ー旅立ちの章95- さて、色々あったけど、そろそろ愛の巣に帰る時間やで?
「ん?四。なんで尻をさすっているんッスか?慶次に尻でも掘られたんッスか?」
「ちゃうで?慶次くんがわいの尻に蹴りを入れてくれたんやで?千歳ちゃんのタイキックはご褒美やけど、慶次くんの蹴りはただの暴力なんやで?」
「四たんの尻は蹴り心地が最高なんだぜ!つい、俺様も力が入ってしまうんだぜ!ほら、叔父貴。稗と粟を袋に詰めてきたんだぜ」
慶次くんはそう言うと、利家くんに稗と粟の詰まった袋を手渡しているんやで?
「ありがたいッス。これで半年は喰うに困らないッス。慶次には世話になっているッス」
「それは2か月分のつもりなんだぜ?半年ももたせようとか想わずにガツガツと喰ってほしいところだぜ?」
せやなあ。あの程度の量だと、半年も食いつなぐのはさすがに厳しいんちゃいますかなあ?利家くんは身長が170センチメートルもあるんやさかい、喰う量もなかなかのもんのはずやで?
「僕もそれで半年もたせようとするのはやめておいたほうが良いと想うっしー?利家くん、街への出稼ぎは信長さまに禁止されてないっしーよね?お金を稼いで、お腹いっぱい、ご飯を食べたほうが良いっしーよ?」
「それもそうッスね。大工や土方の仕事でも探すッスか。松も前田家の屋敷で面倒見てもらっていることッスからね」
「おう。松さんの面倒は任されたんだぜ?体調が元に戻ったら、あのボロ小屋に送るんだぜ?」
あんなボロ小屋に住んでいたら、また、松くんが熱を出しそうな気がするんやけどなあ?まあ、仕方ありまへんか。利家くんが、信長さまの家臣を無断で斬ってしまったのがそもそもの原因やしな。
切腹を命じられなかっただけでも恩の字や。信長さまはほんま甘いひとやで?2度も逆らった弟の信勝さまが、3度目の謀反を企んでいるという情報を掴んで、ようやく、重い腰をあげたんやもんなあ?
お人よしと言われている、わいですら、裏切るようなニンゲンを許すのは一度までやで?信長さまは優しいを通りこして甘いんやで?あのひと、将来、手痛い眼を視させられるんちゃいますの?
「さて、今日は色々あったんやで?そろそろ、わいらも長屋に帰ろうやで?利家くん。今日はありがとうやで?おかげで、生き延びることができたんやで?」
「感謝はいらないッス。でも、【神の家】にはよくよく気をつけるッスよ?俺はあいつらと手打ちをしてしまった以上、これからは、四の手伝いをしにくいッス」
「ええんやで?元はといえば、わいがあいつらの那古野支部を勘違いでぶっ潰してしまったことが原因やさかいな?自分の尻は自分で拭くんやで?」
「慶次。四はともかくとして、千歳さんの身を護ってやれッス。四の腕前じゃ、自分の身を護ることで精いっぱいのはずッス」
「おう。任せておけだぜ?千歳さんは俺の元・婚約者なんだぜ?」
「ちょっと待つっしー!一度、お見合いをしただけで、元・婚約者にするのはやめるっしー!」
「慶次くん、いけまへんで?わいの千歳ちゃんを慶次くんの元・婚約者に設定されたら、まるで、わいが千歳ちゃんを寝取ったように想われるんやで?」
「もしかして、慶次は千歳さんに横恋慕しているんッスか?いくら、結婚はまだだからと言って、ひとさまの女に唾をつけるのはやめておけッス」
「いや?ただの冗談のつもりなんだぜ?そんなにマジで受け取るのはやめてほしいんだぜ?」
「慶次くんのは冗談に聞こえないっしー。いつでも全開バリバリの本気の台詞に聞こえるっしー!」
「あれれ?そうなのか?だぜ。いやあ、これは参ったんだぜ。四たん。俺様は千歳さんのことは3年前にすっぱり諦めたんだぜ?だから、心配しなくても良いんだぜ?」
「冗談なら良いんやで?でも、もし、その言葉が嘘ならば、わいは慶次くんに決闘を申し込むんやで?」
「あーははっ!決闘かだぜ。親友とはやり合いたくはないんだが、決闘となれば、それは引き受けなきゃならんのだぜ」
出来るなら、慶次くんとは闘いたくはないんやけどな?でも、千歳ちゃんに手を出そうとするなら、その限りやないんやで?わいの48の寝技と52の得意技で、慶次くんを闇に葬ってやるんやで?
「慶次くんと決闘することがないよう祈っているんやで?ほな、そろそろ、わいと千歳ちゃんとの愛の巣に帰るんやで?」
「そうっしねー。僕もお腹が空いたっしー。四さま、今夜は何を食べたいっしー?」
「鳩の丸焼きと蛇の串焼きでも食べたいところやで?河童は煮込めば喰えるようになるんかいな?」
「長寿さまは焼けば喰えそうだが、河童はどうなんだろうだぜ?甲羅はさすがに俺様でも噛み砕けないんだぜ?」




