ー旅立ちの章86- 悲しい行き違いなんやで?
「いろいろと悲しい行き違いがあったのでしゅ。ぼくちん、素直に謝らせてもらうのでしゅ。信者が勝手にやったとことで、責任は彼らにあれども、ぼくちん、すまないと想っているのでしゅ」
「何が、謝るッスか。全然、悪いとは想ってないッスね?ニコニコ笑顔で謝るやつがどこにいるッスか!布越しでも顔がニヤついているのが手に取るようにわかるッスよ?」
おお。利家くんが怒っているんやで?こりゃ、今日は朝から血の雨が振りそうなんやで?
「いやいや。被害を受けたのはこちらなのでしゅよ?尾張支部の屋敷を建てようとしたら、なんと、正規の値段の3倍をふっかけられたのでしゅ。投資をしていた、利家殿には非があるはずでしゅよ?」
「ふんっ。俺も大工と材木問屋に騙された口ッス。おかげで、俺は今、素寒貧ッス。お前らが損した分を俺に補てんしろと言われても、1銭たりとも出せないッス」
「おやおや。そうだったんでしゅか。全ての責任は大工と材木問屋にあるというのでしゅね?いやはや、利家殿は、ぼくちんをなじる割りには、自分の責任は棚にあげるんでしゅね?」
「ほう。俺に喧嘩を売っているようッスね?お前らに渡す金は無いッスけど、その喧嘩、無料で買わせてもらうッスよ?」
利家くんと教祖様くんが、火花を散らし始めたんやで?おお、怖い怖い。話し合いとか言い出しておきながら、そんな雰囲気を一切、醸し出さないんやで?教祖様くんは利家くんと慶次くんを前にしながら、恐怖を感じることはないんかいな?
今まさに血で血を洗う争いが起きようとしていたんやけど、教祖様くんが、右手を突きだしてきて、待ったの合図となるんやで?
「これはすまないのでしゅ。ぼくちんとしたことが、目的を忘れていたのでしゅ。今日は喧嘩を売りにきたのではないのでしゅ」
「じゃあ、何をしにきたんッスか?さっきから、お前は喧嘩を売りにきたとしか想えないッスよ?」
「手打ちにきたのでしゅ。うちの与作、田吾作、喜兵衛では歯が立たぬモノを相手に喧嘩をしかけるのは愚の骨頂と言うモノでしゅ」
ん?てことは、【神の家】で手練れと言うのは、この3人しか居ないということなんかいな?じゃあ、慶次くんひとりで、あちらさんが10数名連れてきていても、あっさり、わいらの勝ちと言うことになりまんなあ?
「手打ちッスか。それも悪くない選択ッスね」
「あれ?利家くん。こいつら、殺してしまわへんのか?」
「俺は無駄な殺しはしないッス。あちらが手打ちにしたいと言うのであれば、話は聞かなくもないッス」
あらら。こりゃ、意外な展開なんやで?わいとしては、こいつら全員、利家くんが始末してくれると想っていただけに、残念なんやで?
「まあ、手打ちと言いつつも、無茶な要求をしてくるのであれば、ご破算ッスけどね?」
「そこは安心してほしいでしゅ。こちらからは何も要求しないのでしゅ。だから、そちらも何も要求しない。これで決着としてほしいでしゅ」
「それは、今後、互いに一切、干渉しないと受け取っていいんッスか?」
「そうでしゅ。そうでしゅ。お互い、行き違いが元で起きたことなのでしゅ。ぼくちんは、利家殿が大工と材木問屋に騙されたと信じるでしゅ。だから、ぼくちんの信者である、与作、田吾作、喜兵衛が勝手に動いたと理解してほしいのでしゅ」
「けっ。それはありがたいことッスね。でも、それを信じれるだけの材料はそちらには無いッスよ?」
「それを言い出したら、水掛け論になるのでしゅ。だからこそ、どちら側も要求をしないと提案しているのでしゅ」
「ふんっ。口が回る奴ッスね。こちらとしても、大工と材木問屋が全部悪いという証明を今すぐできない以上は、ここで手打ちにするのが賢い選択ッス」
「では、今後一切、【神の家】と利家殿は不干渉ということで良いでしゅか?」
「ああ、良いッスよ?でも、その約束を違えるようであれば、俺はお前たち全員を殺すッス。これは脅しじゃないッス。必ず、全員、地獄に送ってやるッス」
「それで構わないでしゅ。約束は大切でしゅからね?」
「なんでえ。なんでえ。せっかく、大喧嘩が始まると想って、意気揚揚と出向いたら、手打ちなのかだぜ。俺様、暴れたりないんだぜ?」
「慶次。どうせ、こいつら、約束を守るかどうかわかったもんじゃないッス。その時は暴れてもらうから、その時まで力をためておけッス」
「あいよ。叔父貴がそう言うなら、俺も一旦、矛を収めさせてもらうんだぜ」
慶次くんはそう言うと、膨らませていた気をしぼめていくんやで?なんや、あっさりと決着がついてしまったんやで?
「さて、利家殿との話し合いは終わったのでしゅ。次に」
次に?次にってなんや?
「楮四十郎殿。次は、あなたとの話し合いでしゅ」
な、なんやと!?わいと利家くんは別件扱いなんかいな!




