ー旅立ちの章56- 何も起きらない朝はこの日までやったんやで?
ちゅちゅちゃ、ちゅちゅんちゅんちゅん!
「あああ。やかましいスズメやで。とっ捕まえて、焼いて、塩をまぶして喰ってやろうかいな?」
わいはスズメの鳴き声と共に眼を覚ましたんやで?しっかし、お日様の光がさんさんと窓から入ってくるんやで?しかも、ちょうど、わいの顔面にその窓からの光が直撃しているんやで?
「って、さぶっ!ちょっと、待ってくれやで?なんで、わいの掛布団が無くなっているんや?こんな3月の朝の寒いときに、掛布団も無しじゃ、風邪を引いてしまうんやで?」
わいは、誰が自分の掛布団を奪って行ったのかを確認するために、長屋の中をきょろきょろと首を回して確認するんやで?
「なんや。千歳ちゃんかいな。まあ、女性は身体を冷やしたらあかん言うからなあ。これは仕方ないんやで?」
わいは、掛布団を2重に身体に巻き付けている千歳ちゃんを視つめるやで?なんか、えっらい幸せそうな寝顔をしているんやで?
「むにゃむにゃ。四さま、そんなにガツガツ食べたらダメだっしー。最近、四さまは中年太りが始まっているっしー。お腹がぽっこり出てしまうっしーよ?」
千歳ちゃんが寝言を言っているんやで。寝言に対して返事をしてはいけないって言われてるさかいなあ。ここは、静か眠らせておくのが吉かいな?
「むにゃむにゃ。うーーーん。四たん。そんな大きいモノ、入るわけがないんだぜ?いくら、盗人をこらしめると言っても、そんな丸太だと尻の穴がさけてしまうんだぜ?」
なんか、めっちゃ不穏なことを寝言で言っている奴がいるんやで?慶次くん。わいが盗人にイラッときても、そんな罰は与えないんやで?その辺に埋めて、顔だけ出させて放置するくらいやで?
「ポッポー。四のひとはだに癒されるんだポッポー。やはり、四の胸枕は最高なんだポッポー。むにゃむにゃ」
ああ、そういや、わいの胸元に鳩のまるちゃんが入りこんでいたんやで。すっかり忘れていたんやで。しっかし、鳩のまるちゃんが胸元におると、なんか、わい、めっちゃ巨乳に生まれ変わった気分なんやで。こりゃ、おっぱいのでかい女性が肩がこって仕方ないと言っている気持ちもわかるんやで?
「まあ、まだ皆が寝てるさかい、起こすのは悪いんやなあ。湯でもわかすかいな。あと、ついでに米でも研いでおきますかいな」
わいは鳩のまるちゃんを起こさないように胸元からひっこぬいて、そっと、千歳ちゃんの掛布団の中に放り込むんやで。
わいは炊事場のほうに行って、かまどに薪をつっこんで火を起こすんやで。カンカンッと火打石で藁に火をつけて、それを火種にして薪に火をつけるんやで。ほおおお、あったかいんやで。さてと、やかんを上に乗せて、湯を沸かしてっと。
次は朝ごはん用に久しぶりに米でご飯を研ぐんやで。普段は粟や稗やけど、今日くらい豪勢にいかんとなあ。先日、やっと信長さまの尾張統一が果たせたんや。その祝いのためにも米を喰ってやるんやで。
わいは釜をよいしょっと持ち上げて、米びつのほうに移動するんやで。さて、米はあとどれくらい残っていたでやんすかねえ?
米びつの蓋を開いて確認してみたところ、うーーーん。あんまり残ってへんなあ。ざっと見積もって10合くらい分かなあ?慶次くんは2合は平らげるし、わいも1合は食べるやろ?千歳ちゃんも半合くらい食べると計算して、4合分かいな?
「まあ、今度、金が入ったら、米も買い足しておかないとあかんやで。稗や粟も美味いことは美味いけど、米には勝てへんからなあ」
しっかし、朝から贅沢なもんやで。普通なら、稗や粟に米を混ぜて炊くんやけどなあ。まあ、たまに贅沢するのも悪くないんやで?
「さて、4合炊くことにするんやで。米はわいが研いで、水にさらしておけば、皆が起きる頃にはちょうどいい塩梅になっているやろうな」
わいは釜に米を4合分、サラサラと入れて、さらに瓶から水を柄杓ですくい上げて、じゃばじゃばと釜の中に入れるんやで。
「米は研ぎ過ぎても美味しくないんやで。ここはおっぱいをこねるように優しく、やらしく研ぐんやで?」
水を入れては研いでを2回繰り返し、水だけを上手いこと捨てて、そしてまた水をそそいで、また水だけを捨ててを3回ほど繰り返してっと。
「ふう。これくらいでええやろうかな?わいも米を喰えるような身分になれるとは想えなかったんやで。わいが針の行商人をやってたころは、墓のお供えもんを喰っていたくらいやからなあ」
なんか、感慨深くなるんやで。想えば、わいも遠くまで来たもんや。いや。実際には尾張とその周辺国に出稼ぎに行ってたくらいやけど。
でも、信長さまの兵士になってからは、腹いっぱいご飯を食べれるようになったんやなあ。そして、縁に恵まれて、千歳ちゃんと付きあうことになって、3か月後には結婚式やで。ほんま、わいの人生、順風満帆なはずやったなあ。
まさか、わいが得体のしれんモノたちから命を狙われると言った事態が起きるなんて、誰が想像したんやろうなあ?




