ー旅立ちの章59- わい、見た目がただのおっさんやから、余計に焼きもち焼きなんやで?
「んで?熱冷ましの薬なんて、一体、どうやって手にいれてきたんッスか?俺、薬代を払えるほど、金の余裕はないッスよ?」
「ああ。叔父貴。金のことは気にすんなだぜ。これは河童から譲ってもらってきた薬なんだぜ。叔父貴も聞いたことがあるだろ?河童の皿の液体は打ち身、すり傷、熱冷ましに効くってのをだぜ!」
「河童からもらってきた薬ッスか?慶次、お前は何を言っているんッスか。馬鹿だと想ってはいたけど大馬鹿だったッスか?」
「おおん?何を疑っているんだぜ!叔父貴は金が無いからって、いつからそんなにひとを胡散臭いモノでも視るようになったんだぜ!俺様が嘘を言っているように視えるのか?だぜ!」
まあ、普通の人間なら、河童の皿から採ってきた液体なんて言い出したら、頭がおかしくなったと想うもんやで。しかも、それを言っているのが慶次くんや。慶次くんは普通のひととは狂った感性を持っているんやで。疑われて当然なんやなあ。
「そうッスね。慶次は馬鹿かも知れないッスけど、嘘だけはつかないッス。疑った俺が悪かったッス。俺、貧乏になってから、心がすさんじまっていたッスね。慶次の言うことを信じられないのはダメなことッス」
あ、あれ?なんで、利家くんは納得してはるんや?傾奇者仲間っていうのは、もれなく感性が狂っているんかいな?
「んじゃ、慶次。それと四さん。あと、そこのご婦人。中に入ってほしいッス。3月と言ってもまだ外は寒いッス」
「ご婦人なんて、照れるっしー。まだ、僕は四さまとは結婚してないっしー。でも、ご婦人とか言われると嬉しくなってしまうっしー」
千歳ちゃんが頬を両手で挟んで、身体をくねくねさせているんやで?ほんま、千歳ちゃんは乗せられやすい女性なんやで。わい、こんな色男の利家くんが千歳ちゃんを口説こうもんなら、千歳ちゃんは一発で利家くんに惚れてしまうんやないかと、気をもんでしょうがないんやで?
「んっ?四さま。難しそうな顔をして、どうしたんだっしー?もしかして、僕が利家くんの台詞に喜んでいるのに嫉妬しているっしー?」
うっ。千歳ちゃんに心を見透かされてしまったんやで?わい、自分が焼きもち焼きなのはわかっているんやけど、千歳ちゃんにそれを指摘されると恥ずかしい想いなんやで?
「ま、まあ。そんなところやで。利家くんは男前やさかいな。わい、ひょっとしたらひょっとするかもと想ってしまうもんやで?」
「何を言っているっしー。僕は四さまの中身に惚れたんだっしー。僕は四さまの見た目とか気にしないっしー。四さまは心配しすぎっしー」
せやなあ。心配しすぎなだけってのはわかっているんやなあ。でも、やっぱり、自分の見た目に自信がないってのは、つらいもんやで。利家くんくらいの美青年だったら、こんな苦労なんかいらんはずやもんなあ?
「まあ、ええか。自分の見た目なんて気にしてもしょうがないもんや。わいは千歳ちゃんがわいに惚れていてくれてることだけ信じていれば良いんや。ほな、利家くんの家の中にはいりましょうかいな」
わいはそう自分を鼓舞しつつ、利家くんの住んでいるあばら小屋に入っていくんやで?しっかし、なんでこんなぼろっぼろのほったて小屋になんかに住んでいるんやろうなあ。いくら金がないからと言っても、程度ってもんがあるやろうが。
って、そんなこと考えている場合ちゃうかったわ。おお、あれが利家くんの幼な妻の松くんかいな。って、これ、まじで犯罪とちゃいますか?ほんまに12歳やで?見た目が12歳とかちゃうで?見たまんま12歳やで?
「慶次くん。わい、ちょっと番所に行ってきていいでやんすか?ここに犯罪者が隠れ住んでいるって通報してくるさかい」
「ん?なんでえ。どこに犯罪者が居るんだ?もしかして、俺様のことを言っているのか?だぜ」
「いや。慶次くんのことやあらへんで。ここに12歳の女の子をさらってきて、自分の嫁にしている犯罪者が居るんやで。わい、こんなの見過ごせませんわ」
「俺のことを言っているッスか?まあ、そう言われても仕方ないッスね。でも、俺と松は幼馴染なんッスよ。松が大きくなったら将来、結婚しようと誓いあった仲なんッス。男が女とした約束は守らなきゃならないッス。俺は周りから犯罪者を視るような眼で見られても構わないッス」
男やで。漢と書いて【おとこ】と読むと言って過言じゃないんやで。わい、ここまで自分の女のために尽くせるって言う男を視たことがないんやで!
「利家くん。ほんま、すまんかった!わい、利家くんを犯罪者呼ばわりしたことを謝らせてもらうんやで!わい、利家くんが幼い女性が好きなだけやって認識を改めるんやで!」
「おい。慶次。その手に持っている槍を貸してくれッス。四さんを一発、その槍でぶん殴ってやるッス」
「まあまあ。四たんはいつもこんな感じだから許してやってほしいんだぜ。そんなことより、松さんに河童の妙薬を飲ませようだぜ。四たんへの説教はあとでじっくりすればいいんだぜ?」




