連中を血の海に沈めよう
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──連中を血の海に沈めよう
その日の天候は快晴だった。
これで暗視装置の使い方を覚えていない抵抗運動が夜の暗闇の中で作戦を行う可能性はなくなった。
無論、貴族が大衆に向けて警戒と密告を促すかもしれない。だが、民衆は精霊帝国ではなく我々の側についている。憎い精霊帝国が滅びへと進んでいくならば、抵抗運動の規模はさらに大きなものへとなるだろう。
しかし、精霊帝国は何を考えているのだろうか?
いざとなれば都市ごと焼き払ってしまうこともできるのに、そうしないというのは我々を侮っているのか。それともまだ我々を過小評価しているのか。
どちらにせよ、こちらには都合がいい。
「この15世紀という年月を我々精霊帝国は支配していた。その精霊帝国の恩恵を受けて諸君らは人間らしい生活をすることができる」
貴族は雄弁に話していた。自分たちがこれから奴隷を送り込むというのに、酷いブラックユーモアだね。
「攻撃開始まで残り3秒。カウント開始」
俺はG28Eマークスマン・ライフルを構え、アティカが隣で双眼鏡を眺め、気象状態や狙撃銃の光学照準器には映らない範囲のことを俺に伝えてくれる。
「今、演壇に登ったのはこの近隣を治める貴族です」
「では、その貴族から死体になってもらおう」
俺は時刻を見た1200。貴族は未だ演説に浸っているが、衛兵たちに周囲を守らせている。彼らも怖いのだろう、貴族たちを殺してきた抵抗運動のことを。それはいい知らせだ。
まずは対戦車ロケットが放たれる。激しいバックブラストが吹き荒れることに、貴族は気づいた様子がない。
そして、着弾。
対戦車ロケットには破片榴弾を装填している。
対戦車ロケットは戦闘終結後に素早く逃げるために、弾頭を一発しか持っていない。だが、これでも効果が上がるだろうか。
俺はそう考えて噴煙の振りまく演台を見た。
対戦車ロケットは貴族に直撃だったようで、演台から貴族は転倒していた。この時点でRPG班が離脱する。RPG-7の発射時に生じる噴煙は相手に居場所を知るようなものである。RPG-7対戦車ロケットという兵器がなかった住民たちにとっては衝撃だっただろうが、俺からするとごくごく普通の襲撃だ。
それから間髪入れずに機関銃が地上を掃射する。
掃射と言っても、ちゃんと狙いは定められている。貴族たちはこちらに気づくこともなく、次々に銃弾によって撃ち抜かれ、地面に倒れたり、手足を押さえて悲鳴を上げている。幸か不幸か銃弾を受けなかった貴族は、演壇の外で転がり落ちた体で手に握った杖を振ろうとする。
一部の魔術は成功した。飛んでくる銃弾に対抗して貴族は氷の壁を展開した。
氷とは! まさかそのようなもので銃弾が防げるとでも思っているのだろうか。そんなものはシャーマン戦車に土嚢を乗せた程度の気休めにしかならない。
屋上に上った機関銃班と小銃手が氷の壁にありったけの銃弾を叩き込む。
そうすることによって氷の壁は割れた。そして、その先にいる貴族を屠る。
「行くぞ」
俺が号令をかけると、小銃手たちが続いた。
我々は戦場となった場所を見渡し、息のある衛兵や、まだ微かに生きていた貴族の頭に銃弾を叩き込んでいく。
それから見世物のように檻に入れられていた奴隷たちを、ワイヤーカッターを使って、檻から出し、彼らが檻の外に出ていくのを確認した。後は地下下水道で彼らを安全な場所に連れていき、それでこの作戦は成功する。
「賊が! 市街地をこれほど荒らし、貴族様を殺害するとは!」
そんなところで衛兵たちがやってきた。
やってきたと言っても30名程度だ。敵にすらなりはしない。
「私がやります」
そこでエーデが俺に告げた。
彼女はやはり女神ウラナによってあたえられた奇跡を示さなければならないのか。
「では、任せよう。こちらも援護する」
エーデはそう告げて建物の屋上から飛び降り、中央広場に歩みを進めた。
「貴様、何者だ!?」
「精霊帝国に終わりをもたらす者。貴族を狩る者。そして、あなた方を神の名において殺すものです。お覚悟ください」
貴族が叫ぶのにエーデは静かにそう告げる。
「衛兵! あの女をやれ!」
「了解」
貴族の命令で衛兵は逃げ回りながら、機関銃の掃射を受けていた。その中の何名かが戦意を取り戻し、突き進んできたエーデを迎撃しに回った。
俺がそれをマークスマン・ライフルで仕留める。雑魚を片付けるのは余裕なもの。
俺が引き金を引くと、ひとり、またひとりと衛兵が倒れる。
「いざ! 参ります!」
エーデはそう告げると、貴族に銃剣を装備したM14自動小銃で突撃した。
「小生意気な!」
迫りくるエーデに貴族が水の槍を射出する。高速で射出されるそれは、人間すら引き裂いてしまうだろう。それが何本もまとめてエーデに放たれているのだ。
俺は即座にマークスマン・ライフルで貴族の腕を貫いた。
貴族は杖を取り落とし、魔術の勢いが弱くなる。
「ありがとうございます、ヤシロ様」
エーデはそう告げると、貴族の前に立つ。
「女神ウラナ様の名においてこの罪人に死を」
そう告げてエーデは貴族の喉を抉り、それを引き抜くと心臓を貫いた。
それからも彼女は逃げる衛兵たちを殺し続けた。周囲には死体の山が積み重ねられている。喉を裂けれ、心臓を貫かれ、銃殺された死体が転がる。
「片付きました」
そして、いつものようにエーデは血塗れで笑みを浮かべる。
「いい仕事だったよ、エーデ」
「ありがとうございます」
さて、次は奴隷の解放だ。
小銃班がワイヤーカッターで錠前を開き、中にいた奴隷たちを解放した。
「あなた方は?」
「南部民族会議だ。そして、そこで君たちを助けたのは聖女エーデルガルトだ」
「聖女……」
解放された奴隷たちは畏敬の念を以て、エーデを見つめる。
「では、行こう。時間は残されていない」
そう告げると彼らは地下下水道の入り口に向かったのだった。
今回の作戦は成功と呼んでいいだろう。奴隷たちは解放され、貴族は死んだ。
我々はこれからこのデルフィ市で同じことを繰り返す。
奴隷を連れてきた貴族を殺し、奴隷を解放する。そうやって人的リソースを増やしていき、活動範囲を広げていく。市街地にもじわじわと抵抗運動が広がっていき、混乱はその混迷を深めて、精霊帝国南部属州を覆っていく。
無論、精霊帝国もこれを黙って見ているつもりはないようだった。
貴族たちは多数の軍隊を率いて、街の捜索を行ったり、貴族同士で団結して市街地の危険区域を“清掃”しようなどとしていた。
だが、どれも不発に終わる。
その問題は貴族たちの軍隊である衛兵たちもまた下層民だということだ。
下層民として貴族に酷使される彼らはこの勝ち目のない戦いにおいて、自分たちはこのまま貴族の側に立っていていいのかと考え始めた。
そこをペネロペの組織が接触し、情報提供者に仕立て上げたのである。
金を使い、女を使い、脅迫し、イデオロギーを広め、衛兵たちの中に抵抗運動に通じるものたちが現れ始めた。
彼らは一斉捜査の日時などを事前に抵抗運動側に伝え、抵抗運動側は貴族たちから逃げ隠れすることに成功した。貴族たちは抵抗運動の尻尾が掴めないことに苛立ち、その苛立ちを一般大衆に向ける。そして、そのことが抵抗運動のさらなる協力者の獲得に繋がるというわけだ。
憎悪と報復の連鎖は始まった。後は途切れることなく殺し続けるだけだ。
なんとも心地いい気分だ。
我々は脱走奴隷を連れて地下下水道に逃げ込み、脱走奴隷の中から抵抗運動に加わる者を募った。説得したのは抵抗運動に賛同し、戦っている脱走奴隷で、このままデルフィ市から逃げただけでは何の問題の解決にならないことを説得した。
そのような説得もあり、またエーデが血塗れの奇跡を示していることから、抵抗運動の参加者は増大した。今や200名だった抵抗運動の組織は1000名にまで達している。
もちろん、全員が戦闘要員というわけではない。戦闘に加わることが身体的に難しい者たちは後方支援に回った。怪我人を看病したり、物資を使って料理を振る舞ったりする重要な仕事だ。彼らのようなポジションなしに戦争は動かせない。
だが、南部国民戦線がそうなったように、南部民族会議もまた子供兵を使い始めた。子供というものは衛兵たちの関心を引くことが少なく、それでいて俺の持ち込んだ武器を扱うことは可能だった。
子供兵が野菜を売る振りをして衛兵と貴族に近づき、衛兵が追い払おうとしたところを野菜を入れていた籠からAKMS自動小銃を取り出し、衛兵と貴族を蜂の巣にする。ある時は物乞いの振りをして近づき貴族の馬車に手榴弾を投げつける。
子供には誰もが油断する。市街地戦において子供兵は有益なリソースだ。
もっとも、訓練された大人と違って彼らは子供だ。相手から反撃を受ければ瞬く間に崩れるし、攻撃は失敗に終わることも多々ある。
それでも子供兵は有益なのだ。我々が本当の作戦を進めるための囮として。
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