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南を治める城にて

……………………


 ──南を治める城にて



 我々がゲルティ・フォン・マントイフェルを殺すと決断した上で問題になったのは、どこで彼を殺すかであった。


 ゲルティの暗殺は全会一致で決定した。南部国民戦線と南部民族会議の連合した自由エトルリア同盟はゲルティの排除を最初の議案で決議し、その作戦のために指揮下にあるほぼ全ての部隊が動員されることになった。


 だが、殺すと決めただけで殺せる相手ではない。


 ゲルティは南部属州総督として厳重に警備されている。常に魔術師──貴族4名と衛兵300名によって警護され、ここ最近では厳重に防護された城から出てくる様子もない。北部にある精霊帝国本土とは騎兵を使ってやり取りしているようであり、ゲルティ本人はここ数か月の間、まるで外に姿を見せなかった。


 こうなるとゲルティが城にいるのかどうかすら怪しくなる。本人は南部を逃げ出して、北部に精霊帝国本土に逃げ出したのではないだろうかと。


 そこで頼ったのはペネロペの情報網だ。


「あたしに任せて! ゴシップはあたしの得意分野さ!」


 ペネロペは各地を旅する行商人たちからも情報を買っていた。そして、敵であるはずの衛兵たちからも様々な手段で情報を入手している。


 とは言ってもペネロペ自身は日本情報軍における工作担当者ケース・オフィサーであって諜報員エージェントではない。彼女は危険を冒して情報を収集する諜報員たちから情報を吸い上げ、それらを指揮する立場だ。


 日本情報軍も工作担当者が存在し、実働部隊である第101特別情報大隊のような部隊に情報収集を命じていた。その他、工作担当者はその他にも駐在武官として各国の大使館に表向きの身分で侵入し、非合法な諜報員から情報を得ていたりしていた。


 その点ではペネロペの情報はまとまっている。諜報員が集めた情報ソースもバラバラの情報ではなく、整合された情報だ。加えてペネロペは分析官アナリストも兼ねているようであり、集められた整合性が調査され、整理され、立派な情報インテリジェンスになっていた。彼女はただの新聞屋ではないようだ。


「ゲルティは城に篭ったまま出てこないか。城にいるという情報は確実なのだね」


「衛兵たちがゲルティを城でいつも見かけているよ。ゲルティが書斎でほとんどの時間を過ごしているのも確認している。ただ、ゲルティの方も警戒を強めていて、貴族と衛兵が大量に動員されているね。これを突破しようと思ったら肉挽き器に戦力を投じるようなことになるね。こっちも向こうも被害甚大。それは望ましくないでしょう」


「そうだな。正面から敵と戦うというのはあまりいい選択とは言えない」


 貴族は単独ならば銃火器で制圧できるのだが、複数人となるとこちらの損害を覚悟しなければならない。衛兵たちが肉の壁となり、後方から貴族たちが火力を発揮する。ことに攻城戦においてはその傾向は顕著になる。


 そもそも我々は攻城戦の訓練など受けていない。アッシジ市のように爆薬を使って正面玄関を爆破し侵入するのでは警戒態勢にある貴族と衛兵たちをただちに戦闘状態に突入させ、正面から戦うことになってしまう。


「正面からは難しいな。何か策を練らなければならない」


 俺はそう告げて軍用規格のタブレット端末に記された地図を睨むようにしてみる。


 ゲルティの城は高さ8メートルの壁に覆われ、城壁の中には屋敷と城を兼ねたものが存在している。ゲルティが城の中に引き籠っているとしても、城の中で移動ぐらいはするだろう。となると、余計に大戦力での暗殺は向いていない。貴族の屋敷だ。いざという場合の緊急脱出ルートぐらいは準備しているだろう。


 つまり、我々は少人数で、城に忍び込み、ゲルティを気づかれないように殺さなければならないということだ。


 かなりタイトな作戦だ。敵が厳重警戒を敷いているところに、4名程度の戦力で侵入し、目標を始末し、その後、気づかれずに脱出するというのは時間的にも、人員的にも大きく足りないものがある。


「これまでゲルティの城に忍び込めたものは?」


「いない。全てが未遂で終わっている。ゲルティを殺すのには少しばかり苦労することになるよ。衛兵の情報ではゲルティは自分が狙われることに気づいているから」


「臆病ではあるが、利口だな」


 この南部属州の支配者は各方面から恨みを買っている。農村部で村を焼き、都市部では行商人たちを拘束し、様々な弾圧を繰り返していた。


 そうであるが故に、ゲルティは身辺を固めている。


「選択肢はひとつしかないな」


 俺は地図を見下ろしてそう告げる。


「選択肢と言うと?」


「夜間に少人数で忍び込み、ゲルティを暗殺する。そして、その首を得て、民衆に弾圧者が死んだことを告知する」


 ゲルティは死ななければならないが、その死が隠蔽されてもらっては困る。


 故に首を切り取って晒し、ゲルティは死んだことをアピールする。


「仮にその作戦が成功したとして、離脱はどうするんだい。侵入したときと同じように静かに戻ることはできないかもしれないよ」


「そこで君たちの出番だ」


 ペネロペの言葉に俺はそう告げ返す。


「城門で騒ぎを起こしてほしい。城門に対戦車ロケット(RPG)を叩き込み、敵の注意を逸らしてくれたまえ。何も全面的に交戦する必要はない。遠距離から嫌がらせ程度に攻撃を仕掛けてくれればいい。君たちが暴れている間に我々は離脱する」


 この困難な攻城戦において俺が選択したのは陽動作戦だ。


 抵抗運動が一斉に蜂起したと見せかけ、自分の城が脅威に晒されているならば、ゲルティがよほどの間抜けではない限り、警備を攻撃が行われた場所に向かわせるだろう。だが、我々は貴族と衛兵たちからは距離を置き、とにかく銃弾をばら撒く。


 そのことによって我々の脱出ルートは確保されるのである。


「作戦の開始日は?」


「明日0300(マルサンマルマル)に決行する」


 俺はペネロペにそう告げたのであった。


……………………


……………………


 ゲルティ・フォン・マントイフェル暗殺のために動員された戦力は4名。


 俺、エーデ、シンドーナ兄弟。


 今回の装備は完全なものとした。


 身体能力を増幅させる強化外骨格エグゾ。体表を覆い、負傷時には傷口を圧迫し止血を行うなどの応急手当を行ってくれるナノスキンスーツ。環境適応迷彩によってカモフラージュ率を極めて向上させた迷彩服5型。磁性流体とケブラー繊維の組み合わせによって高い防護能力を有する防弾チョッキ4型。


 それに加えてPALSウェビングが縫い付けられたタクティカルベストにはたっぷりと銃弾や手榴弾が収まっている。ひとりあたりマガジンを8個。エーデのM14自動小銃用のマガジンを除けば、ひとりあたり240発の銃弾を抱えていることになる。


 さらには万が一の可能性に備えて梱包爆薬を幾分かとAT4対戦車ロケットを携行している。本当に任務が暗殺なのかと思われるほどの重武装だ。


 もっとも、強化外骨格があれば約40キロあるM2重機関銃(キャリバー50)ですら個人で携行することが可能になるのだ。この程度の荷物は荷物のうちにも入らない。


 今回は少人数での作戦になる。近くに即応部隊(QRF)を1個小隊待機させてあるが、彼らが投入されるときには城は乱戦状態に陥っており、まともな支援は期待できないし、こちら側に死人がでることだろう。


0300(マルサンマルマル)。作戦開始だ」


 俺がそう告げるのにエーデたちが頷く。


 シンドーナ兄弟には暗視装置を支給してある。超小型のものだが、性能は優れている。彼らは事前に簡単な説明を受けて、今は俺とともに闇夜の中を進んでいた。


 俺にはナノマシンによる補正があるし、エーデはそもそも盲目だ。暗視装置の必要があるのはシンドーナ兄弟だけになる。


 我々は音を立てずに城の裏手にある茂みの中を進み、城に近づく。茂みに響くのは虫の鳴き声だけで、他に人の動く気配もない。


 あらかじめ放っておいた手投げ(ハンド・ローンチ)型のドローンの映像では城の裏手を警備している人数は2名。篝火を焚き、槍を持ち、侵入者に備えている。


 だが、幸いなことに相手は軍用犬を使っていない。こちらの動きが臭いによって探知される心配はないわけだ。軍用犬の存在は味方であるときはそれなりに頼もしいが、敵に回すと実に面倒な存在になる。


 こちらは環境適応迷彩で完全に周囲の風景に溶け込み、顔にはドーランを塗っている。相手が篝火程度のものでこちらの存在に気付けるとは思えない。この第2世代の環境適応迷彩を探知するには熱赤外線センサーが必要になる。


 当然、敵にそのような装備があるわけでもなく、我々は城壁に到達した。


 城壁の高さは8メートルほど。情報通り。これを登らなければならない。


 俺は索発射銃を構えると、城壁ののこぎり型狭間に向けてロープを放った。ロープは展開した鍵爪によってがっちりと城壁に固定され、俺はそれが十分な強度であることを確認すると、ロープを伝って城壁の上に登り始めた。


 ここでシンドーナ兄弟とは別れることになる。シンドーナ兄弟は俺とエーデが安全に離脱できるようにこの地点を確保しておく役割がある。暗殺に成功しても敵に気づかれては退路を塞がれる恐れがあるため、シンドーナ兄弟の役割は重要だ。


 無論、敵に気づかれないことがもっともいい。こちらは300名の衛兵部隊と4人の貴族を正面から相手にできるほどの余裕はない。あくまで隠密行動ステルスだ。暗殺対象であるゲルティを殺せば、敵が気づく前に離脱する。


 しかしながら、正面からの戦いに備えていないわけではない。即応部隊を動員すれば衛兵300名程度ならばどうにかなるだろう。問題は貴族だけだ。


 4名の貴族というのはこれまで戦ってきた中で最大規模の貴族たちだ。相手がどのような魔術を行使するのか分からない以上は慎重にことを進めておきたい。


 そう、慎重に先手を打って殺しておく。


 ペネロペの情報が正しければ4名の貴族は夜間は活動していない。衛兵が警報を鳴らしたときに動くことになっており、夜警など行わない。そんな退屈なものは下々の者に任せておけという精神であるらしい。


 そこで我々は就寝中の貴族の寝こみを襲い、始末する。いくら貴族が魔術が使えるとしても眠っているところを襲撃され、殺されれば何の意味もない。


「エーデ。衛兵を始末する。3カウントだ」


「了解しました、ヤシロ様」


 俺とエーデは城壁の上にいる2名の衛兵に狙いを定める。


 篝火の光が僅かに新月の夜を照らすのに、俺とエーデはコンバットナイフを構えて、衛兵たちの背中に回り込む。


 3秒後。篝火の傍に立っていた衛兵の口が押さえ込まれ、喉笛が掻き切られる。衛兵は悲鳴を発することもできず、気泡の混じった血を傷口から吹き出しながら、そのまま地面に崩れ落ちていく。エーデの方も熟練の特殊作戦部隊のオペレーターのような腕前で、音もなく、静かに衛兵を始末していた。


 これで城の裏手の城壁はクリアになった。


 それもこれも敵の夜に対する認識の違いだろう。文明レベルが遅れているこの世界では夜は活動時間ではない。夜間に、まして光のひとつも発さずに、城の裏手から人間が侵入するなどこの世界の常識ではありえないのだ。


 だが、その認識のずれもいつまで続くことか。今日、ゲルティが死ねば、敵がよほどの間抜けではない限り、我々が夜戦において能力があることを知るだろう。そうなれば夜間における警戒態勢を整えてくる。


 楽なのは最初のうちだけだ。


 俺とエーデは衛兵の死体をしゃがみこんでいるような形にすると、城壁から飛び降りて城の内部に侵入する。強化外骨格は300メートルからの落下からでも人体を完全に保護する能力を有している。この程度の高さからの落下は障害のうちに入らない。


 俺が前方を進み、エーデが後方を警戒し、そうしながら我々はペネロペから渡された城の見取り図の通りに、警備がもっとも手薄な勝手口を探す。


 城にいる衛兵たちの警戒の目は外に向けられており、内部の方を覗き込むものはいない。もし、内側に目を向けたとしても環境適応迷彩で姿を隠している我々を発見できる可能性は極めて低いので問題ではない。


 そして、勝手口を発見した。


 俺はペネロペが衛兵を買収して手に入れた鍵から作られた合鍵で勝手口の扉を開くと、素早く銃口を滑り込ませて内部を探る。


 勝手口は下層民である使用人が出入りするためのものであり、厨房に通じている。今や深夜ということもあって厨房に人はいない。


 一先ず、城の内部に侵入することはできた。後はゲルティと貴族たちを探し出すだけだ。貴族たちを始末し、ゲルティを暗殺する。それで任務は達成される。


 問題はその位置だ。


 ペネロペの情報ではゲルティは城内部の書斎を中心に転々としている。まるでひとつの場所にいると殺されると恐れたアドルフ・ヒトラーやサダム・フセインのように。彼は決まった場所で眠らず、寝室を毎日変えている。


 他の4名の貴族の位置は分かる。彼らは決まった場所で眠っているために。


 さて、どこから手を付けたものだろうか。


「ヤシロ様」


 そこでエーデが囁くような声で告げた。


「強い魔術師の存在を感じます。高い位置です。恐らくは最上階かと」


「ふむ。最上階ということはまだ書斎にいるのか」


 俺はもうエーデの感覚を疑問には思わなくなっていた。エーデの感覚は極めて精密で、外れたことがない。科学的に証明されていない手段に頼ることへの不信感はあるが、俺は神に会ったし、神と取引して武器を手に入れている。今更、超能力のひとつふたつで驚くことじゃないだろう。これもまた神の恩恵ということだ。


「他の4名の貴族の位置は分かるだろうか?」


「はい。ペネロペさんから事前に伝えられていた通りの場所にいます。動きはありません。眠っていると見て間違いないです」


「よろしい。では、逐次警備についての情報を頼む」


 エーデがいれば特殊作戦用のファイバースコープも、軍用ロボットも必要ない。彼女はどこにどのようなものが存在するのかを目を使わずにして把握できるのだ。そのことはこれまでの作戦で証明されてきた。


 エーデには1キロメートル以上離れた馬車の積み荷を当てることもできるし、室内の死角に存在している人物についても把握できる。その性別や年齢から、その精神状態にいたるまであらゆるものを把握できる。



 まさに神の目だ。



 だが、その神の目も距離が離れるごとに情報に粗さが生じる。1キロメートル以上離れた人間については把握が難しいし、存在そのものの判別もできなくなる。


 その点はドローンを使うしかあるまい。幸いにして太陽光パネルとリチウムイオン電池で駆動する手投げ(ハンド・ローンチ)型のドローンの航続可能距離は10キロメートルは余裕である。エーデの目が使えなければドローンを使えばいい。


 エーデの真価は遠くのものについて把握するよりも、市街地戦や室内戦のような死角が多い閉所で活かされる。


 軍隊における室内戦の訓練は現代において極めて複雑化した。イラクでの苦い失敗と技術の進歩により、室内戦はテクノロジーを結集したあたかもハイテクの見本市となった。その代表格が軍用ロボットだ。


 自動掃除機ルンバと同じ会社で設計されたパックボットを祖先に有する軍用ロボットは、室内戦で欠かせない存在となった。人間の代わりに危険な戦闘を走ってくれ、ブービートラップや待ち伏せを見抜き、場合によっては携行火器で応戦する軍用ロボットが活躍する戦場はまさに人々が想像した未来の戦争だった。


 軍用ロボットは携行性、耐久性、信頼性がじっくりと向上していき、今や人工知能によって人間の代わりが務まるようになっている。日本陸海情報軍も様々な種類の軍用ロボットを有し、室内戦というものから爆発物処理という昔ながらの仕事まで、様々な任務にロボットたちを従事させてきた。


 若者が親しみやすいインターフェイスであるゲームパッドであたかもゲームのように操縦される軍用ロボットが、室内で兵士たちを待ち構える発展途上国の子供兵を射殺する。なんという理想的な未来の戦場だろうか。


 だが、今はその便利な軍用ロボットも必要ない。エーデの感覚に任せられる。


「角を曲がって150歩先に2名。停止してます。敵です」


「了解した」


 エーデが告げるのに俺は神経を研ぎ澄ませる。


 僅かだが呼吸音がする。欠伸を漏らす音も聞こえてきた。


 そっと曲がり角を覗き込むと、扉の前に2名の衛兵が立っていた。その扉は貴族のひとりが利用している部屋のものだ。つまりは護衛か。


「排除する。君は待機していてくれ」


「はい」


 エーデの俺の指揮にちゃんと従ってくれる。勝手に突撃したりはしない。そういう点では初期の南部国民戦線の兵士たちよりも優秀なのかもしれない。


 レオナルドに向けて発砲したときは問題児になるかと思ったが、あれも彼女にはこの世界の見え方が異なっているためだろう。少なくとも俺の命令を聞くようにと言っておけば、トリガーに指をかけたままにするという初歩的なミスも起こさない。


 そして、俺はエーデの情報を頼りに曲がり角から僅かに顔を出す。


 エーデの情報通り2名、衛兵が扉の前に待機していた。


 俺は光学照準器を覗き込み、衛兵たちに狙いを定める。


 ヘッドショット。一撃でひとり頭を弾き飛ばし、すかさずもうひとりの頭を撃ち抜く。衛兵が地面に崩れ落ちたときに鎖帷子の鎧が僅かな金属音を立てたが、それだけだ。周りは依然として夜の静けさに覆われている。


 俺は慎重に倒れた衛兵たちの下に向かい、もう一発ずつ銃弾を頭に叩き込み、確実に衛兵を殺しておく。人間の体と言うのは奇妙なもので、頭を撃ったはずなのに頭蓋骨がそれを受け流し、生き永らえさせるという奇跡が起きることもあるのだ。


 今はそんな奇跡はごめんだ。確実に死んでおいてもらう。


「さて、エーデ。来てくれ」


 俺は部屋の扉の前でエーデを呼ぶ。


「中に貴族がいるのは確実だろうか?」


「確実です。魔力を持った者がいます。他に人間はいません」


「それは結構だ」


 俺はエーデに確認を取ると、鍵の開いている扉を開き、内部に音を立てずに滑り込む。体感時間の遅滞化(スローモー)の中で素早く室内を見渡し、エーデの言葉が正しく、そして貴族が就寝中であることを確認した。


 俺は腰のホルスターからサプレッサーが装着されたHK45T自動拳銃を抜くと貴族の頭に2発の銃弾を叩き込んだ。貴族の体は小さく痙攣し、その枕に脳漿がまき散らされると貴族はそのまま永遠の眠りについた。


「次に行こう」


「はい」


 それから我々は衛兵の死体を部屋の中に引きずり込んで隠し、別の貴族の殺害に向かった。エーデの感覚によれば城の中を巡回している衛兵はおらず、この時点において貴族と衛兵が死んでいることを把握される可能性は極めて低かった。


 我々はどこまでも静かに城の中を駆け抜けていき、警備の衛兵を殺し、眠っている貴族の頭に.45ACP弾を叩き込んで永眠させる。


 作戦は極めて順調に進んでいた。衛兵たちは形だけの警備を行っているだけであり、我々が闇夜に紛れて襲撃してくるのに警報どころか、悲鳴のひとつすら上げられなかった。衛兵の死体は室内に隠され、城の中に死人が増えていく。


「いよいよだ」


 俺とエーデはひとつの扉の前に立つ。


 そこはエーデが強い魔力を感知した場所──土の精霊公ゲルティ・フォン・マントイフェルがいる可能性のある書斎の扉の前だ。


「エーデ。準備はいいかい?」


「いつでも大丈夫です」


 俺の言葉にエーデが頷いて返す。


 では、始めるとしよう。



 これを以てして、南部における精霊帝国の支配は大きく揺らぐ。



……………………

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