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それはよくある軍事作戦

……………………


 ──それはよくある軍事作戦



 待つこと1か月と10日。


 最初に送り込んだ南部民族会議のメンバーが戻ってきた。


 数は10名。全員がAKM自動小銃、PKM汎用機関銃、RPG-7対戦車ロケットのいずれかの取り扱いを熟知している。もっとも基礎的なことだけだが。


 市街地で使用するのはAKMS自動小銃であること以外に南部国民戦線と装備の違いはなく、訓練はスムーズに進んだことだろう。バルトロたち南部国民戦線の兵士たちは、地球でも一端の軍閥がやれるほどに成長しているのだから。


 だが、野戦と市街地戦において注意を配らなければならない点もある。


 対戦車ロケット(RPG)は室内で使用すれば自分を丸焼きにしかねない。自動小銃や機関銃のフルオート射撃は衛兵たちだけではなく、市民も巻き込んでしまうかもしれない。そのような野戦とは異なるリスクが市街地戦には潜んでいる。


 それから気をつけなければならないのは市街地戦での位置取りである。自動小銃の射手は特に場所を選ばないが、機関銃の射手はより多くの目標を相手にするために、高所に陣取ることが求められる。基本的に高所を取っている人間が優位だ。


「さて、諸君。ようこそ、戦場となったデルフィ市へ」


 俺は脱走奴隷の身分から鍛え上げられて、このデルフィ市に戻ってきた兵士たちを見渡す。全員が戦意ある瞳をしている。震えているような人間はいない。


 そして、バルトロは俺に言ったこととは違うことをしているようだ。


 脱走奴隷の中にいた15歳ほどの子供も男たちの中に混じっていた。バルトロもついに子供兵を使い始めたというわけだ。


 それは時間の問題だった。バルトロの抱える戦域はあまりにも広く、それでいて実際に戦闘に投入できる人間は多くない。バルトロが子供を非戦闘員としていた間は、実行可能な作戦は限られていた。


 だが、このカラシニコフを始めとする銃は子供であろうとも殺人者に育て上げることが出来る武器なのだ。もし、これが大人にしか扱えないものだったら、世界の紛争はもっと少なく、決着も早かったであろう。


 カラシニコフ。偉大なカラシニコフ。彼は満足して死んだだろうか。


 そんなわけで、子供兵が戦列に加わることに異論はなかった。今は都市部という戦域の拡大を求められており、子供と言う存在には衛兵たちも気を緩める。子供兵は都市部におけるとっておきの札となるだろう。


「君たちには早速だが、仕事をしてもらいたい。近々、鉱山に奴隷が移送される。この間の襲撃で全ての鉱山奴隷が逃げ出したために、貴族たちは穴埋めを考えたようだ。そのことを貴族が示威するための場が設けられる。恐らくはいくら抵抗運動レジスタンスが行動したところで無駄であるということを示したいのだろう」


 奴隷がいなくなれば他所から奴隷を連れてくればいい。


 下層民は既に貴族たちの奴隷だ。貴族たちの胸先三寸で奴隷にすることもできる。犯罪者などをわざわざ使わなくとも貴族たちのように法の保護を受けられていない下層民を奴隷することは実に容易いことである。


「だが、我々はそうはさせまいと考えている。この世の中は以前のように貴族たちの思い通りに進むわけではないことを知らしめてやりたい。そうであるがために、貴族が奴隷を連れてきて中央広場で演説する場を襲撃する」


 俺の言葉に兵士たちの表情が強張る。


「恐れる必要はない。このデルフィ市の衛兵の数は未だ危機的だし、貴族は自分が殺されるとも思っていない。我々は完全に不意を突く形で襲撃する。貴族を殺し、奴隷たちを解放する。極めて幸いなことにデルフィ市の市民たちは抵抗運動に協力的だ。逃げ場でも隠れ家でもなんでも提供してくれるだろう」


 ペネロペの地道な広報活動プロパガンダとリベラトーレ・ファミリーの暗躍と脱走奴隷たちのコミュニティーのおかげでデルフィ市には抵抗運動を受け入れる下地が整っている。たとえ貴族が演説する場を襲撃しようが、抵抗運動の兵士たちは逃げ出すことができるだろう。


「理解できたかな?」


 俺が尋ねるのに全員が迷いなく頷いた。


「よろしい。では、作戦を説明する」


 俺は軍用規格のタブレット端末をテーブルに広げる。


「貴族の演説が行われるのは中央広場だ。中央広場で下層民が出入りできる建物は限られている。この高級商品を扱っている雑貨店しかない。だが、出入りできなくとも問題はない。我々は屋根から屋根へと伝って、最適な地点に機関銃を据える。場所は広場全体が見渡せる地点である大聖堂横の貴族専門の宿屋だ」


 事前にデルフィ市の地図については詳細なものを作成している。ドローンを飛ばし、地道に道を歩き、そうやって具体的な地図を完成させた。軍隊において地形を把握しているということは極めて重要なのだ。


「貴族の演説が始まったと同時に機関銃が設置される宿屋の屋上とは正反対の金細工の店から対戦車ロケット(RPG)を貴族に向けて叩き込む。現地の警備は衛兵が担当し、対戦車ロケット(RPG)の殺傷半径の中に民衆はいない」


 人ごみで対戦車ロケット(RPG)を使うのは些か躊躇われるが、民衆と貴族に衝撃を与えるにはこれが一番だ。幸いにして下賤な下層民と関わることを嫌う貴族は、衛兵たちに人の壁を作らせ、半径60メートルを無人にしている。


「その後、衛兵たちに向けて機関銃を掃射。この際、民衆に銃弾が命中しないように万全の注意を払うこと。恐らく民衆は対戦車ロケット(RPG)の爆発でその場から逃げ出す可能性が高いし、民間人を誤射する可能性は低い。だが、細心の注意を払うように」


 この都市におけるゲリラ活動は民衆の支持によって成り立っている。その民衆を間違って我々の手で犠牲にすれば、今度の活動に影響するだろう。


 野戦におけるゲリラ活動も農村部の支持によって成り立っているが、彼らには山林と言う隠れ家がある。都市におけるゲリラにはそれが不足している。


 故に民衆の中に溶け込むという民衆を隠れ蓑にした活動が必要なのだ。


「機関銃の支援の下、小銃班が突入。生き残っている衛兵と貴族に止めを刺し、囚われている奴隷たちを解放する。精霊帝国は奴隷がいなくなったからと言って、補給すればいいという考えを改めることに繋がるだろう」


 下層民を手当たり次第に奴隷にしては精霊帝国に税を納める人間がいなくなる。貴族たちが偉そうに振る舞えるのは下層民から搾り取った税金があるからだ。そして、奴隷は強制労働によって富を生み出すが税は収めない。いくら奴隷に労働をさせようと、劣悪な環境での労働には限界がある。貴族たちはそのような理由で、奴隷をこれ以上増やすことには難色を示すだろう。


 下層民たちが交易を行い、物資を売り買いして、精霊帝国の下層部は成り立っているのだ。それを奪うということは、下層民により強い敵意を抱かせるだけだ。


「脱走させた奴隷は地下下水道を伝って、安全地帯までに案内する。医療処置が必要なものもいるだろうが、そこは南部民族会議の後方要員が手当てするだろう」


 南部民族会議には非戦闘員も存在する。


 戦闘要員のために食事を作り、怪我の手当てをし、病を治療する女子供が存在している。その数はそれなりの数に及び、後方支援についてはほぼ問題はなかった。


「小銃班には多くの仕事を任せることになる。だが、ここにいる全員が同じ苦労を共にし、同じ戦果に喜ぶことに変わりはない。奴隷たちがまたしても救出されれば、精霊帝国の面子は丸潰れだ。我々の抵抗運動に加わる人間も増えるだろう」


 この作戦は貴族に打撃を与え、精霊帝国の偉大さを損ない、そしてここから必要になってくる戦闘要員を確保するためのものだ。


 ひとつの作戦で目標を欲張りすぎているようにも思えるが、十二分に達成可能なものだ。こちらは一方的な殺戮を可能とする銃火器を保有しているのだから。


「失敗は許されない。断固として成功させてくれ。諸君らの健闘を祈る」


 俺がそう告げるのに、抵抗運動の兵士たちが頷いた。


 よし。これで問題はなし。後は本番になって兵士たちがパニックを起こさないことを祈るのみである。祈る? 誰に? 俺は無神論者だ。女神ウラナの存在を知っていても、地球に生命を生み出したのは神ではなく、高熱の、生命のプールにおいてアミノ酸が結合したものであり、死ねばそれでお終いだということを理解している。


 頼りになれるのは最後には自分だけだ。


「他に質問はあるかい?」


「聖女エーデルガルトは作戦に参加しますか?」


「する。小銃班に加わり、奴隷たちを解放する」


 俺の言葉に抵抗運動の兵士たちは喜びの表情を浮かべた。


 やはり、聖女というものは象徴になる。人々は遠い存在である神よりも、近くにいて美しい聖女に惹かれるのだろう。エーデが血塗れの奇跡を示してきたことで、この運動の宗教的側面には大きく前進した。


「では、決行日に備えてくれ。武器のメンテナンスを怠らず、訓練で学んだことを幾度となく思い出してくれ。我々は諸君に期待する」


 俺はそこで言葉を終えて、兵士たちは敬礼を送った。


 はてさて、この作戦は成功するのだろうか。


 成功しなくても、都市において貴族への攻撃が始まったということは示すことが出来る。それは他の都市においても抵抗運動を活性化させることに繋がるだろう。


 いけないな。カラシニコフの7.62x39弾のように人間を使い潰す可能性があることに何の感情も湧き起こらない。人の価値がその程度だとしか思えない。


 それはナノマシンが抑圧しているのか。隣で戦友が死んでも、その棺を運んでも、何の感情も覚えなかったようにして。


「では、解散。襲撃は3日後の正午だ。それまでには配備についておくように。俺からは以上だ。何か質問があれば聞くとしよう」


 俺がそう尋ねるのに兵士のひとりが手を挙げた。


「貴族は確かに憎いやつで死んでしまえばいいと思っています。ですが、ここの貴族はこの手の会合の場に家族を連れてきます。将来は魔術師として俺たちを弾圧する側になるかもしれませんが、子供を殺してもいいんですか」


 もっともな疑問だ。子供を殺すのには心理的影響が左右する。


 目の前の少年兵が敵でも発砲できないこともあるし、子供が怪我をするだけでも気にする場合がある。それが普通の反応だ。


 将来的に脅威になる存在は殺しておかなければならない。その子供が満面の笑みでかつて彼の危機を救った人間を殺すことがないように。


 ナノマシンの影響を受けた俺は子供兵を殺しても何の感情も覚えない。中央アジアでは腐るほどの子供兵を殺したのだから。そして、そして、この世界の子供兵と言える貴族の子供たちでも殺さなければならない。それが成長し、貴族の大人として領民を弄ぶ可能性があるならば。


「分かりました。徹底的に殺します」


 若い兵卒はそれで納得したようで、それ以上の言葉を続けなかった。


「それでは地下下水道の地形を覚え、銃撃地点である建物の屋上を目指すことに務めてくれ。作戦開始まではたった3日しかないが、侵入経路、脱走経路をきちんと把握しておくように。地形を把握し損ねるのは自分の命を失うことに繋がる」


 我々はそう告げて兵士たちを見渡す。


「それでは、改めて成功に期待する。以上だ」


 俺はそう告げて、このブリーフィングを終了した。


 彼らがこの作戦を成功させ、精霊帝国に揺さぶりをかける。


 そう考えると思わず口角が吊り上がるのを感じた。


……………………

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