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ー旅立ちの章92- わいの特殊能力は達人には通用しないっぽいなんやで?

「おっしゃあああああーーー!」


 なんで慶次けいじくんは千歳ちとせちゃんに乗せられて、わいの顔面にいきなり、殺人パンチを放っているんや?慶次けいじくん、ほんまに狂っているんやで?


 まあ、そないなことはどうでも良いんやで?さっそく、わいの特殊能力である【瀕すれば鈍する(うさぎとかめ)】が発動したんやで?


 慶次けいじくんの右のこぶしが弧を描くようにゆっくりと、わいの左頬に向かって突き進んでくるんやで?しかも、これ、本気で殺す気満々やろ!慶次けいじくんのこぶしが空気の壁をボンボンボンッ!と突き破りながら、向かってくるんやで?


 せやなあ?ただかわすだけやとおもろしくないんやで?どうせなら、この右腕を掴んで、背負い投げしてやろうかなあ?


 わいはそう想うと、身体を右回りにねじり始めるんやで?それと同時に、わいは自分の両腕を慶次けいじくんの右腕に絡めるように掴むんやで?


 ぱああああん!


 !?


 慶次けいじくんの右腕を掴もうとしたら、わいの両手が弾かれたんやで!?どういうこっちゃ!慶次けいじくんの右腕は力を込めすぎているゆえに、細かく振動しているってことかいな!?


 わいは慶次けいじくんの右腕を掴もうとしたせいで、両手を弾かれてもうて、その所為で体勢を大きく崩してしまったんやで?


「うおおおおお。すげえんだぜ。よんたん、まじで俺様の本気も本気の右のこぶしを回避したんだぜ!」


「でも、不格好なかわしかたなんだっしー。なんで、すっころんでいるんだっしー?もっと、華麗に皮一枚で回避して、カウンター気味に、慶次けいじくんをぶん殴るくらいはしてほしいところっしー」


「あいたたた、なんやで?本当は慶次けいじくんの右腕を掴んで、勢いを利用して、慶次けいじくんを投げ飛ばしてやろうと想っていたんやで?でも、慶次けいじくんの右腕を掴みに行ったら、わいの手がはじけとんだんやで?」


よんたん。それはダメだぜ。俺様が本気の本気で右のこぶしを放つ時は、回転を右腕に加えているんだぜ?」


 なるほどやで?慶次けいじくんは真っ直ぐにこぶしを突きだしているわけやないんやな?右腕が振動しているんやなくて、回転していたわけかいな。わい、ゆっくり向かってくる慶次けいじくんのこぶしの軌道しか注目してなかったのが失敗だったんやで?


慶次けいじくんは本当に規格外なんやで?わいの【瀕すれば鈍する(うさぎとかめ)】が発動したからと言って、慶次けいじくんに勝てるような気がしないんやで?」


「そりゃあ、回避するだけなら、よんたんの特殊能力ってのは、おおいに役立つんだろうだぜ。でも、達人の動きってのは、眼で追えるからと言って、対処可能かと言われれば、難しいんだぜ?」


「どういうことっしー?慶次けいじくん。詳しく説明してほしいっしー」


「ああ、千歳ちとせさん。俺は今、単純に右のこぶしでよんたんを殺す気で殴っただけなんだぜ?だが、本来なら、殴る前に予備動作ってものをごまかして、殴るんだぜ?」


 慶次けいじくんの説明を千歳ちとせちゃんがよくわからないって顔で聞いているんやで?


「口で言ってもわからないもんなのだぜ。そもそもとして、殴り合いをする時に、今から、てめえの左の頬を右こぶしでぶん殴ってやるぜ!と言って、殴る奴なんか、居ないってことなんだぜ」


「言われてみれば、そうねっしー。そんなこと言われたら、別によんさまみたいに特殊能力があるとかないとか関係なく、回避可能ねっしー」


「そうそう。んで、達人となると、相手をぶん殴る時は、騙しってのを入れるんだぜ。わかりやすく言うと、左の頬を右こぶしで殴るように見せかけて、実際は脇腹を殴るってわけなんだぜ?」


「うん。全然、わからないっしー!とりあえず、よんさまを慶次けいじくんの言う通り、ぶん殴ってほしいっしー!」


「うっしゃああああああーーー!」


 だから、慶次けいじくんはあほなんかいな!?わいをいきなり、殴ってくるのは、ほんまにやめてほしいんやで!?


 うああああ。慶次けいじくんの右のこぶしがまたもや、ボンボンボンッ!と空気の壁を突き破りながら、わいの左の頬めがけて、飛んでくるんやで?


 わいは、身体を後ろのほうにそらしていきながら、慶次けいじくんの右のこぶしを回避しようとするんやで?


 って、ちょっと待ってほしいんやで!?慶次けいじくんの右のこぶしが、わいの左の頬に近づいてくるのが途中で止まったんやで!?


 どっごおおおおん!


「うえ!げほげほ、ごほおおおお!」


「おおお!よんさまの左の頬を殴ると見せかけて、左のこぶしでよんさまの右の脇腹をえぐったんだっしー!これが【騙し】なんだねっしーーー!」


「そうなんだぜ?右のこぶしで殴ると見せかけて、本当は左のこぶしで殴るんだぜ?だから、よんたんは、俺様の動きが視えていたかもしれないんだが、まんまと騙されたというわけなんだぜ?」


「うええええ。口から内臓が飛び出しそうなんやで?しかも、慶次けいじくん、左のこぶしには殺意を乗せてなかったから、【瀕すれば鈍する(うさぎとかめ)】が発動しなかったんやで?」

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