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ー旅立ちの章80- ニンゲン、勘違いってのが一番怖いんやで?

 ああ、わい、知らん間に人生の落とし穴にハマってしまっていたんやなあ。あと10年も経てば、あの時、幸運の壺を1貫で買わされた腹いせに、組織の支部をひとつ潰してもうたんやで?って、将来、産まれてくるであろう、千歳ちとせちゃんとの間に出来た、我が子に笑いながら言えるようになるんかなあ?


よん。何を呆けているッスか。まだまだ、こいつに聞かなきゃならんことがあるッスよ?」


「おっと、利家としいえくん。すまんやで?つい、わいの人生って谷あり山ありやなあ?って、想いにふけてしまっていたんやで?」


「人生を振り返るにはまだ若いんじゃないッスか?そう言うのは盆栽いじりでも始める年頃にやれば良いッス。さて、田吾作だったッスか?よんの命を狙っているのはわかったッス。じゃあ、なんで、俺こと、前田利家まえだとしいえの命を狙っているんッスか?お前らの支部に使う予定の屋敷の建築費を融資したからッスか?」


「うぎぎぎ。我らの尾張おわり支部建築のために金を出してもらったのは大変、感謝しているんだぎゃ。だが、材木問屋と大工が建築費を大幅に上げていたことが発覚したんだぎゃ!それに1枚噛んでいるのが、前田利家まえだとしいえと言う男だと判明したからだぎゃ!」


「ん?何を言っているッスか?俺がそんなアコギな商売なんかするわけないッスよ?」


「嘘をつくなだぎゃ!材木問屋と大工を締め上げたら、前田利家まえだとしいえが建築費用を3倍にして見積もれと命令されたって、吐いたんだぎゃ!」


「おいおい。利家としいえくん。いくらなんでも建築費用を3倍に引き上げたら、あかんやで?そんなのバレたら、命を狙われても当然なんやで?」


「ちょ、ちょっと待つッス!俺、マジでそんな悪だくみには関わってないッスよ!?」


「しらばっくれるんじゃないだぎゃ!材木問屋の家族と大工には、【神の家(ごっど・はうす)】をたばかった罪で死んでもらったのだぎゃ!あとは、お前だけなのだぎゃ!」


「ははあん。わかったやで?利家としいえくん。あんたさん、その材木問屋と大工に名前だけ上手く使われてしまったんやで?」


「どういうことッスか?よん。はっ!まさか、あいつら、俺の名前を出すことで顧客である【神の家(ごっど・はうす)】には安心感を与えて、建築費用のかさましで浮いた分は、全部、あいつらのふところに納めたってことッスか!」


「そういうことやで?利家としいえくん。厄介な連中に金を出してしもうたなあ?もしかしたら、利家としいえくんが融資した金も、材木問屋と大工が着服していたのかもしれへんなあ?」


「ちっ!やられたッス!じゃあ、俺が【神の家(ごっど・はうす)】に狙われているのは、完全な誤解ってことッスか!しかも、材木問屋と大工は、すでに【神の家(ごっど・はうす)】のやつらに殺されているッス。身の潔白を証明しようにも、証人が居ないッスよ!」


 ああ、利家としいえくん。可哀想やで?わいは勘違いで【神の家(ごっど・はうす)】に喧嘩を売ってもうたけど、利家としいえくんは勘違いされて、【神の家(ごっど・はうす)】に喧嘩を売られたんやで?


利家としいえくん。どないするんや?材木問屋と大工くんの帳簿を調べれば、利家としいえくんが、そんなアコギな商売に手を染めてないことが判明する可能性はあるんやで?でも、利家としいえくんの身の潔白をこの【神の家(ごっど・はうす)】の関係者たちが信じるかどうかは別問題なんやで?」


「ちっ。困ったッスね。貧すれば鈍するとは、まさにこのことッス。慶次けいじに頼んで、前田家で材木問屋と大工の帳簿は調べてもらうッスか。下手をすれば、俺まで詐欺の片棒を担いだことになって、【神の家(ごっど・はうす)】に始末される前に、信長さまに切腹を命じられることになるッス」


 おっと、そう言えば、信長さまの存在を忘れていたんやで?そりゃ、そうやな。信長さまが利家としいえくんに、しばらく大人しくしていろと、あんなボロ小屋に隠居生活を強いてるっていうのに、それどころか、利家としいえくんが詐欺の片棒を担いでいたなんてことになったら、大変なことになってしまうんやで?


「田吾作を殺すつもりだったッスけど、【神の家(ごっど・はうす)】への伝言役として、生かしておく必要が出てきたッスね。運が良いやつッス」


 利家としいえくんはそう言うと、苦々しい表情で、ぺっと地面に唾を吐くんやで?


「おい、田吾作。他の【神の家(ごっど・はうす)】の関係者が、この辺で待機しているってことは無いッスか?」


「い、今のところ、おいらと、与作と喜兵衛の3人だけだぎゃ。でも、おいらたちが支部に戻らなかったら、次に誰かが刺客として送りこまれると想うのだぎゃ」


「ちっ。時間がないッスね。田吾作の怪我を治療したあと、ひきずってでも、その支部の屋敷にこいつを送り届けなきゃならないッスね」


「でも、田吾作くん。もう、虫の息やで?」


「うちのボロ小屋に河童が訪ねてきているのが幸いだったッスね。ちょっと、よん。手を貸すッス。ボロ小屋まで、田吾作を運ぶッスよ」

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