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ユスティニアヌス市侵入

……………………


 ──ユスティニアヌス市侵入



 我々の仲間に“呪われた血筋”と呼ばれるリリーが加わった。


 兵士たちの反応はほどほどだ。


 彼らのほとんどは“呪われた血筋”など見たこともない。精霊帝国はこれまで“呪われた血筋”が表に出る前に殺してきたのだから当然だろう。貴族社会と関りのない抵抗運動の兵士たちがそれを目撃する機会などないのだ。


 だから、彼らは貴族の血筋を有するリリーに嫌悪を示すよりも、好奇心を示した。彼女がどんな人間なのかを知ろうとし、あれこれと質問をする。


 リリーは穏やかな笑みでそれに答え、我々の間には友好的な雰囲気が形成された。


 だが、末端の兵士単位で友好が築けたとしても、組織の上層部がそう思うのかは分からない。第一次世界大戦中に塹壕を出て敵とクリスマスを祝った兵士たちはいたが、それぞれの国のトップたちは依然として敵国に憎悪を抱いていたように、抵抗運動レジスタンスのトップたちもリリーを仲間にすることには反発するかもしれない。


 恐らく一番友好的なのはペネロペだろう。彼女は民族主義者というよりも社会主義者だ。どの階級層も平等であり、人間としての権利は保障されるべきだと考えている。リリーが貴族の血筋にまつわるものであったとしても彼女は友好的だろう。


 そこから切り崩していくより他あるまい。幸いにして、聖剣の奪還にリリーも協力できれば、抵抗運動の指導者たちもリリーを切り捨てることはできなくなるだろう。


「リリー。聞きたいことがある」


「何なりとどうぞ」


 俺が尋ねるのに、リリーが笑顔でそう返す。


「ユスティニアヌス市に侵入する方法を知っているか? 我々はユスティニアヌス市に侵入して、ユスティニアヌス大聖堂にある聖剣を取り戻さなければならないのだ。協力してくれると助かるのだが」


「ユスティニアヌス市への侵入、ですか」


 俺が尋ねるのにリリーが考え込むように顎に手を置く。


「ないことはありませんが、ちょっとばかり大変ですよ?」


「構わない。教えてくれるか」


「それでしたらお任せください」


 リリーはそう告げると懐から地図を取り出した。


「ここが私たちの今いる場所です。ユスティニアヌス市南西。そして、ここに南から北に流れている川があります。その支流がユスティニアヌス市に流れ込んでいます」


 ふむ。川か。


「この川は上水として使われるものと、下水として使われるものに分けられます。そして、その下水として使われる方からならばユスティニアヌス市に侵入可能です」


「地下下水道はいつも警備が緩いな」


 我々は常に地下下水道を使って建物や街に侵入している気がする。


 まあ、便利なヘリなどの輸送手段がなければ、侵入手段が限られることはやむをえないことだろうが。この世界で上から侵入したのはサンクト・シャルトル城を強襲したときだけだ。それ以外はほぼ地下から侵入している。


「えっと。私もここ以外の侵入経路は知らなくて……」


「いや。助かった。我々もこの方法で侵入させてもらうことにする」


 俺がまた地下からかという顔をしていたためか、リリーが申し訳なさそうに告げるのに、俺はそう告げて返した。


「その、私も同行させていただいてもいいですか?」


「君もか?」


 そこでリリーが奇妙な申し出をした。


「はい。私自身が“呪われた血筋”として手配されていたのも昔の話ですし、私だけではユスティニアヌス市に侵入するなど考えられませんでしたから。よろしければ、私もヤシロさんたちに同行させてください。地下下水道も道案内できると思いますから」


 リリーを連れて行くにはそれなりのリスクがある。リリーは“呪われた血筋”という精霊帝国に命を狙われている身だ。確かに手配されたのは過去のことだろうが、それでも手配されていたという事実は残る。


 リリーを同行させてリリーが発見させるようなことになれば、作戦行動にはいろいろと支障が生じるだろう。最悪、ユスティニアヌス大聖堂を偵察する前に敵に捕捉され、逃げ出さなければならない状態になりかねない。


 だが、リリーをこれから友軍として扱うならば、それなりの協力はしておきたい。彼女はこの協力者が誰もいないバルフ王国で唯一の友好的な現地住民だ。彼女の機嫌を損ねて、友軍がいなくなるのは喜ばしいことではない。


「分かった。では、同行してくれ、リリー。その代わり顔の分からない恰好を頼むよ」


「分かりました。準備しておきますね!」


 俺がそう告げるとリリーは嬉しそうに、立ち上がって自宅のある方角に向かった。


「リリーさん。嬉しそうでしたね」


「ああ。久しぶりに人と話したという感じだ」


 俺とリリーの会話を見ていたエーデが告げるのに、俺はそう告げて返した。


「私の抵抗運動レジスタンスのおかげで人々が救われるのはいいことですね、やはり。そして、どうあっても精霊帝国は滅ぼさなければなりません」


 エーデの使命は人々を救うことではない。彼女の使命は精霊帝国を破壊することにある。精霊帝国を攻撃した結果として人々が救われるならばそれでいいだろうが、別に人々を救うために戦ったりはしないのだろう。


「リリーの年齢は君と同じくらいだ。できれば、君に任せておきたい。頼めるか?」


「はい。ヤシロ様。私もできる限りのことをします」


 リリーの年齢はまだエーデほど。つまりは子供だ。


 俺はまた子供を戦争のために使うというわけか。


 このことを恥じるという観念がないのが一番の恥なのかもしれない。


「さて、では我々も準備するとするか」


……………………


……………………


 侵入に当たって環境適応迷彩はなしだった。


 あれは便利な品だが、人で溢れた都市のそれも昼間に使うものではない。


 我々は庶民の服装に着替え、なるべく用心して地下下水道に向かう。


 地下下水道に柵や見張りはおらず、我々は容易く地下下水道に侵入出来た。


 問題はこれからだ。


「こっちです」


 地下下水道は増改築を繰り返したのか迷路のようになっており、入り組んでいる。我々はリリーの案内でその入り組んだ地下下水道を進んでいく。


「リリー。君は以前にもここに来たことがあるのか?」


「はい。前に何度か。冬なるとあの森では食料は取れなくなります。だから、街で残飯を漁るために何度か侵入しました。今は冬の蓄えもありますからそういうことはしなくともいいのですが、道のりは覚えていますよ」


 リリーもいろいろと苦労して過ごしてきたようだ。


「もう少しです。人気のない場所に出ますから」


 リリーはそう告げると地下下水道をクマネズミのように進む。


 ここで本当にリリーを信頼していいのだろうかという疑問が浮かび上がる。


 ユスティニアヌス大聖堂への偵察に当たり、装備のほとんどは置いてきてしまっている。銃火器もMP7短機関銃とHK45T自動拳銃のみだ。敵の大部隊に包囲されれば、間違いなく一巻の終わりだ。


 今のところリリーが“呪われた血筋”であって、“呪われた血筋”は精霊帝国に迫害されているという情報をもたらしたのはリリーだけだ。実際のところはそうではなく、リリーの言動の全てが演技だった場合、我々が苦しい立場に陥るのは想像できなくない。


 もっとも、俺はこれが杞憂であることをほぼ確信している。


 リリーは間違いなく俺たちの味方に付いている。もし、彼女が裏切っているのであれば、もっと不確かな侵入手段を教えて、衛兵に俺たちを拘束させればいい。リリーは我々の装備のこともしらないのだから、そういう手に出てもおかしくはないのだ。


 情報戦は孤独との戦いとは言えど、人を疑りすぎるのは悪い癖だ。


「ここです。ここから人気のない場所に出れます」


 リリーが立ち止まって、地下下水道のマンホールを見上げる。


「エーデ。人の気配は?」


「この付近にはしません。大丈夫です」


 エーデがこういうのだ。大丈夫だろう。


 本来ならば遠隔カメラなどを使って確認するところだが、そんな装備はない。俺は武器を抜くと、先陣を切ってマンホールの蓋を開けた。


 出たのは路地裏だった。全く人気はない。


 俺は素早く周囲を確認し、確かに人がいないことを確認すると地下下水道にいるエーデたちに合図を送り、ひとりずつ地下下水道からユスティニアヌス市内部に這い上がってきた。ひとり、またひとりと地下下水道を上る。


「無事に侵入出来たようだ。感謝する、リリー」


「いえ。これぐらいのことならばお任せください」


 俺が礼を言うのにリリーがはにかんで見せた。


「さて、ではユスティニアヌス大聖堂に向かうか」


「あの、それは昼間では難しいかと。大聖堂は貴族のものですから。私のような“呪われた血筋”や下層民の方々では近づけないかと」


 そうだったな。ナジャフ大聖堂も貴族の所有物であった。あそこで祈りを捧げられるのは貴族だけで、下層民たちは遠巻きにそれを眺めることしかできないのだった。


「では、一先ず夜まで待とう。宿を取って、そこで待つ」


 今回の偵察部隊のメンバーは俺、エーデ、リリー、シンドーナ兄弟の5名だ。


 安宿ならば怪しまれずに宿泊できるだろう。


 設定も考えてはある。旅の商人で、ハーブを売って回っているという設定だ。シンドーナ兄弟とエーデたちは兄妹であり、俺はその保護者という立場を取っている。


 もしも、衛兵に通行許可証を調べられれば困ったことになるので早急に入手しておきたい。いざとなれば盗みにでも手を付けよう。大いなる大義のためには、些細な犯罪など許容されるというものだ。


 俺たちはそうやって安宿に部屋を構えると、その今にも壊れそうな建物にて夜が来るのを待った。夜がくれば、ユスティニアヌス大聖堂にも近づけるだろう。


 問題は内部に侵入するのが困難だろうというところだ。


 ユスティニアヌス大聖堂は他の大聖堂とは違って、聖剣を保存している。守りは脆弱なものではないだろう。敵も聖剣が奪われた場合の影響について、まるで考えていないような馬鹿ではないはずだ。


 衛兵。鍵。セキュリティー。貴族。


 あらゆるものがユスティニアヌス大聖堂では待ち受けているはずだ。


 さて、我々はそれをどう突破したらいいものだろうか?


……………………

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