表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/148

聖剣に向けて

……………………


 ──聖剣に向けて



 我々はいよいよ陰に隠れることを止めた。


 正々堂々と精霊帝国に宣戦布告するのだ。


 南部、ルンビニ公国、ティベリア藩王国で抵抗運動レジスンタンスが一斉蜂起し、貴族たちの排除にかかった。現代の銃火器で武装した抵抗運動が貴族の邸宅や城を襲い、貴族たちを処刑していく。


 1日だけでも殺された貴族の数は100名近くに及ぶ。貴族たちは抵抗したが、その抵抗が抵抗運動に危機感を抱かせ、彼らは家族諸共皆殺しにされた。


 そこら中で銃声が響き渡り、時折悲鳴が聞こえる。


 貴族たちの中でも降伏したものたちも、同じように処刑された。掘られた穴の前に跪かされ、後頭部に銃弾が叩き込まれる。男であろうと、女であろうと、年寄りであろうと、子供であろうと、貴族という者であれば全て皆殺しにするつもりらしい。


 これまでの下層民の鬱憤は相当溜まっていたようだ。


 俺は銃声の音を心地よく聞きながら、制圧したティベリア藩王国──いや、ティベリア共和国の貴族の邸宅で、エーデの淹れてくれたお茶を味わっていた。


「ヤシロ様。皆様がお揃いになったようです」


「そうか。では、いこう」


 エーデが告げるのに、俺は立ち上がって食堂に向かった。


「来たか、ヤシロ」


 食堂は会議室となっていた。


 会議室には主だった抵抗運動の指導者が集まっている。


 自由エトルリア同盟からバルトロ、ペネロペ、レオナルド、トゥーリオ。


 ルンビニ革命議会からマルコム。


 ミラ国内軍からエリス、カミル。


 ティベリア共和国軍からエトヴィン。


 今や彼らは自由のかけらを手にし、ここにいる。


「今は掃討作戦の段階だ」


 俺は列席したメンバーにそう告げる。


「貴族たちを掃討し、確実に南部、ルンビニ公国、ティベリア共和国から叩き出す。その上に勝利を築こう。そして、この3つの国で大規模な徴兵を始め、軍隊を組織する。それによってこの3つの国を守る」


 もはや、今更ここにいる貴族たちに苦戦することなどない。彼らは組織力を失い、てんでバラバラに動いているのだ。そして、これまで貴族たちの側にあった衛兵たちも裏切りを始めている。


 貴族たちを守るのは貴族たちの力でしかなく、それを24時間フルに発揮できるわけではないのだから、彼らを始末していくことは簡単だ。


 こちらが鉛玉を叩き込んであの世に追放する前に、バルフ王国や精霊帝国本土に逃げ出した貴族も少なくない。どうせ追い詰めて殺すのだが、逃げるというならば放っておこう。今はそれよりしなければならないことがある。


「軍隊を組織するのか?」


 バルトロがやや興奮したようにそう告げる。


「その通りだ。軍隊を組織しなければならない。もはや、ゲリラ戦だけで凌ぐ時期は終わった。これからは正規軍を組織し、バルフ王国と精霊帝国本土に攻撃を仕掛ける。全く無理な話ではないだろう?」


 ゲリラ戦はやはりゲリラ戦だ。決定打にはならない。


 ベトナム戦争という大規模なゲリラ戦を締めくくったのも北ベトナム軍正規軍による大規模な攻勢であった。アフガニスタンでもゲリラ戦に徹していた北部同盟がタリバン政権に勝利を収めたのは、爆撃を始めたアメリカ軍の支援の下に攻勢を始めてからだった。


 ゲリラ戦というものは相手を弱体化させ、ある程度の勝利目標を達するのには役立つが、決定的勝利を収めるには不十分である。


 やはり決定的な勝利には正規軍による攻勢が不可欠だろう。


 そのための徴兵だ。


「徴兵対象は18歳以上の男。心身的に健康であること。何かしらの都合で家を離れられないなどの理由がないこと。これを満たす人間を片っ端から集める」


「そんなに温くていいのか? あの武器だったら14歳のガキでも貴族が殺せるぜ」


 俺が条件を告げるのにエトヴィンがそう告げてきた。


「武器そのものは使えるだろう。だが、行軍についてこれるか? いざという時に怯えないか? ちゃんとした意思疎通が取れるか? その点を考えれば、譲れるのは18歳までだろう。それ以下は戦力には数え難い」


 まさかあれだけ子供兵を使うようにと軍閥に促し続けていた俺が、子供兵を否定するような発言をすることになるとは。世の中どうなるか分からないものである。


 だが、実際に子供兵にもデメリットはいろいろとある。体力は大人に劣るし、精神的にも成熟していないし、コミュニケーションにも問題がある。使わずに済むのならば子供兵を使わない方がいいに決まっている。


 だが、全く使わないわけではない。


 これまで戦ってきた子供兵は継続して使用する。自由エトルリア同盟の軍事部門、ルンビニ革命議会の軍事部門、ミラ国内軍の軍事部門、ティベリア共和国軍の軍事部門、それぞれの部署にいる子供兵はこれからも継続して使用される。


 子供兵が如何に未熟であったとしても、不意を打つのには使えるのだ。


 たとえ、その不意を打った後の退路がなかろうと。


「それではその条件で人を集めるのだな。訓練はどうする?」


「それぞれの国の抵抗運動レジスタンスで教育してくれ。期間は3ヵ月。それで2万人の戦力を最低限確保したい」


 バルトロが尋ねるのに、俺がそう告げて返す。


 2万人。1、2個師団規模の戦力。


 精霊帝国が何個師団の戦力を有しているかは不明だが、少なくとも上手く運用すれば防衛任務には使えるだろう。それから徐々に戦力を増やしていき、最終的には3万人程度の戦力を確保したいところだ。


 軍の規模を大きくしたからと言って、そのまま戦力が拡大するわけではない。


 軍隊には食料と武器弾薬などの必要不可欠な物資がある。それを輸送するための手段を確立しておかなければならない。つまりはこれからの作戦では兵站線を無視した戦い方はできないということだ。


 少人数のゲリラ戦部隊だったならば、俺とアティカの魂の取引で物資を調達できたが、2万、3万の軍隊でそれは不可能だ。


 我々は後方から物資を買い付け、武器弾薬を一か所に集めて管理し、そこから馬車で必要な場所に物資を運ばなければならない。


 飼い葉の代わりにガソリンを使い、運転のできるものを育成するならば、機械化補給部隊も編制できるだろう。だが、ガソリンの取扱いと運転技術の習得までの時間を考えていると、今は馬車に頼るしかなさそうだ。


 敵より優れた現代の銃火器で戦い、兵站は馬車に頼る。まるで第二次世界大戦中のドイツ軍のようではないか。


 馬車ほど人間に親しまれた乗り物もない。この寡黙な戦友たちは黙々と物資を運んでくれる。馬というものが人間の友になってから、ずっと。


「その間、精霊帝国が攻撃をかけてきたら?」


「そうはさせない。主導権は我々が握っておく」


 エリスが尋ねるのに、俺はそう返した。


「攻撃を仕掛ける。バルフ王国に対して」


 俺はそう告げて地図を広げた。


「攻撃は2か所で実行される。ひとつはアトス要塞の再攻撃。そちらは陽動になる。だが、今回は国境の警備を突破し、こちらが国境の警備など気にもしていないことを示して、敵に国境線の守りを不安視させる」


 地図の一点を指さす。アトス要塞。バルフ王国へのブラフとして行われた攻撃。


「もうひとつは──聖剣の奪還だ」


 俺がそう告げるのにエーデが僅かに眉を動かした。


「聖剣はユスティニアヌス大聖堂に存在しているらしい。聖剣がどのような形をしているのか、聖剣がどのように保存されているのかは分からない。エーデも何も知らないと言っている。ただ、見れば分かるとだけ」


「目が見えないのにか?」


 俺がそう告げるのにエトヴィンが呆れたようにそう告げる。


「エーデには視力はないが特殊な感覚がある。そのことはあなたも知っているはずだ」


「分かっているよ。ただのジョークだ」


「笑えないジョークだな」


 エトヴィンは肩をすくめて黙り込んだ。


「聖剣を我々は奪還する。エーデが聖剣を手にすれば、民衆たちに勝利を印象付けられるだろう。これからバルフ王国で戦う上においても、有力な交渉材料になるはずだ。その点に異論はないだろう?」


 俺の言葉に列席者が頷く。


 バルフ王国でも民衆の支持を得なくてはならない。もうゲリラ戦だけに頼らないとしても、民衆の支持がなければ、民衆から攻撃を受けたり、民衆が徴兵を拒否したり、物資の供出を拒否されたりするだろう。


 バルフ王国の住民にも聖女がいて、そのために我々は勝利しているのだと知ってもらわなければならない。そのための聖剣奪還だ。


「では、アトス要塞への攻撃は手すきの部隊で。ルンビニ革命議会が中心の部隊になるだろう。任せても大丈夫だろうか、マルコム?」


「任せてくれ。俺たちは確実に勢いに乗っている」


 マルコムのルンビニ革命議会はティベリア藩王国での戦いで、目立った活躍ができなかった。そのためだろうか。活躍の場を求めているように思われる。


「ユスティニアヌス大聖堂へのアプローチは俺とエーデ、それから1個小隊規模の戦力で行われる。自由エトルリア同盟なら兵力の余裕はあるだろう」


「確かに。聖剣の聖女が聖剣を取り戻すためだ。協力しよう」


 バルトロもさらなる活躍と、権力を求めて同意する。


「では、決まりだ。我々は2日後には準備を整えて出発する。ユスティニアヌス大聖堂に向かう部隊は国境を静かに越えることになる。用心して行動してくれ」


 俺はそう告げて会議を終わらせた。


「ついに聖剣が手に入るのですね」


「ああ。君も聖剣を取り戻せたら、聖女だと胸を張って言えるのだろう?」


 聖剣の伝説はいくつも聞いたことがある。


 アーサーの王のエクスカリバー。スサノオの草薙剣。ローランのデュランダル。


 どれもが強力であると記され、そして権力者の象徴となっていた。ただの剣、されど剣というわけだ。


 まして、人知を超えた現象が発生するこの世界では、聖剣というものは本当に聖剣なのだろう。何かしらの超常的な作用を及ぼすに違いない。ただの剣でいいのであれば、これまで通りM14自動小銃を使ってもらう。


「ようやく私は義務が果たせそうです。ありがとうございます、ヤシロ様」


「これは我々の戦いだ。礼などいらないよ、エーデ」


 実際のところ、俺は善意からエーデの聖剣奪還を考えているわけではない。ただ、それが目的を達するがために必要であるから協力しているだけなのだ。


「ともに戦い、勝利しよう、エーデ」


「はい、ヤシロ様」


 俺のこの言葉だけは嘘ではなかった。


……………………

面白そうだと思っていただけましたら評価、ブクマ、励ましの感想などつけていただけますと励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「人を殺さない帝国最強の暗殺者 ~転生暗殺者は誰も死なせず世直ししたい!~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ