと判断できるのは、彼らがまだ軍事組織であることを示している。


 これがただの烏合の衆ならば、これが何なのかも理解できずに死体になっていただろう。現代においても銃火器と縁のない世界においては銃声が響いても、とっさに行動することはできない。2015年に起きたパリのテロでも即座に行動できた人間は稀だったし、2029年に起きた新宿のテロでも対応できた人間はほとんどいなかった。


 アメリカのような銃社会では銃声に危険を感知して敏感になるそうだが、そうでない場所では人は銃声が響くことにただ危機感を持たずに関心を示すだけか、あるいは全く興味を示さずにそのまま銃弾の餌食になる。


 そうであるがためにこの襲撃を咄嗟に敵襲だと判断できた騎士は有能だ。この状況が敵の攻撃であると理解できているのは優秀な兵士である証拠だ。


 だが、攻撃に気づいても、対応出来なければ意味がない。


「壁よ!」


 炎が燃え盛り始めた宿舎の前で、騎士のひとりが鉄の壁を形成した。銃弾が壁に弾かれ、不快な金属音を響かせる。壁の厚さはそれなりのものであり、ライフル弾でも貫けないものになっている。そのことに銃撃が一時的に止まる。


「槍を放て!」


 そして、次は敵が主導権を奪い返そうと、攻撃を仕掛けてきた。


 鉄の壁に氷の膜ができ、そこから氷の槍が周囲に放たれる。


 だが、狙いはお粗末だ。まるでこちらに命中する様子はない。氷の刃は空を切り、明後日の方向に飛んでいった。


 教会騎士団は領地を相続しない貴族の子息たちの集まりだと聞いていたが、それは魔術に優れたものこそ世界を支配するべきだという思想の精霊帝国において、魔術の才能で他の兄弟に劣っているということを意味する。


 我々は他の貴族や、魔術師の頂点である土の精霊公とも戦ったが、それらに比べると教会騎士団の貴族の魔術は明白に劣っている。精度も、速射性も、応用力も、あらゆる面でこれまで戦ってきた精霊帝国の貴族たちに劣っている。


「このまま畳み伏せよう。エーデ、準備はいいかな?」


「お任せください、ヤシロ様」


 エーデも貴族の流す血の臭いで興奮しているようだ。彼女は銃剣を装着したM14自動小銃を手に、今にも貴族たちの犇めく宿舎に突撃したがっていた。


 彼女が自分の身を危険に晒すことについて俺はもう何も言わない。彼女が望むのであれば、それを受け入れよう。我々が中央アジアで使った子供兵たちのように、彼らが危険に向かって突き進むのを見守ろう。


 だが、中央アジアの替えが利く子供兵と違って、エーデという聖女はひとりしかない。彼女以外の人間に聖女は務まらない。


 であるならば、俺もまた戦場に飛び込んで暴れなければならないということだ。


「マルコム。正面の敵の防壁に対戦車ロケット(RPG)を。壁が崩れたら、聖女エーデと俺が斬り込む。支援してくれ」


「分かった。死ぬなよ?」


「死ぬつもりはない」


 俺は手の中にあるHK416自動小銃を握りしめると、マルコムの部下であるルンビニ革命議会の兵士がRPG-7対戦車ロケットに対戦車榴弾を装填する様子を観察した。きちんと訓練されており、暴発させるような真似はしない。


 そして、対戦車榴弾が装填されたRPG-7対戦車ロケットの砲門が騎士の展開し、今もその向こうから攻撃を放っている鋼鉄の壁に向けられる。


「撃ち方始め!」


 マルコムの命令で対戦車ロケットが火を噴く。


 壮絶なバックブラストが吹き荒れ、対戦車榴弾は騎士の展開している鉄の壁に向けて飛来した。その数2発。距離は150メートル程度。


 1発は狙いを逸れて宿舎の壁に命中し、そこで破砕された宿舎の壁面を振りまいた。そして、もう1発は鉄の壁にめり込み、食らいつき、鉄の壁を引き裂いてその向こうにいる教会騎士団の騎士たちに鉄の壁の破片をばら撒いた。


 それと同時に鉄の壁が消滅する。壁を展開していた騎士が死んだのだ。


 壁の向こうにいるのは動揺した騎士たちが7、8名。もうそれだけしか敵は生き残っていなかった。恐らく大部分はサーモバリック弾によって殺害され、機関銃によってなぎ倒されたのだろう。彼らはこれを敵襲だと理解できたが、それが些か遅かった。


 残るは魔術の才能で劣る敵が僅か。これならば行ける。


「エーデ。今だ、行こう」


「はい、ヤシロ様」


 俺が光学照準器を覗き込みつつ、前方に足を進めて銃撃を行うのに、エーデが騎士たちに向けて恐れることなく突撃した。


 エーデの動きは相変わらず、奇跡のように素早い。一気に騎士たちとの距離を詰め、騎士たちに肉薄する。騎士たちは咄嗟に攻撃の手をエーデに向けようとするが、その動きは俺が牽制し、攻撃を放とうとする騎士たちを撃ち殺した。


「こ、このっ──」


 騎士たちが出鱈目に攻撃を放とうとするが、エーデはそれをひらりと躱し、銃剣を以てして応じた。碌に鎧を付ける暇もなかった騎士たちの喉を貫き、心臓を貫き、肝臓を貫き、そして抉りながら銃剣を引き抜く。


 鮮血がエーデを彩る。踊るようにステップを踏んで、軽やかに攻撃を繰り広げるエーデは炎上する宿舎を背景に浮かび上がり、その美しさをルンビニ革命議会の兵士たちに示していた。血塗れの奇跡を示していた。


 俺は可能な限りエーデを支援する。騎士たちの頭を二連射ダブルタップで弾き飛ばし、エーデの死角になっている部分の騎士たちを射殺しながら、流れる血と燃え盛る炎の下で舞い踊るエーデを支援する。


 エーデの舞踏が終わったのはエーデの突撃から3分後のことだった。


 エーデは血の海に倒れた騎士たちの頭に7.62x51ミリNATO弾を叩き込み、確実に殺害した。死体の山が積み重なり、俺の補正された視野にも血の海が広がっているのが見える。エーデはその血の海の中に佇み、1発、1発と騎士たちを殺していく。


「エーデ。それで十分だ。終わりにしよう」


「分かりました」


 エーデは素直に我々の方に戻ってくる。


「これで騎士たちは全滅だな」


「残るは囚われている仲間たちを解放し、食料に火を放つだけだ」


 マルコムが満足そうに告げるのに、俺はそう告げて返した。


「ああ。今日は勝利の日だ。俺たち抵抗運動が精霊帝国の貴族たちに勝利した日だ。この日は歴史に刻まれるだろう。偉大なる第一歩を踏み出した日として」


 偉大なる勝利の日か。


 ペネロペの機関紙もこのことを勝利として民衆に知らせるだろう。抵抗運動は猛々しく戦い、教会騎士団を葬ったと。これはまさに抵抗運動の勝利であると。


 だが、事実はどうだ? 抵抗運動は騎士たちの寝こみに爆薬を叩き込み、その勢いで勝利しただけだ。全ては俺がアティカから魂の取引で手に入れた武器によってなされたものだ。抵抗運動はただ引き金を引き続けただけだ。


 それでも勝利ではある。勝利だと認めよう。我々は勝利した。


 宣伝材料にもなる有意義な勝利だ。この勝利を手に、我々は混乱を拡大させよう。このまま内戦の炎を燃え上がらせよう。



 それで何万人死のうと構うものか。



「捕虜の奪還を急ごう。衛兵全てを買収したわけでもないし、ここまで騒ぎが広がれば面倒なことになる。捕虜は満足に身動きできないかもしれないし、急ぐに越したことはない。まだ戦争は続いているのだ」


 そう、戦争は続いている。


 殺し、殺され、憎悪の絡み合う戦争はまだ続いているのだ。


……………………

面白そうだと思っていただけましたら評価、ブクマ、励ましの感想などつけていただけますと励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「人を殺さない帝国最強の暗殺者 ~転生暗殺者は誰も死なせず世直ししたい!~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ