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ハロー、神だよ

……………………


 ──ハロー、神だよ



「おめでとう! 君は神に選ばれた!」


「は?」


 唐突に投げかけられた言葉に俺は思わずそんな声が出た。


 場所は基地のカウンセリング室。


 ナノマシンによる感情適応調整後に民間軍事医療企業のコンバット・メンタリストという名の精神科医によるカウンセリングを受ける場所だ。俺も今日は頭の中のナノマシンを再調整したので、ここにきて精神科医とおしゃべりする予定になっていた。


 そんな場所で精神科医が精神科医のお世話にならなければならないようなことを言い出したのである。


 しかし、よくよく見ればこの精神科医──女医は見覚えがない。


 長いくせ毛の目立つ黒髪に快活な──悪く言えば落ち着きのなさそうないたずら気な赤い瞳の女性。いつもの民間企業から派遣されてくる精神科医なら、こんな落ち着きのない人間ではない。普段の精神科医はカウンセリング対象のことは全てお見通しというような、やや尊大とすら思える印象を受ける人間だ。


「まあ、座りなよ。時間はあるだろう?」


「ちょっと待て。君、本当に基地の人間か?」


 いきなりメンタル案件なことを言い出した見覚えのない精神科医の言葉に、俺は警戒感を抱いて、腰に下げている拳銃──HK45T自動拳銃に手を伸ばした。


「この基地の人間かって? もちろん違うともさ。ついでに言えば日本人でもないし、それどころか地球人ですらない。誰か、誰かと言われたら答えよう」


 そう告げて精神科医は咳払いする。



「私こそ神だ!」



 ……不味いな。基地にメンタル案件の人間が侵入したのか。それとも精神科医が疲労がたまりすぎて不味いお薬でもキメてしまっているのか。


「そんなに引きなさるなよ。マジで神ですから。扉の外を見てみ?」


 精神科医がそう告げるのに、俺は怪しい精神科医に視線を向けたまま、背後の扉を開き、素早く視線を走らせた。


「いやはや……」


 とうとう俺の脳みそのナノマシンがエラーを吐き出したのか、扉の外は“宇宙”だった。そう、広大なる大宇宙だ。星空が瞬く、黒い空間。恒星の輝きで惑星が照らし出され、惑星の周りを衛星が回るそんな宇宙だ。


「理解はできたかい?」


 精神科医はにやりと笑って俺にそう尋ねた。


「いいだろう。話を聞こうか」


 俺がイカれたんでなければ、世界の方がどうにかなってしまったということだ。


「まあ、私は文字通り神様なんだがね。この地球のある宇宙の神様じゃないのさ。別の宇宙の担当者でね。ここにはこっちの神様の許可を得て、やってきてるわけ」


「はあ」


 神だと名乗る精神科医が宇宙がいくつもあるような言い方をしても「はあ」としかいい返しようがないだろう。


「でさ。君に頼みたいのは世界をぶっ壊してもらうこと。お願いできる?」


「はあ?」


 いくらなんでも話が突飛すぎる。


「ちょっと待ってくれ。壊すってのはこの世界のことか? 日本のある?」


「まさか。壊してほしいのは私の世界だよ。こっちの神様にはちゃんと合意が取れてから引き抜くことになっているから、ちゃんと説明しよう」


 そう告げて神を名乗る精神科医は真剣な表情で俺の方を見た。


「私の世界がクソになった。だから、ぶっ壊してほしい」


「さては説明する気ないんだね」


 ちゃんと説明すると言われてこんな説明されたら普通はこう思うだろう。


「いやね。マジでクソなのよ。どこから仕込んだのか、私の世界じゃあ、魔術って奴が流行り始めて、その便利さ故に文明が一向に発展しないの。こっちの時間で言うなら20世紀も半ばぐらいの時間は経過しているのに、蒸気機関のひとつすらないと来た」


 神を名乗る精神科医はうんざりしたようにため息をつく。


「その上、魔術を使える奴は偉いってことでバリバリの階級社会。それどころか一番最初に魔術を使いだした奴が崇め奉られて絶対王政やってるんだよ。もう20世紀も半ばに入った時代でだよ? どれだけ遅れたままなのって話」


「そいつはまたえらく酷い状況ですね」


 正直なところ、国家に宣誓した身であっても地球の政治が優れているとは思えないのだが、20世紀の半ばに絶対王政とはいくらなんでもひどいものだ。アラブの石油で成り立ってるような国ならともかくとして。


「なお悪いことにその絶対王政の王様は王権神授説を取ってやがるんだよ。私は誰にも王権なんて与えた覚えはないっての!」


「少し引っかかるな。その言い草だとこちらでは神が本当に国王へ権利を与えた風に聞こえるんだが。そうだったのか?」


「本当にそうなら革命が起きて王様がギロチンにかけられるなんて思うかね?」


 それもそうだ。


「でもね。私が必要としているのはまさにギロチンなのよ。旧体制の連中の首を残らず撥ね飛ばして、体制を完膚なきまでに破壊してしまう鋭い刃を有したギロチンこそが私の求めているものなのさ」


「話は大体分かった。要はその絶対王政世界を転覆させてくれということだね」


「そういうこと。話が早くて助かるよ」


 魔術だのなんだのとわき道にそれる話はあるが、早い話はそういうことだ。


「だが、どうして俺を?」


「君、そういうの得意でしょう? “八代由紀日本情報軍少佐”?」


 俺はそう告げられてわずかに息をのんだ。


 否定はできないのだ。この神を名乗る精神科医の言うことは。


 俺はそういう仕事をしてきて、キャリアを築いてきた人間なのだから。


「で、合意が取れれば早速頼みたいのだけれど、どう?」


「見返りは?」


 見返りもなしに仕事をする人間はいない。俺は日本国に宣誓し、日本国は俺に対価を与えたが、俺とこの神を名乗る精神科医の間にはなにもない。


「成功後の君の人生をバラ色にすることを約束しよう。これはちゃんとこっちの神様の合意も取れている話でね。君の人生は成功後から何不自由することなく、華々しいものになる。お金も、名誉も、女性も、なんでも手に入る人生をプレゼント」


「悪くないね」


 その約束が本当に果たされれば、の話だが。


 だが、本当に果たされるとすれば、俺は異世界とやらでちとばかり暴れてきて、それで素敵な人生をゲットできるわけだ。悪くない取引だろう。むしろ、俺は交戦規則もなく好き勝手に暴れるのは好きなので、こちらに優位なくらいだ。


「その前に聞いておきたいのだが、そちらの名前は?」


「ふむ。それは地球の発音にすると発音不可能な名前になってしまう。まあ、一番近い名前で“女神ウラナ”とでも名乗っておこうかね」


 発音不可能な神様とはいろいろとラブクラフト染みている。


「では、女神ウラナ。その提案に乗ろう。俺は君の世界で内戦を引き起こし、世界を破壊する。他に協力者は?」


「天使をひとりつけてあげよう。それから現地には既に私の神託と恩恵を受けた聖女がいるよ。その聖女は途方もなく強いし、信仰心も高いし、その上胸も大きいし、絶大な戦力になってくれること間違いなしだ!」


 つまり、協力者はふたりか。


 まあ、それでもどうにかなるだろう。俺はそういう仕事には慣れているのだ。


「一応、君にも神の祝福と恩恵を与えておくから心配しなさんな」


 女神ウラナはそう告げると俺の額に触った。


「さて、ではようこそ、私の世界へ。容赦なく、思いっきりぶち壊してきてくれよ!」


 次の瞬間、俺の視界は光に包まれ、その眩さに俺は目をつぶった。


 さて、これからどう転ぶやら、だ。


……………………

本日は連続7回更新です。

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