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大通りの死闘、血生臭い奇跡

……………………


 ──大通りの死闘、血生臭い奇跡



 エーデに向かってくる高圧水流。


 それをエーデはまるで取るに足らないもののようにして回避した。


 ひらりと身を翻し、高圧水流はそのまま建物に命中し、建物の構造物を破壊する。


「なっ……! おのれ、賊めが!」


 それでも貴族は一瞬怯みはしたものの攻撃を続けた。


 次は地面から氷の刃が次々と突き出されていくもので、その攻撃は大通り全体を攻撃するに及んでいた。これでは流石のエーデも回避できないのではないかと思い、俺は光学照準器のレティクルを貴族の胸部に定める。


「無駄です」


 だが、エーデはその攻撃すらをも回避した。


 彼女は建物の壁を蹴って駆けのぼり、そのまま壁を突き進んで、貴族に向かって突撃を続けているのだ。信じられないことに。


 比喩表現などでも何でもなく、エーデは建物の壁を突き進んでいる。壁を蹴り上げ、壁を蹴って、そうやって壁を恐ろしい速度で直進している、


 こんなことは訓練された特殊作戦部隊のオペレーターが強化外骨格エグゾを使ったって不可能だ。現実離れしている。こんなことができるのは映画の世界だけだ。


 だが、エーデは現に壁を蹴って進んでいる。


 信じられない光景だが、目の前のそれは現実だ。


「クソッ! ならば、これでどうだ!」


 貴族はさらに攻撃を放った。


 次は氷の槍を連続してエーデに向けて放つ。鋭い氷の槍がエーデに向けて迫る。壁を進んでいるエーデにはそれを避けることもできず、貴族の攻撃は命中するかのように思われた。それが放たれて、エーデの眼前に迫った時には。


「温い、です」


 だが、それはエーデに達さなかった。


 エーデは銃剣を装着したM14自動小銃で氷の槍を叩き落とした。氷の槍を銃剣で弾き、その鋭い刃をいなしながら、エーデはさらに突撃していく。


 甲高い金属と氷の衝突する音が響き、氷の槍がエーデから逸れる。5、6本という氷の槍が迫るのにエーデはそれらを弾き飛ばしながら、突撃していく。


 あり得ない動体視力だが、エーデはそれを実現した。自身は盲目であるというのに、それを行うことを可能にしたのだ。エーデに攻撃は達さず、ひたすらに貴族へ向かい突き進む。貴族がどう攻撃を放っても、それは彼女に達さない。


「馬鹿な。そんな馬鹿な」


 流石の貴族もエーデの“奇跡”を前にして恐怖し始めた。


 ここまでくれば俺の出番だ。


 貴族の注意が完全にエーデに向けられているのを確認すると俺はG28Eマークスマン・ライフルで貴族の杖を握った腕を撃ち抜いた。貴族は反応が遅れ、杖を取り落とし、こちらまで響く悲鳴を叫んだ。


「神のために」


 エーデが壁を大きく蹴って貴族に向けて跳躍した。


「ま、待て! おのれ! このっ!」


 エーデが貴族の懐に飛び込もうとするのに貴族が氷の槍を出現させ、それを握った。


「そう簡単に精霊帝国の貴族を殺せるなどとは思わないことだ!」


 貴族は槍を構えてエーデを迎え撃とうとする。


「どうあっても死んでいただきます」


 エーデはそう告げて貴族を狙う。


 エーデが銃剣を突き出して攻撃を展開するのに、貴族は氷の槍でそれを防ぐ。だが、エーデの攻撃は貴族の迎撃より何倍も速い。エーデは次々と銃剣を突き出し、激しい攻撃を繰り広げていき、そして──。


 貴族が悲鳴を上げる。


 エーデは貴族の左手を貫き、傷口を抉り、銃剣を引き抜いていた。


 貴族はついに槍を取り落とし、それが致命的な隙となった。


 エーデは絶望の表情を浮かべた貴族の喉に銃剣を突き立てる。貴族は気泡の混じった血液を吐き出しながら、何事かを告げようとする。最後の言葉を残そうとする。


 だが、エーデはそのようなことには構わず、喉の傷口を抉ると、次は貴族の心臓に銃剣を突き立てた。そして、それが最後のトドメとなり、貴族は地面に崩れ落ちた。周囲には貴族の血でできた血だまりが形成されつつある。


 エーデは最後に貴族の頭に銃撃を加えると、それで戦闘を終わらせた。


 周囲は騎兵の死体と馬だったもので覆われている。


 そこに笛の音が響いてきた。衛兵だ。衛兵が騒ぎをようやく察知してやってきた。


「エーデ。撤収だ」


『了解』


 俺は大通りに衛兵がなだれ込もうとしているのを確認してエーデに指示を出す。エーデはその指示で路地裏に消えた。ここに展開している兵力も撤収を始めており、エーデはその部隊と合流して、廃倉庫の地下まで撤収することになる。


「さて、俺もそろそろ引き上げるとするか」


 衛兵たちが現場を見て、混乱した様子を見せるのを確認しながら、俺も撤収を始めた。装備を畳み、何も残さずこの場から立ち去る。



 これで奇跡は示された。血生臭い奇跡が。



 後はこの奇跡をルンビニ革命議会がどのように受け取るかだ。


……………………


……………………


 ルンビニ革命議会との2度目の会合も同じ廃倉庫で行われた。


 我々は俺とエーデ、そしてシンドーナ兄弟だけが出席し、ルンビニ革命議会側ではジェラルドと他の主だったメンバーが顔を合わせた。


「これで奇跡は示したつもりだ。貴族は死んだ。ジークムント・フォン・シーラッハは死んだ。ここにいる聖女の手で殺された。そのことは既にそちらも把握しているのだろう? それとも一から話して聞かせなければならないかな?」


 俺はそう告げるのに、ルンビニ革命議会側の男が渋い表情を浮かべる。


「確かにジークムント・フォン・シーラッハは死んだ。そのことは俺たちも確認している。喉に一撃、心臓に一撃、頭に一撃。それで殺されていた。だが、本当にそこにいる聖女とやらがそれを成したというのか? 魔術師である貴族を相手に?」


 男のひとりがそう尋ねる。


「確かだ。あの襲撃の現場を見ていたものは居ないか?」


 俺が尋ねるのに全員が首を横に振る。


「だが、信じるしかなさそうだ。わざわざ嘘をついてもしかたがないし、お前たちは実際にジークムント・フォン・シーラッハを殺した。約束は果たされたのだから、こちら側も誠意を示さなければならないだろう」


 男はそう告げて前に出る。


「ルンビニ革命議会実働部隊の指揮官であるマルコム・モズレーだ。これから共に戦うのであればよろしく頼む」


「こちらこそよろしく頼む」


 マルコムが手を出すのに、俺はその手を握った。


「それで実際に動かせるのはどれくらいだろうか?」


「指揮下にあるのは200名前後だ。それも各地に点々としている。このカルナック市に限れば30名程度だ。10年前の蜂起で組織は大打撃を受けたままだし、ルンビニ公国総督のユーディトは我々が抵抗することを阻止している」


 200名か。南部国民戦線も最初は500名だったが、その半分以下。


 10年前の蜂起失敗の打撃が残っているとしても、組織力は極めて低そうだ。それでも抵抗を続けてきたという実績は評価されるだろうし、期待してもいいだろうが。


 だが、この人数で精霊帝国とやり合うのはぞっとする。南部から応援を呼ぶのはもちろんだが、この地で兵力を調達することも考えなければならない。


 となると、やはり教会をどうにかする必要があるか。


「教会が問題になっていると考えているが間違いないだろうか?」


「ああ。精霊教会は厄介な相手だ。教会騎士団は少しでも反抗の意志を示せば火あぶりにするし、教会は下層民の聖職者たちに炊き出しをさせて民衆が反乱を起こすのを阻止している。どちらもどうにかしないと、このままじゃ俺たちは抵抗運動レジスタンスを続けることができない」


 教会。宗教。神。


 確かに面倒な相手だ。相手は一見して対反乱戦(COIN)の基本に反しているように見える。教会騎士団は民衆に恐怖を与えるだろうが、恐怖による統治は永続しない。恐怖で民衆を抑え込んでも、いずれは破綻する。


 中南米や中東の独裁政権がそうであったように。恐怖だけで統治を続けることは難しいのだ。無論、中南米や中東の独裁政権が崩れた原因には、外部からの影響という面があることは否定しない。独裁政権下の中南米の民衆にも、中東の民衆にも、そして冷戦下の東側の住民たちにも自分たちの世界とは異なる外部があることは知られていた。自由で、豊かな憧れの世界があることは示されていた。


 精霊帝国にはそれがない。どこを見ても精霊帝国による支配だけがあり、自由で豊かな世界など存在しない。そのためにもしかすると、この精霊帝国による完全支配が行われている世界においては恐怖による統治は完全に持続するかもしれない。


 だが、外部の影響がなくとも、やはり恐怖だけで民衆を統治するのは難しいだろう。経済的な失策や恐怖政治の要である軍事力の敗退などがあれば、恐怖によって統治されてきた独裁政権は崩れ得るのだ。


 だが、このルンビニ公国を治めるルンビニ公国総督ユーディトは恐怖だけで統治しようとはしてない。彼女は精霊教会を通じて、民衆への支援を行っている。


 対反乱戦で民生支援を行い、人心を敵勢力から切り離すというのは基本だ。いや、対反乱戦のみならず、民衆を巻き込んだ21世紀の戦場では常識だ。


 各種インフラを整備し、人々の生活を安定させ、そのことで民衆の支持を得る。


 それは正式に認められた国家も行っており、反乱勢力や軍閥も行っている。パレスチナでは長年武装勢力が民衆の支持を得るためにインフラを整備してきた。ことに食料提供に限れば、第二次世界大戦後のアメリカによる大規模な支援もある。


 そのことをユーディトや精霊教会が理解して行っているのかは分からないが、彼らが対反乱戦において有効な手を打っているのは確かだ。精霊教会は民衆の人心の離反を防ぎ、体制側に留めている。そのせいでここの抵抗運動は行き詰まっているのだ。


 精霊教会をどうにかしなければ、この先も行き詰まったままだ。


「では、精霊教会の活動を妨害することにしよう。この地の精霊教会についての情報を頼めるだろうか?」


「分かった。我々が知っている範囲のことを教えよう」


 俺の問いに、マルコムが語り始める。


 この地の精霊教会はルンビニ公国総督ユーディト・フォン・ファルケンホルストの全面的な支援を受けているということ。教会は独自に税を徴収して財源にしているが、それに加えてユーディトから受け取った資金も活動資金にしている。


 教会騎士団は下層民の聖職者の活動をさして重要だとは思っておらず、軽視している。そのせいか教会騎士団の騎士が、炊き出しを妨害することもある。その点では精霊教会は意見を合わせることができていない。


 つまり、精霊教会の一部は炊き出しの意味を理解し、対反乱戦として行っているものの、教会騎士団を初めとする一派はそれを理解せず、自分たちの恐怖による統治こそが、ルンビニ公国の支配を固めていると考えているということ。


「なるほど。それはいい。敵は本当の意味で抵抗を削っているものを理解していないというわけだ。そうであればどうとでもなる」


 敵が対反乱戦を完全に理解していれば、面倒な相手だっただろう。だが、一番厄介なように見えて、実際はこちらにとって好都合であることに教会騎士団はそれを理解していない。彼らは中南米の独裁政権を支えた死の部隊のように民衆を殺すだけだ。それでは抵抗運動というものを完全に殺しきることはできないのだよ。


「何か手はあるのか?」


「もちろんだ。手はあるとも。ついでに聞いておきたいのだが、ルンビニ公国の食料事情は南部からの輸入に頼っているということは確かかな?」


 これは念のために聞いておかなければならない。


「そうだ。ルンビニ公国で流通する食料のほとんどは南部のものだ。ここでは碌な作物が育たない。芋ぐらいはとれるが、それだけだ。他の作物は土壌が悪いのか、あまり育たない。育ったとしても小さなものだ。ルンビニ公国はその点を南部に依存している。南部は穀物がよく育つし、他の作物も大きく育つ」


「それらはどのような経路でルンビニ公国に?」


「運河と街道を経由して運ばれる。特に運河での移動が大きい。南部からルンビニ公国まで流れるライン運河を使った輸送量はそれなりのものだ。あれを建造するために多くの下層民が命を落としたことだしな」


 運河か。少しばかり面倒な相手だな。


 だが、不可能ではない。


「よろしい。では、まず作戦の第一段階として──」


 俺がルンビニ公国の地図を見下ろす。



「民衆から食料を取り上げる」



……………………

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