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南部独立宣言

……………………


 ──南部独立宣言



 土の精霊公ゲルティ・フォン・マントイフェルの死はペネロペの機関紙によって盛大に宣伝され、またしても抵抗運動レジスタンスが勝利したことが民衆に伝えられた。これまで南部人たちに圧政を敷いていた南部属州総督は死んだのだと。


 民衆は静かな喜びに沸いている。


 未だに南部属州が精霊帝国の支配下にある以上、勝利を盛大に祝うことはできないが、それでもこれで精霊帝国の支配は緩んだことは確かだ。


 人々は衛兵のいない場所で勝利に乾杯し、抵抗運動の兵士たちを讃えた。


 これで南部において民衆の支持は確たるものになった。


 次に行うべきは北部進撃である。


「我々は速やかに北部においても活動を行わなければならない。そうしなければ、この南部に精霊帝国の大軍勢が攻め込んできて、住民は皆殺しにされ、土地は焼き払われるだろう。精霊帝国はそれで秩序が取り戻せるのならばそうするはずだ」


 俺は自由エトルリア同盟の幹部メンバーが集まった席でそう告げた。


 抵抗運動は確かに敵を疲弊させる。アルジェリア独立戦争においても、ベトナム戦争においても、ポルトガルの植民地戦争においても、抵抗運動との戦いの泥沼に落ちた国家は国家財政に打撃を受けて、国民の反戦意識が高まり、結局膨大な戦力と戦費を投じたにもかかわらず、撤退の憂き目にあっていた。


 だが、それは抵抗運動を鎮圧する側が手ぬるかったからだとも言える。


 アルジェリア独立戦争においては国際世論の植民地主義の終結という背景と、フランス国内の政治的混乱、そして財政という側面において問題があった。フランス軍はその当時核兵器を保有していたが、それをアルジェリアのゲリラに対して使用するような暴挙は国際世論が許すわけもなく、厭戦感情の高まりから撤退を決定した。


 ベトナム戦争においてもアメリカ軍は全力を発揮できなかった。政治的に複雑な要素が絡み合い、ソ連の軍事顧問団がいるかもしれない地対空ミサイル(SAM)陣地を攻撃できないなどの馬鹿々々しい交戦規則が科せられた上に、当の北ベトナム軍は中国などのアメリカ軍が手出しできない場所で訓練を行い、戦力を増強していったのだ。


 だが、精霊帝国にそんな制約は存在しない。


 ここでは精霊帝国こそがルールである。国際条約も存在しなければ、精霊帝国の行動を咎める第三勢力も存在しない。精霊帝国はその行動を全く制約されない。


 であるがために、精霊帝国の動きはこちらの積極的な行動によって抑えていかなければならないのだ。常に戦いの主導権を握り続けるために攻撃を仕掛け続け、決して精霊帝国の有利な状況には持ち込ませない。


 そうしなければ、精霊帝国は何の制限もなく、攻撃を仕掛け、南部の大地を焦土と化すだろう。現状、我々の抵抗運動に完全にそれを阻止する力はない。


「精霊帝国の本土に近い北部に攻め込まにゃならん理由は分かっている。だが、俺たちにそれが可能なのか? 俺たちはようやく南部から腐った土の精霊公を死体にして蹴り出した。だが、北部に進撃すれば、精霊帝国は本腰を入れて対策してくるぞ」


 レオナルドはそう告げて俺の方を見る。


「可能だ。北部も元々は南部と同じく征服された土地だ。その住民たちは南部と同じく虐げられた下層民という住民たちだ。我々が南部でやったことと同じメソッドが使用できる。彼らにも精霊帝国の支配に不満を抱いてもらい、最終的には我々の抵抗運動との連携を目指す。北部人も南部人と同じ下層民なのだと思えば、あなた方も協力することに異論はないだろう?」


 俺がそう尋ねるのにペネロペとトゥーリオはただちに頷いた。難色を示しているのはバルトロとレオナルドだ。


「ヤシロ。あなたの協力にはとても感謝している。だが、我々の目的は南部の解放だ。北部は北部の抵抗運動が解放するべきなのではないか?」


 バルトロはそう告げる。


「言っただろう。北部を先に押さえなければ、南部に精霊帝国の大軍勢が攻め込んでくる。それを阻止するには精霊帝国の戦力を分散させなければならない。北部の解放もまた南部の真の解放に繋がる。無駄なことではない」


 バルトロの問いに俺がそう告げて返した。はっきりと。


「俺は北部人と組むことに異論はない。それで勝てるのならばな」


「勝てる。我々は土の精霊公ゲルティ・フォン・マントイフェルを始末したのだ。兵士たちの練度は極めて高いものになり、野戦においても、市街地戦においても十分な経験を積んだ。そのノウハウを北部の下層民にも伝えようではないか」


 抵抗運動の兵士たちの練度は幾度となく実戦を潜り抜けてきたことで、それなり以上に高いものになっていた。少なくとも貴族とその軍隊を相手にするのにおいては問題ない。ただし、敵の規模がそこまで巨大なものではなければという条件が付くが。


「あたしは賛成するよ。戦略上の問題はさておき、自由を広げなくちゃ。同じ下層民が精霊帝国の貴族に虐げられているのに、それを見捨ててのうのうと自分たちだけ自由を享受するなんて恥知らずな真似はあたしにではきないね」


「奴隷たちは解放されるべきだ。南部人であっても、北部人であっても。我々は言語が違うだけで同じ人間だ。人間が人間を奴隷にし、虐げるようなことはこれ以上続いてはならないことだ。私も北部に進撃することに賛成する」


 ペネロペとトゥーリオがそう告げる。


「後はあなた方だが」


 俺はバルトロとレオナルドを見る。


「分かった。賛成しよう。これも南部の真の自由のためだ」


「勝てるなら、どこまでも勝ち抜いてモレクの首を取ってやろうか」


 ふたりも北部進撃に賛同した。


「でさ、北部進撃も決まったことだし、やっておかなければならないことがあるんだけど、聞いてもらってもいいかな?」


「何かな?」


 ペネロペが告げるのに俺は発言を促した。


「一応、この自由エトルリア同盟で政権を樹立しておかないかなって。その方が効果的に動くことができるし、独立を迎えたときにスムーズに独立できるでしょ?」


 なるほど。ペネロペは亡命政府にも似た仮初めの政権を立てておきたいのか。


 俺は戦後のことなどに興味はないが、政権を樹立することによって組織運営がスムーズに進むようになるのは歓迎できる。


「まずは国防担当。それはバルトロさんにやってもらいたいな」


「任せてもらおう」


 これまでの戦いの実績があるバルトロには向いた担当だ。


「次に渉外担当。これはトゥーリオさんにお願いしたい。トゥーリオさんは脱走奴隷の身分として各地にいる奴隷や酷い扱いを受けている人々の気持ちが分かるから」


「私にその役割が務まるとは断言できないが、努力しよう」


 トゥーリオは剣闘士たちを脱走させた後、自分も脱走奴隷になっていた。


「それから財政関係はレオナルドさんに。資金運用は得意でしょう。けど、こっそり懐に収めたりはしないでね」


「失礼な小娘だな。俺も抵抗運動の立派なメンバーだ。その点において、同じ同志たちを裏切るような真似はしない。預かった金は倍にしておいてやる」


 確かにレオナルドの率いるリベラトーレ・ファミリーは資金洗浄から、非合法な資金運用まであらゆることに携わっている。金を任せるのに彼以上の人間もいないだろう。


「そして、あたしは宣伝担当。これまで通り、機関紙を発行して、私たちの活躍を民衆に知らせるよ。それから独自の情報網で手に入れた情報なども発信していくから!」


 ペネロペがその地位に収まるのは不思議ではない。


「最後に聖女エーデさんはこの自由エトルリア同盟の宗教担当をやってもらえないですかね? 聖女だし、奇跡は示してきたし、神託も受けているし、ばっちりの役回りだと思うのだけれど、どうかな?」


 ペネロペはそう尋ねる。


「ありがとうございます。ですが、その申し出は断らなければなりません」


 だが、エーデはペネロペの申し出を受け入れなかった。


「理由を聞かせてもらっても?」


「私が女神ウラナより与えらえれた神託は精霊帝国を滅ぼせというものでした。私の運命は精霊帝国を滅ぼすことにあるのです。それは南部に根をおろしてしまってはなせません。私は精霊帝国とどのような場面においてでも戦い続けなければならないのです」


 エーデははっきりとそう告げた。


 エーデの目的は精霊帝国の転覆だ。南部の解放ではない。


 であるからにして、エーデは南部解放の象徴になるわけにはいかないということだ。そうなってしまうと南部以外の場所での行動が制限される。この先、南部と馬が合わない抵抗運動などと協力しなければならなくなったとき、エーデが“南部の聖女”であることは大きな問題になる。


 そう考えるならばエーデはひとつの組織に所属しない方がいい。彼女にはあくまで精霊帝国打倒の象徴として、地域や民族の垣根を越えて存在してもらわなければ。


「それは残念。エーデさんが指導者だったらみんな従ってくれるんだけれど」


「私にそこまでの影響力はありませんよ」


 ペネロペが腕を組んで唸るのにエーデはそう告げて返した。


 この子はまだ分かっていないのか。自分の価値というものを。女神ウラナの神託を受け、血塗れの奇跡を起こした自分がどれほどの価値を持っているのか分かっていないのか。それともあえてそれを無視しているだけなのだろうか。


 今の俺には知る由もない。


「では、ここに自由エトルリア同盟臨時政府の樹立を宣言しましょう」


 ペネロペはしつこい勧誘はせず、あっさりとエーデを諦めた。


「よろしい。我々はここに自由エトルリア同盟臨時政府の樹立を宣言する。我々の真の独立がなされることを女神ウラナに祈ろう」


「我々が真の自由と尊厳を取り戻すまで戦い続けることをここに誓う」


 バルトロたちが臨時政府樹立の書類にサインしながらそう告げる。



 独立。自由。尊厳。



 どれも尊いものなのだろう。だが、それは決して宝石のように美しくはない。夥しい血の上に築かれたそれは赤黒く染まり、血生臭さを発している。だが、その言葉そのものはその血を漂白したかのように尊ばれる。


 それは元から尊かったのか、それとも血に塗れたからこそ尊かったのか。


「では、我々の独立、自由、尊厳のために戦いましょう。北部へ!」


 ペネロペがそう告げて、南部独立宣言は密かになされた。


 この南部は表向きは未だに精霊帝国南部属州だが、今やその真の支配者は貴族たちから、自由エトルリア同盟の手に移った。


 そして、我々は次の行動に移る。


 北部攻撃に向けて動くのだ。


……………………

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