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地下ネットワークとの会合です

……………………


 ──地下ネットワークとの会合です



 向こう側の地下ネットワークに指定された会合場所は国境線近くの村だった。


 こちらは会合場所の問題にならない位置に部隊を待機させてある。本当に問題にならない場所なだけあって、いざという場合に救援が行えるのは疑問だ。だが、これでもないよりはましだろう。


 我々はレオナルドを警護し、会合場所に向かう。


 会合を行うのはあくまでレオナルドだ。我々はその警護。


 だが、警護に当たって、わざわざと俺とエーデを指定してきたということは、敵が話を聞きたいのはレオナルドだけではないと窺わせてくれた。


「ちゃんと守ってくれよ?」


「そちらがこちらの指示に従う限りは守って見せよう」


 俺とエーデの代わりはいないだろうが、レオナルドの代わりはいる。レオナルドが死んだとしても抵抗運動レジスンタスに支障はない。俺が守るべきはあくまでエーデだ。彼女が死んでしまっては困る。


「かなり緊張しますね」


「我々が最初にリベラトーレ・ファミリーを訪れた時と同じだ。そこまで緊張する必要はない。いざとなれば俺がなんとしてでも逃がす」


 シンドーナ兄弟の兄セルジョが呟くのに、俺はそう告げて返した。


 思い返せばリベラトーレ・ファミリーの懐に飛び込んだ時も、俺とエーデ、そしてシンドーナ兄弟の4名だった。まだそこまで時間の経ったことでもないのに、遥か昔のことのように思える。あの時はエーデが勝手に発砲したんだったか。


「エーデ。発砲は俺が許可するまでダメだよ」


「分かっています、ヤシロ様」


 エーデはいつもの朗らかな笑みで微笑む。


 まるでこれから危険な場所に飛び込むのだという自覚すらないように。


 だが、エーデにとってはいつものことだ。彼女はどんな厳しい戦局であろうとも微笑んでいる。まるで俺たちを安心させるためだと言わんばかりに。


 ナノマシンで危機感の麻痺している日本情報軍の兵士でも危険に対しては敏感になるだろう。我々は恐怖を覚えることはないが、適度な緊張感を人工的に維持しているのだ。これからの危険に飛び込むとあらば、警戒はする。


 だが、エーデにはそれがない。


 エーデは全く穏やかな状況から即座に戦闘態勢に切り替われる。ナノマシンですら実現できなかったことを平気でやってのける。エーデのその性質の全て戦闘に向けられているかのように、迅速に切り替わるのだ。


 その点ではエーデは頼もしくもあるが、危険でもある。


 エーデはいつその姿勢が戦闘のそれに切り替わるのか予想できない。レオナルドに突然発砲したように、我々の予想していないタイミングで戦闘態勢に切り替わる可能性もあるのだ。それは昔の液体ニトログリセリンのような危険性だ。


 彼女はもう勝手な発砲はしないと言っているが、命の危険が迫った場合に発砲してもらわなければ困ることもある。


 つまりは指揮官である俺次第というわけだ、全く以て。


「ドローンの映像にこの付近に敵性勢力は確認されず。問題はない」


 これから会合することになる地下ネットワークには悪いがドローンは飛ばさせてもらっている。こちらの兵士たちは赤外線ストロボで識別できるようになっており、こちらは赤外線で目標を探しているが、今のところ敵と思われる存在はいない。


「誠実なようで何よりだ」


 レオナルドが皮肉のようにそう告げた。


「我々も誠実でいよう。彼らが誠実である限り」


 会合場所の監視はこの数日前から行っている。出入りしたのはこの会合の前になって現れた相手の地下ネットワークの構成員と思われる人間だけ。それから人の出入りはない。向こう側は確かに誠実なのだろう。


 だが、赤外線センサーでも相手が魔術師がどうかまでは見分けられない。相手が地下ネットワークの構成員に見せかけた貴族であった場合は、不意を打たれることになるだろう。相手もそろそろ着飾るだけが貴族ではないことに気づいているはずだ。


 いざ、相手が杖を抜いたら即座に蜂の巣にするしかない。


「そろそろだぞ。準備はいいか」


「こちらは万全だ」


「頼もしい限りだな」


 レオナルドが会合場所になっている家の扉を叩き、中から反応があった。


「久しぶりだな」


 家の中にいたのは俺の予想に反して若い人間だった。


 30代ほどだろうか。それよりも若干若く見えるが、苦労を重ねてきたことが顔立ちから窺える。表情が歪み、深さを有している。何の苦労もせずに、人生に起伏なく過ごしてきた人間の軽薄な表情とは異なる深さだ。


「ああ。久しぶりだな、エトヴィン。貴様らが一方的に手を切ってから久しぶりだ」


 その人間の言葉にレオナルドがそう告げて返す。


「一方的に手を切った? それは違うだろ。俺たちは再三そちら側に対応の改善を求めてたんだ。あんたらは南部の利益ばかりを重視し、こちらの言うことに耳を貸さなかった。だから、手を切ったんだ。どこが一方的だ?」


 エトヴィンと呼ばれた人間は小さく笑ってそう告げる。


「言っていろ。だが、お前たちは俺たちの支援が必要なはずだ。違うか?」


 レオナルドは自慢げにそう告げた。


 リベラトーレ・ファミリーは今やただの犯罪組織ではなくなった。自由エトルリア同盟の貴重な経済担当部門となっている。そして、その背後にはバルトロの強力な軍事部門が控えているわけである。


「さて、どうかね。そっちの力ってのはよく分からないしな」


 そう告げてエトヴィンが俺の方を見る。


「あんたが仕切ってるんだろ。名前はヤシロだったか」


「八代由紀。仕切っているとは言い難いが。そちらの名前を聞いても?」


 実際のところ、どういう情報経路で俺の情報が向こうの地下ネットワークに知られたのだろうか。レオナルドが向こうの地下ネットワークに未だ連絡経路を有しているように、向こう側もこちら側に連絡要員を忍び込ませているのだろうか。


「エトヴィン。エトヴィン・フォン・エーベルシュタイン。ティベリア共和国軍第1猟兵旅団旅団長だ。以後よろしく」


「貴族か?」


「違う。家名は勝手に名乗っているだけだ」


 立派な家名からして貴族かと思ったがそうではないようだ。


「エーデ。相手から貴族の反応は?」


「ありません」


 エーデは相手が貴族かどうかを見破れる。そのエーデがそういうのだから、間違いはないだろう。相手は貴族ではない。


「しかし、ティベリア共和国軍第1猟兵旅団とは?」


「文字通りだ。ティベリア藩王国とかいう腐った体制を叩き潰して、俺たちはティベリア共和国を作り上げる。そのための軍隊だ。もはや、俺たちは南部のマフィアの使い走りではないんだよ。分かってるか、レオナルド?」


 共和国か。


 さほど驚くには値しない。自由エトルリア同盟も、ルンビニ革命議会も、血筋による統治を掲げていない。それを掲げているのは王室が生き残っているミラ国内軍だけだ。他の抵抗運動レジスンタスの目指す形も共和国という形に落ち着くだろう。


「その共和国作りは上手くいってるのか? 聞いたところによれば、お前たちは貴族を相手に商売をしているそうじゃないか。貴族に泣きつかなきゃならない連中が、共和国だなんて作れるのか?」


 レオナルドはどこまでも挑発的だ。


「俺たちには俺たちの戦い方がある。あんたらに指図される覚えはないんだよ、レオナルド。あんたとは手を切った。こっちはこっちでやらせてもらう」


「はん。果たしてそれが上手くいってるやらな」


 やれやれ。両者の関係は最悪のようだ。


「はっきり言おう。我々にそちらを支援する準備がある。あなた方が精霊帝国に対して戦うのであれば、我々は無償でそちらを支援しよう。南部のためでも、リベラトーレ・ファミリーのためでもなく、あなた方の理想のために戦ってもらっていい」


 レオナルドとエトヴィンの言い争いを聞いていては、全くらちが明かない。我々は向こうの地下ネットワーク──ティベリア共和国軍と共闘するためにやってきたのだ。くだらない子供ような口喧嘩をするために来たわけではない。


「それはまた随分寛大な申し出だが、それを信頼できる証拠は?」


「我々のこれまでの戦いがそれを示しているはずだ。詳しいのだろう?」


 エトヴィンが告げるのに、俺がそう告げ返す。


「確か南部を解放し、ルンビニ公国を解放し、東部山岳地帯を解放したんだったか。だが、それが南部のためではないとどうして言い切れる?」


 エトヴィンの南部に対する不信は予想以上のもののようだ。


 確かに北部に戦域拡大を目指す理由は南部を守るためだった。少なくとも俺は自由エトルリア同盟の幹部たちにそう説明している。


 だが、北部に戦域を拡大しなければ北部の解放はままならないし、精霊帝国を倒すという目的が果たせないのもまた事実だ。精霊帝国本国は北にあり、精霊帝国本国を落とさなければ、俺はその与えられた目的を果たせないのだ。


 こればかりはいくらエトヴィンが南部に不信を抱いていようと変わりない。


「無償の支援というのが信じられないと?」


「ただより高いものはないって言葉を知ってるか?」


 知っているとも。俺たちが中央アジアで軍閥を支援したときも、その無償の支援の背後にあったのは日本国のために身内で殺し合ってもらうためだったのだから。


「では、どのようにすれば信頼してもらえる? できる限りのことは協力しよう」


「そうだな──」


 エトヴィンがその視線をエーデに走らせる。


「その聖女を譲ってくれたら考えてもいいぞ」


 エトヴィンがそう告げるのに俺は眉を歪めた。


 だが、当のエーデは涼しい表情をしていた。つまりはそういうことか。


「それは本気ではないのだろう」


「おや。どうしてそう思った?」


「あなたが本気ならエーデがあなたを射殺している」


 エーデは敵意に敏感だ。エトヴィンが本気でエーデを人質にでも取ろうというつもりだったならば、表情の変化ぐらいは見せるだろう。


「ご命令があるまでは発砲しません」


「分かっているよ、エーデ」


 エーデは心外だと言うようにそう告げる。


「まともに話し合おう。お互いにそこまでの余裕はないはずだ。我々は精霊帝国を相手にしているのだからね。未だ強力な支配力を発揮している巨大帝国を相手にしているのだ。我々のような人間には時間は足りないだろう」


 俺は率直にそう告げた。


「確かに遊んでいるような余裕はない。こちらも仕事が立て込んでいる。こうしてここで懐かしの再会をしているような余裕すら本来はなかったんだ」


 エトヴィンはそう告げて視線を俺に向ける。


「何件か一緒に仕事をしてもらおう。その出来次第で協力するかどうかを考える。何、簡単な仕事だ。ゲルティ・フォン・マントイフェルとユーディト・フォン・ファルケンホルストを殺した人間にとっては朝飯前の仕事だろう」


 そう告げてエトヴィンは挑発的な視線を我々に向かう。


「いいだろう。それならばこちらの能力も示せるし、そちらの能力も確認できる。そちらに何が必要なのかを把握することができるだろう」


「結構。交渉成立だな」


 俺が告げるのに、エトヴィンが手を叩いた。


「では、まずはどのような仕事をすればいいのだろうか?」


「簡単だ」


 エトヴィンが意地悪く笑う。


「俺たちに従わない地下組織の連中をぶっ殺す」


 どうやら抗争は未だに続いているようだ。


……………………

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