ー旅立ちの章64- わいが過去に潰したのは組織の支部やったんや!
さて、千歳ちゃんが松くんに粥を食べさせて、また、寝かしつけたんやで?松くん、元気になるとええなあ?
「で、四たん。松さんが寝たから本題に入ろうなんだぜ。叔父貴の破産に【神の家】が関係しているって話だぜ」
「せやな。あの組織は、わいが壊滅させたはずなんや。しかし、残念ながら生き残りが居たってことや。あいつらは、利家くんみたいな商売人をだまくらかして、資金を集めていることや」
「なんッスか?四は、【神の家】に詳しいッスね。もしかして、その組織を裏切った人間なんッスか?」
「いや、そうではないんや。あいつらの仲間が、昔、わいに彼女ができるとか、博打で大儲けできるとか大ぼら吹いて、幸運の壺というやつを無理やり売ってきたんや。わい、昔は純粋な青年やったさかい、騙されてもうてな?つい、それを買ってしまったんや!」
「四さま。それで今は心が汚れた三十路の男になってしまったんだっしー。僕はすごく悲しいんだっしー」
「まてまて、千歳さん。四たんが昔は純粋な心の持ち主だったと考えるのは無理があるんだぜ?四たんは男気溢れる男だが、純粋かと言われたら、薄汚れた大人なんだぜ。これは性根が元から薄汚れていたとしか想えないんだぜ?」
「ひどいこと言ってくれますなあ。わいかって、10歳かそこらの時までは純粋やったんやで?まあ、12歳になるころには薄汚れていたんやけどな?」
「てか、10歳まで純粋な心を持っていることのほうが不思議なレベルッスよ。こんな荒れ果てた戦国の世で、よくもまあ、夢見る少年で居られたもんッスね?」
「まあ、わいも何でか知らんが、そう育ってもうたもんや。だけど、やっぱり、初恋が失恋に変わった時、わいは夢見る少年では居られなくなったもんやなあ?」
「ああ、わかるんだぜ。年上の女性が嫁いで行くのをただ眺めているだけの自分の無力さに、男ってもんは、大人にならなければならないって想ってしまうもんなんだぜ!」
「わかるッス。俺にもその気持ちがわかるッス。松には言えないッスけど、俺にも初恋の女性が居たもんッス。でも、俺は前田家の四男坊ッス。結婚どころか、恋愛すら許されていなかったッス!」
「なんだか、男同士で盛り上がってるっしー。四さま、慶次くん、それに利家さま。話を元に戻すっしー」
「ああ、すまんかったんやで。こう言う話をされても、女性は面白くもなんともないもんやな。んで、わいは、タン壺を押し売りされた恨みを晴らすべく、【神の家】の奴らをひとりひとり、闇討ちしていったわけや」
「おお、怖い話だぜ。四たんの48の寝技と52ある得意技は、その時に身についたのか?だぜ」
「まあ、実験台にしたのは確かやな。でも、わいの52ある得意技は、ひとを殺すためばかりじゃないんやで?そこんとこ、勘違いしないでほしいんやで?」
「四は見かけによらず、すごいッスね。普通、ひとりで組織を壊滅できるもんじゃないッスよ?」
「ああ、そこは、ある伝手を使って、ひとを雇ったんやで?さすがに、わいひとりでどうにかできるほど、相手も少なくなかったんやで?」
「なるほどだぜ。ところで、四たんがその時、始末したのは何人なんだぜ?」
「確か、12,3人ってところだったはずやで。10年近く前の話やから、ちょっと正確ではないかもしれへんけどな?」
「四さま。おかしいっしー。【神の家】の構成員は全国で100人ほど居ると、僕のお父さんに聞いたことがあるんだっしー。そんなに少ない数のわけがないっしー」
「なんやと?じゃあ、わいが潰したと想ったのはほんの1割やったってことかいな?じゃあ、わいがやったことは、ただ、あいつらを怒らせただけってことかいな?」
「そうっしー。四さまが潰したのは尾張支部だけだと想っていたほうが良いっしー。奴らは美濃や北伊勢にも支部を持っているって、僕のお父さんが言っていたっしー」
まじかいな。千歳ちゃんの話が本当なら、慶次くんが、以前、わいの周りをうろついていた【神の家】の奴のことを、ただの生き残りだと想っていたもんやけど、そもそも、その考え自体が間違えやったってことかいな!
「千歳ちゃん。一大事や!わいの推測では、利家くんのような商人から金をふんだくって、それを元手に尾張支部を復活させるつもりやで!それで、その障害となりうる可能性の高い、わいの命を狙っているんやで、奴らは!」
「四たん、それはさすがに論理が飛躍しすぎじゃないのか?だぜ。たまたま、四たんを見かけたから、仲間の仇とばかりに、四たんの隙を覗っていたと想うほうが良いんだぜ?」
「いいや。わいの直観が告げてるんや!あいつら、わいと千歳ちゃんとの仲を引き裂こうとしているんや!わいは、【神の家】の奴らを許しておけないんやで!」




