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それでは綺麗に吹き飛ばすとしよう

……………………


 ──それでは綺麗に吹き飛ばすとしよう



 次の目標はデニス・ディルレヴァンガーに定めた。


 この男はジーモン・シュトラッサーとは異なり活動的な人物であった。朝昼夜で行動が全く異なり、規則性が見つけられてない。


 この状態で襲撃をかけると言うのは少しばかり落ち着かない。敵はジーモン・シュトラッサーが死んだことで少なくない警戒をしているはずだ。それも無計画に襲撃するというのは、暗殺のセオリーから外れている。


 これはコインを一枚入れればコンテニューできるゲームではないのだ。俺が率いる兵士の命も、敵の状況も、判断を間違えば最悪のものになり、そして取り返しは付かなくなる。そうであるがために俺は慎重になる。


 確実に目標を仕留める。こちらの損害はなしで。


 だが、エーデにそれは任せたくはなかった。


 アティカに言われたことが気になっているのだろうか。一連のマフィアの抗争にエーデを投入することに俺は消極的であった。どうせ衛兵と同じ下層民。殺し合ったところで、その手が汚れるわけではない。


 そう考えても、俺はエーデの投入に否定的だった。


 恐らくそれは大義がどうこうという問題ではなく、エーデがマフィアの抗争という汚い戦争に手を染めて、聖女としての信仰心が失われることを警戒してのことなのだろう。エーデが殺すのは明白に精霊帝国側の人間であるべきだ。それでこその聖女だ。


 そういうことで、我々は俺たちの手で、デニス・ディルレヴァンガーを仕留める必要が生じていた。未だ、行動に規則性の見いだせない男の暗殺を我々はやらなければならない。エーデの力抜きで。


「目標、建物を出ました」


 1個小隊の部隊はツーマンセル(2名1組)に分かれ、各地でデニス・ディルレヴァンガーの様子を見張っていた。どこかで殺すのに最適なタイミングを生じさせないかと。


 だが、今のところデニス・ディルレヴァンガーは行動パターンはランダムで、接近するには屈強な護衛たちをどうにかしなければならなかった。荒くれものたちを集めているというエトヴィンの言葉は偽りではなく、デニス・ディルレヴァンガーの傍には常に大柄な男たちが警備に当たっている。


 無論、銃弾をばら撒けば屈強な護衛などどうにでもできるだろう。だが、衛兵という問題も抱えてる状況で、そのようなどんぱちをするのはぞっとさせられる。街に衛兵は2個中隊500名は存在し、対する我々は1個小隊のみの戦力なのだ。


 どうにかして、デニス・ディルレヴァンガーの隙を見つけ出さなければ。


 そう考えて数日が過ぎた。


 そこで我々は隙を見つけ出したのだ。


 デニス・ディルレヴァンガーが同じ宿に2日連続して泊っている。出ていく様子も見られない。彼はその宿に一先ずの腰を落ち着けたようだ。


「即座に行動に移ろう」


 我々は即座に行動に移ることにした。


 我々はデニス・ディルレヴァンガーの下の階に部屋を取ると、盗聴器でデニス・ディルレヴァンガーの様子を探った。彼は売春婦とお楽しみの最中であり、これからさらに3日はここにいることを約束していた。


 決まりだ。ここをデニス・ディルレヴァンガーの墓場にする。


 宿屋の部屋の警備は厳重で誰も近づけない。彼を撃ち殺しに行くというのには無理があった。撃ち殺しに行くならば派手な戦闘を覚悟しなければならず、さらには目標に逃げられる可能性も入っていた。


 だが、幸いなことに我々は下の階と上の階に部屋を取っている。


 ならば、やることはシンプルだ。


「アティカ。頼みたいことがある」


「碌でないことでしょうね」


「目標を達成するのに不可欠なことだ。取引をしたい」


 俺はアティカに頼んで魂の取引を行う。


「部屋に突入した方が静かだし、確実ではありませんか?」


「相手が部屋の周囲の廊下を封鎖し、衛兵を買収していなければね。デニス・ディルレヴァンガーは部屋の警備をがちがちに固めたうえに、ジーモン・シュトラッサーが死んだことで警戒している。暗殺するための方法は限られる。それに──」


「それに?」


 俺の言葉にアティカが首を傾げる。


「派手に死んでもらった方が見せしめになるだろう?」


 これはマフィアの抗争だ。恐怖によって民衆を支配しようとする戦争だ。テロリストたちと同じ戦争だ。


 そうであるならば、派手に死んでもらった方がこれから我々が協力関係を結ぶだろうエトヴィンのティベリア共和国軍のためにもなるだろう。


「相変わらず腹黒い人です」


「日本情報軍のやってきたことを考えるならば、これぐらいは倫理的な作戦だ」


 アティカが肩をすくめるのに俺はそう告げて返し、作戦に入った。


 デニス・ディルレヴァンガーは依然として宿から外に出ていない。これまでのランダムな行動パターンは崩れている。だが、この作戦に失敗すれば、敵は警戒心を強め、我々の手の及ばないところに逃げ込むだろう。そうなるのは望ましくない。


 デニス・ディルレヴァンガーにはここで死んでもらう。何としても。


 作戦にかかった時間は半日だった。我々は観光客に偽装して、宿の入り口を見張るデニス・ディルレヴァンガーの部下たちに怪しまれないように定期的に出入りし、密かに裏ではデニス・ディルレヴァンガー暗殺の準備を続けた。


 そして、ついに決行日が来た。


「目標、依然として部屋を出る様子はなし」


 部屋を盗聴している兵士がそう告げる。


 デニス・ディルレヴァンガーはお楽しみの最中だ。動く様子はない。暫くは部屋の中にいるだろう。そして、確実にいるのはデニス・ディルレヴァンガーだろう。


「退避は?」


「完了しています」


 俺が尋ねるのに小隊指揮官がそう告げて返す。


 この作戦においては我々は100メートル以上目標から離れていなければならなかった。既に小隊は退避済みで、俺たちは400メートルの地点から宿屋を監視していた。俺はAXMC狙撃銃で宿屋のデニス・ディルレヴァンガーの部屋を照準し続けている。


 狙撃と言うのはいざという場合の最終手段だ。400メートルならば確実に当てられる自信はあるが、銃弾と言うのは気まぐれな代物で命中した後、体内でどのように動くのか分からないものなのだ。


「では、実行する」


 そして、我々には狙撃より確実な手段が存在する。


 俺は無線機の電源を入れて、電波を送信した。


 次の瞬間、宿屋のデニス・ディルレヴァンガーの部屋の上の部屋と下の部屋が同時に耳をつんざく爆音を響かせて爆発した。視界は一瞬、宿屋の残骸が立ち込めさせる煙で遮られ、何が起きているのか分からなくなる。


 だが、我々のやったことは単純だ。


 デニス・ディルレヴァンガーの部屋の上の階と下の階に爆薬を詰め込み、炸裂させたのだ。それによってデニス・ディルレヴァンガーの部屋は爆発でサンドイッチされるように押し潰された。宿屋の周辺では悲鳴が上がり始め、混乱した様相を成す。


 爆殺はポピュラーな暗殺手段だ。張作霖も、黒い9月のメンバーも、バシール・ジェマイエルも爆弾で殺された。


 我々も先人たちに倣って爆弾を利用した。それも個人を殺すのにはオーバーキルともいえる量の爆薬を使って。


「小隊は撤収開始。合流予定地点で待機せよ」


「了解」


 とは言えど、何かしらの悪運でデニス・ディルレヴァンガーが生き残った可能性はある。人間と言うものは驚異的なのだ。


 念のため、俺とエーデはデニス・ディルレヴァンガーの死体袋が運び出されるまで、爆発現場を見張ることにした。俺とエーデだけならば、警戒態勢が跳ね上がったこの街からも無事に離脱できる。生きていたら、それこそ狙撃で片付けるだけだ。


 瓦礫が運び出され、生存者が探される。


 大勢が死んでいた。宿には大勢の人間が泊まっていて、それが巻き添えになった。通りを歩いていた人間も巻き添えになっている。


 だが、そんなことは気にすることではない。この手の作戦に民間人の犠牲はつきものだし、我々は最初からこうなることを予想して作戦を実行した。


 これで巻き添えになりたくない民衆が他2名を追い出してくれるようなことがあれば万々歳と言ったところだ。テロリストとは恐怖よって支持を得る生き物だ。ならば、我々も恐怖によって民衆を支配しようではないか。


 そして、これがあくまで犯罪組織同士の抗争だとティベリア藩王国を治めるテオドシウス・フォン・ホルシュタインが考えてくれれば結構。今のところ、我々は貴族を目標に定めた攻撃を行っていない。犠牲になっているのは下層民だけだ。


 ティベリア共和国軍の支持が得られるまではそうしなければ。


 やがて、瓦礫の中からデニス・ディルレヴァンガーが姿を見せた。


 彼は頭部だけが無事に残り、そこから下は肉挽き器に突っ込んだかのような有様になっていた。潰れた内臓から大量の血があふれ出て、それが崩れた宿屋の瓦礫に染み込んで赤黒く染まっている。


「目標の排除を確認」


 ひとりを殺すのには些か派手だったが、この程度でなければ恐怖は振りまけまい。


 俺たちはデニス・ディルレヴァンガーの死を確認すると街を抜け出した。静かに。


 そして、まだエトヴィンが拠点を構えるマザーレ市に戻る。


「上出来だ」


 エトヴィンは上機嫌にそう告げた。


「あの屑は死んで当然だった。誰もが今頃喜んでいるだろう。それもああも派手に死んだとあればな。やればできるじゃないか」


「今回はたまたま条件が重なったためにああいうことになった。普通ならばもっと静かに殺している。今、精霊帝国の関心がこちらに向くのは好ましいことではない。あれは少しばかり騒ぎすぎだ」


 あの状況ではあれが最適解だったが、爆殺という手段はやはり派手だった。あんなことを繰り返していれば、瞬く間に精霊帝国の注意を引き、ティベリア藩王国での軍事作戦に支障が生じてしまうだろう。バルフ王国でやったことが無駄になる。


「確かにちとばかり騒ぎすぎだったな。テオドシウスの間抜けも俺たちの行動に気づくかもしれない。次からはやるならば静かにやってくれ」


「そうするつもりだ」


 あんな馬鹿騒ぎは一度で十分だろう。


「では、残り2名だ。ここまで片付けてきたんだ。簡単なもんだろう?」


「どうだろうね」


 ひとりは貴族に情報を売って貴族に寝返り、ひとりは独自の組織を有している。


 始末するのはそれなりに苦労することになるだろう。


「ところでそっちのご自慢の聖女様は活躍したのかい?」


 そこでエトヴィンがそう尋ねた。


「彼女にはバックアップに回ってもらっている」


「聖女様にこんな汚い仕事はさせられないってことか?」


 全く、面倒な男だ。


「エーデは万が一の場合に待機してもらっているだけだ。予備戦力は強力でなくてはならない。火消しには有能な人間が必要だ。そういう理由からだ」


「へえ。本当にそうだといいんだがな」


 エトヴィンがそう告げてエーデを見る。


「綺麗な戦争に聖女を使う。汚い戦争には聖女は使わない。そんな風に区別されるのは困るんだよ。俺たちの抗争も立派な抵抗運動レジスタンスだ。あんたらが行ってきた武力闘争となんら変わりない。戦って勝利する」


 エトヴィンはそう告げてにやりと笑った。


「だから、聖女様も頑張ってくれよ。その両手を裏切り者どもの血で染めてくれ」


 エーデは何も言わなかった。


 ただ、彼女の表情は少しばかりの哀れみの表情を浮かべているように見えた。それもエトヴィンに対して。


「万全を尽くそう。他にリクエストはあるかな?」


「ないね。まあ、上手い具合に残りの連中も片付けてくれ」


 こうして俺とエトヴィンの会合は終わった。


 さて、残りは2名だ。いよいよ折り返し地点だな。


……………………

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