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死霊術師なりの死者への敬意

……………………


 ──死霊術師なりの死者への敬意



「死者の軍隊を作りたい、ですか?」


 俺が告げた言葉にリリーが目を丸くする。


「そうだ。我々は聖剣を奪還したいが、ユスティニアヌス市の警備は固い。それを破るために君に協力してもらえれば助かる」


 人員不足を痛感したときに考えたのが、リリーの力であった。


 リリーの能力でどれだけの死者が生き返るのかは分からない。だが、それが仮に1、2名であったとしても使い方次第では、上手く敵の裏をかいてこちらが攻撃を仕掛けるための陽動になってくれるはずであった。


「できないことはないですけれど……」


「何か問題があるのか?」


 リリーが躊躇った様子を見せるのに俺が尋ねる。


「まずは死者の確保です。私の魔術では死者がいなければいけません。どんな死者でも構わないのです。頭がなかろうが、焼け焦げていようが。私は操ることが出来ます」


「それは頼もしい」


 頭を破壊されようとどうなろうと動き続ける兵士というわけだ。それほど頑丈で頼りになる兵士も存在しないだろう。


「ですが、その前に死者を弔わなければなりません。彼らの肉体を、彼らの魂が消失した後にも私の身勝手で使わせていただくことを許してもらうために、彼らのことを弔わなければならないのです」


 そう告げてリリーは視線を伏せた。


 死者を弔う。それは太古の時代から行われてきた。死者が食物連鎖によって食い散らかされることを避けて埋葬し、ある時はそれに花さえ添えた。


 ことに死後の生を信じる宗教において死者への弔いは重要な意味を持つ。その人間の魂が平穏を望めるように祈りを捧げる。死刑囚にすら祈ってもらうという権利はあるのだ。それほどまでに死者への敬意というのは重要なものなのである。


 だから、リリーが死者を弔わなければならないと言っても驚きはしなかった。


 我々はこれから死者を冒涜するに等しい行為に手を染めるのだ。その許しは得ておきたいだろう。たとえ、その死者というものがただの有機物と無機物の塊であり、やろうと思えば化学式で記述できる程度の存在に過ぎなくとも。


「では、死者を弔い、我々の力になってもらおう。だが、死体と言うのはどの辺りにあるものだろうか」


「それでしたら問題はありません。死者のいる場所については分かっているのです。私はさしてできることはありませんでしたが、多くの死者が眠っている場所があるのです」


 そう告げてリリーが立ち上がる。


「遠いのか?」


「いいえ。そこまでは。ですが、1時間程度は歩くことになると思います」


「精霊帝国の衛兵は?」


「いないはずです。もうあそこでは全てが終わってしまったのですから」


 俺はそこまで聞いて立ち上がる。


「死者を弔うのには何名ぐらい必要だろうか?」


「私ひとりでも大丈夫です。ですが、2、3名の方について来ていただけると助かります。彼らの魂の安息のために」


「分かった。こちらで同行する人間を選ぼう」


 俺たちはそう告げ合ってから、シンドーナ兄弟に同行を頼み、出発した。


……………………


……………………


 確かにその場所までの道のりは1時間程度であった。


「これは……」


 そこは全てが殺戮された村であった。


 シンドーナ兄弟が唸り声を上げ、周囲を見渡す。


 槍で突き殺された死体。矢で射抜かれた死体。魔術で焼かれた死体。


 死体、死体、死体。


 それが埋葬されもせず、そのまま獣と虫に貪られるだけになって広がっていた。周囲には異臭が立ち込め、俺は死体から生じる病原菌のことを考えれば、防護装備を持ってくるべきだったなと後悔していた。


「1週間ほど前に精霊帝国に襲われた村です。精霊帝国──バルフ王国総督であるヴィクトリア・フォン・リンドルフは抵抗運動レジスタンスが既にこのバルフ王国に侵入していると思い込み、治安維持と称して殺戮を繰り広げているのです」


 リリーはそう告げて死者たちを見渡した。


「痛かったでしょう。苦しかったでしょう。理不尽を感じたでしょう。あなた方の肉体から魂は昇華し、あなた方は新たなる段階に進みました。その魂に安らぎがあらんことを切に願います。そして、今一度あなた方の肉体をお借りして、偽りの魂を植え付けることを許してくださいますようお願い申し上げます」


 リリーはそう告げて地面に膝を突き、祈るように両手を合わせた。


「では、これから私の魔術でこの方々を蘇生します。あなた方は千切れてしまった腕や頭などを埋葬していただけると助かります。彼らを埋葬するものはなく、死体はこの1週間野ざらしだったのです。彼らに安らぎがあることを祈って埋葬しましょう」


「ああ。そうしよう」


 人手が必要だったのはそういうわけか。


 俺たちは穴を掘り、そこに千切れた腕やもがれた頭などを埋葬していく。足だけはその必要性からリリーがその場で死体に縫い付けていた。


 悪臭漂う中での作業だ。ナノマシンで感覚器をオフにできる俺はともかく、シンドーナ兄弟には辛い仕事になっただろう。だが、それでも彼らは黙々と穴を掘り、死者に手を合わせて埋葬していく。


「さっきの弔いの言葉は精霊教会のものなのか?」


 俺は作業が一段落したところで、リリーにそう尋ねた。


「いいえ。精霊教会もまた“呪われた血筋”のことを信じ、迫害しているのです。ですから、私は精霊教会の言うことも信じません。私が信じるのは、死者たちへの平等な愛を語る女神ウラナ様の教えだけです」


 その女神ウラナが魂を通貨にして、別の世界の神と取引していると知ったら、いったいリリーはどう思うだろうか。神という上位者のやることは残酷だ。


「攻撃というのはいつ仕掛けられるのですか?」


「ユスティニアヌス市から黒書騎士団が去ってからと考えている。今の戦力で黒書騎士団まで相手にはしたくない。だから、暫くの間、待つことにある」


「そうですか。でしたら、彼らの体を洗い、傷を縫い、せめてもの弔いをしましょう。我々都合でこの方々には戦っていただくのですから」


 リリーがそう告げると死者たちが起き上がり、整然とした列を作った。


 全部で300名ほどだろうか。女子供も混じっているがどうせ死人だ。


「他に襲撃された村落は?」


「あるかと思います。ここ最近、精霊帝国は狂ったように村を襲っていますから」


「では、捜索するとしよう。死者の数は多ければ多いほどいい」


 俺はそう告げて背嚢の中に収納しておいた手投げ(ハンド・ローンチ)型のドローンを空に放ち、そこから地上を見渡す。


「あれは鳥ですか?」


「いいや。機械だ。風車小屋のように動力を得て動く機械だ」


「機械ですか。あのような小さな機械が空を鳥のように飛ぶというのは……」


 リリーはドローンに興味を持ったようだった。


「しかし、風車は風を動力に動きますが、あの機械は何を動力に?」


「電力だ。雷の力だと思ってくれ。あの機械には内部にそれをため込んだものを装備し、さらに太陽の光を電力に変換して動いている。晴れているならば向こうの山を越えるだろう。それぐらいの力を秘めている」


「あの山を……」


 10キロメートルほど先には小高い山があった。この快晴の天気で、太陽光の光を電力に転換しているドローンならば、あれぐらいの距離は平気で飛ぶ。


 ロボット技術者たちはさらにドローンの航続性能を上げ、かつ生存性を高めるために、あの8つ足をした機械のロバと同じようにバイオマス転換機能をつけることを計画していた。ドローンは草木に止まり、そこで葉を食み、ナノマシンがそれを分解して、動力源とするわけである。


 世界はよりおどろおどろしくなり始めているのではないだろうか。そのうち、ドローンたちは死んだ兵士たちの死体すらも貪り始めかねない。


「この先にも襲撃された集落がある。生存者はいない。回収に向かおう」


「はい」


 我々は山林に身を潜めながら次の集落に進む。


 山林に潜んでいたとしても、この死者たちの臭気だ。相手が犬を使っていなくとも、気づかれてしまうだろう。もっとも、その臭いを生むことになった原因を作ったのは精霊帝国であるからにして、彼らは不審には思わないだろうが。


 我々は集落で同じように弔いの言葉を告げ、死体の破損した場所を埋め、死者を洗い、傷口を縫い、そうやって死体を集めていく。


 死者たちの数は膨れ上がり、最終的に1000名の死者たちが集まった。


 これだけの数があればやれるだろう。問題なくユスティニアヌス市の城門を破壊し、衛兵たちに混乱をもたらしてくれるはずだ。


「おかえりなさいませ、ヤシロ様」


 我々が死者を引き連れて戻ってくると、エーデが一番に出迎えてくれた。


「やあ、エーデ。解決策は見つかったよ。これで君の聖剣を取り戻せるだろう」


「ありがとうございます、ヤシロ様」


 エーデはそう告げると俺たちの背後にいる死者たちを見た。


「彼らは戦うことに同意してくださったのですか?」


「弔いはした。死者から同意は取れない」


 死者は黙して何も語らず、生きている人間に使われる。


 地球でも数多くの英雄という名のクソッタレが、死んだ後も神格化され利用されてきたが、ここのは次元が違う。文字通り、死者を利用するのだ。戦力として。


「ところで黒書騎士団に何か動きは?」


「彼らはユスティニアヌス市を去る準備を始めています。ただ、立ち寄っただけのようです。何かしらの警戒のためではないと思われます」


「それはいいことだ」


 黒書騎士団にそのまま居座られれば、作戦を大きく変更しなければならないところだった。それも成功が不確かな方向に向けて。


「では、準備を始めよう。君の聖剣を奪還するために。リリーの力を借りて、彼らに一泡吹かせてやろうじゃないか」


「はい、ヤシロ様」


 兵隊は揃った。後は装備を整えて送り込むだけだ。


 恐らくユスティニアヌス市はこの世の地獄となるだろう。


 いつの間にか俺はそのことに愉快さを感じなくなりつつあった。


……………………

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