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それから……。一つ屋根の下で ver2.0





「ふぅ……」


 僕はトイレに入るなり、ホッとため息をついた。


 ズボンと下着を脱いで便座に座り、目をそっと閉じた。


 いざ!


 という時だった。


「あ……」


 カチャッという音と共に、トイレの扉が開いた気配がした。


 どうやら僕はカギをかけるのを忘れていたらしい。


 僕は慌てて目を開けると、ドアを開けたままでかたまっているモブ子と目が合った。


 しばらくは視線を交差させていたのだけど、モブ子が視線を逸らすように下の方を見て、


「……くすっ」


 聞こえよがしに鼻で笑った。


「今、笑ったよね? ね? 笑ったよね?」


 僕は手でモブ子が見ていたであろうものを隠して、そう問いただす。


 僕は耳まで真っ赤になっているというのに、視線を再び僕の顔に向かわせていたモブ子は平然としている。


 これはどういう事なんだろう?


「見て欲しいからカギをかけなかったのかと思ったの」


「違うって。ただ忘れていただけだよ」


「見たいなら外でやりなさい。家の中だとただのセクハラね」


「外でやったらセクハラじゃなくて公然猥褻罪じゃないかな。そんな事を僕にやれっていうの?」


「あら、ごめんなさい。そういった趣味があって、てっきりしたいのかと思っていたの」


「そんな訳ないから。それよりも早くドアを閉めてくれないかな。恥ずかしいんだけど」


「くすっ」


 モブ子はまた下の方に目を向けた後、僕に聞こえるように鼻で笑ってからドアをそっと閉めた。


「……まったくもう」


 一つ屋根の下で生活し始めて再確認したけど、モブ子はやっぱり性格が悪い。


 僕の大事な逸品を鼻で笑うなんてプライドを傷つける行為だし、そんなのを平気でやったりするのは、性格が邪悪だからに違いない。


 こんな女と誰が恋愛したり、結婚したりするものか。


『明神輝里』


 これがモブ子の本名だそうだ。


 施設にいた時、『キラ』と呼ばれていた理由がなんとなく分かった。


 けれども、僕は『きらり』なんて呼ばずにモブ子と呼んでいる。


 モブ子という方が僕的には定着してしまっているし、呼びやすかったりするからだ。


 そういえば……


 無事に養子離縁の申し立てが受け入れられて、モブ子は天涯孤独の身の上に戻った。


 その相談費用などは、万次郎が稼いできたお金で賄ってもらった。


 僕が出すよりも万次郎が出す方が筋が通っていると思ったからでもあった。


『モブ子をこの家からたたき出すなんて可哀想な事ができると思っているのか!!』


 南国に移住した祖父祖母の部屋が空いているからとそこに住んで良いと両親が許可をしたので、今はこの家に住んでいる。


 養子にでもするのかな? と思っていたら、両親はそんな事を微塵も考えていないらしい。


『輝里ちゃんを養子なんかにしてしまっては、お前が輝里ちゃんと結婚できなくなってしまうではないか! 養子なんて絶対にしないし、させない! 私としては、輝里ちゃんと光臣の子供が素直に見てみたいのだ! 同じ家に住んでいたら、間違いの一つや二つ起こって当然であろうし、好きなだけ間違いを起こしていいんだぞ。いや、間違いは必然的に起こるものだ』


 つい先日、父親がそんな事を言っていた。


 たぶん間違いなんて起こりはしない。


 僕としては、あんな性格の悪い女はまっぴら御免なんだけどね。


 確かに美少女ではある。


 けれども、僕の事を『お兄様』ではなく『兄じゃ』と呼ぶ女は正直どうかと思う。


 何故兄じゃなのか?


『兄さん』


『兄貴』


『あんちゃん』


『あにぃ』


 とかその他諸々もっと良い呼び方があるのにも関わらずだ。


 万次郎の事は今も『お兄様』と呼んでいるのにだよ?


 どうしてこうなった。


 一つ屋根の下で暮らしてはいるけど、本当の家族ではないのだから諦めるしかないのかもしれない。


 モブ子にとって万次郎は永遠に『お兄様』であり、僕は有象無象の男の一人で『兄じゃ』と呼ぶ程度の存在だと認識しているのかもしれない。


 僕にはちょっとした計画がある。


 あのモブ子を教育して『お兄様』と呼ばせてやるんだ。


 あの性格の悪さを矯正するついでだけどね。


 それが新しくできた僕の目標だ。


 いつになるのかは分からないけれども。



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