ー旅立ちの章55- もう夜もだいぶ更けてきたことやし、寝ることにするんやで?
「とりあえず、1回、ここらで酒宴はお開きにせえへんか?わい、段々、頭が回らんなってきたんやで?」
「それもそうだぜ。すっかり夜もふけちまったんだぜ。じゃあ、四たん。俺様は部屋のすみっこで勝手に寝させてもらうんだぜ?」
慶次くんは雑魚寝をする気かいな。すんまへんなあ。わいの長屋には千歳ちゃんの分を含めて、ふたつしか布団がないんやで?
「フシュルルルー。わしは夜行性だから、まだまだ起きていられるのだが、ここは大人しく寝ておいた方がよさそうなのだフシュルルルー。蝮に姿を変えて、酒壺の中に戻らせてもらうのだフシュルルルー」
「ケケッ。オイラはどうしようかケケッ。まあ、土間で寝させてもらうケケッ。ひんやりしているところのほうが、頭の皿が乾きにくくて助かるんだケケッ」
長寿さまくんは酒壺へ、河童くんは土間かいな。まあ、畳の上で眠りたいと言ったら、蹴っ飛ばしてたとこやけどな?
ちなみにわいが住んでいる長屋は、信長さまが世帯持ちのひとらが寝泊まりできるようにと8畳間なんやなあ。まあ、もう少し広いところを与えてもらえると子供が出来た時とかに助かるんやけど、そんな贅沢も言ってられへんからなあ?
まあ、炊事場もセットでついている分、ましなんやが。できるなら共同厠じゃないほうが良かったんやが、そこまで言うなら一軒家に住めって怒られるんやろうな。
「じゃあ、そろそろ、灯りを消すんやで?皆、お休みやで?朝になったら、またゆっくり話そうやで?」
わいはそう皆に言って、眠りにつこうとしたんやな?だけどな?
「うーーーん。拙者は夜目が利かないポッポー。四はどこだポッポー!」
鳩のまるちゃんがわいの位置を見失ったらしく、真っ暗な長屋の中を飛び回って、壁にガンッ!ガンッ!と当たっているんやで?
「まるちゃん、うっさいわ!適当にその辺で寝ときいやあ!」
「四さま、うるさいっしー。僕はお酒が入ってすっごく眠いっしー。もっと声量を落として、まるちゃんを叱ってくれっしー。むにゃむにゃ」
これはすまないんやで?ったく、鳩のまるちゃんには困ったもんやで?
ん?なんや?カリカリカリって何かをかじっている音がするんやで?
「皆が寝静まっているうちに、たくさん、食べておくでッチュウ。ああ、ソバが美味しいんでッチュウ!」
「おい。そこのねずみのこっしろーくん?何をこっそりソバを喰い切ろうとしてるんや?わいと千歳ちゃんの朝メシが無くなってしまうやろ?いっぺん、しめてやろうかいな?」
「ひっひい!でッチュウ!助けてほしいのでッチュウ!奥方さま、ご主人さまが僕をいじめるでッチュウ!」
「四さま、ねずみのこっしろーっくんをいじめるのはやめるっしー。ねずみなんだから、お腹がすくのは仕方ないっしー。朝は別のモノを作るから、こっしろーくんにソバをあげるんだっしー」
くううう!千歳ちゃん。優しいのは良いけど、こいつ、ただのねずみやで?自分で、こっしろーなんて、立派な名前を名乗ってはいるけど、ただのねずみやで?大事なことやから、2度、言わせてもらいたいところやで?
文句を言いたいが、それを言ったら、千歳ちゃんに正座しろっしー!説教をするっしー!って言われてしまうんやで?ああっ、せっかく、わいが丹精込めて打ったソバやったんになあ。千歳ちゃんに美味しい美味しいって言ってほしかったんやけどなあ?
「ああ。美味しいでッチュウ。このソバにはご主人さまの愛が詰まっているんでッチュウ。その愛と言う調味料がふんだんに使われているんでッチュウ。これは食べるのが止まらなくなってしまうんでッチュウ」
くっ!このねずみのこっしろーくんが!今度、千歳ちゃんが視てないときにしめたるさかいな?
「四さま、こっしろーくんをいじめたらダメっしーよ?人類、皆、兄弟っしーよ?むにゃむにゃ」
いつから、ねずみのこっしろーくんは人類の仲間入りを果たしたんや?わい、こんなねずみの兄弟なんかいらへんで?
まあ、ええわ。そんなことより、わいには大事な任務があるんやで?となりの布団で眠る千歳ちゃんに性的いたずらをしなならんのやで?
ん?なんか視線を感じるんやで?って、うわあああ!なんか、わいの枕元に得体の知れない羽の生えた鳩がおるんやで!?
「ふううう。やっと四の位置がわかったのだポッポー。さて、四の胸元に潜り込むんだポッポー。まだ、3月だから、きっと四は肌寒いんだポッポー。拙者が暖めてやらなければならないんだポッポー」
おい、このクソ鳥!わいの胸元に入りこんだら、邪魔で、千歳ちゃんに性的嫌がらせができへんやんか!
「ふふっ。鳩が胸元にはいる。これぞ鳩胸なんだポッポー」
くあああっ!このクソ鳥、さらにおもんないこと言い出したんやで?ほんま、ぶちのめしたい気分で一杯になってもうたわ!明日の朝メシは、鳩の丸焼きで決定やで!絶対、わいの胸元から逃げるんじゃないんやで?




