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ー旅立ちの章54- 旅立とうにも、わいにはそんな切羽詰まった理由がないんやで?

 燃え上がれやで!わいの心のなかの大宇宙!今こそ、【瀕すれば鈍する(うさぎとかめ)】の発動やで!


 って?あれ?まったくもって、慶次けいじくんの動きが鈍くならないんやで?うごはあああああ!


「ふう。腹パンですませておいたんだぜ。まあ、今回は手加減を充分にしたんだぜ。明日はよんたんは血の小便を流すことになるんだぜ!」


慶次けいじくん、ありがとうっしー。よんさまは本当にデリカシーが無いんだっしー。少しは血の小便を垂れ流して、女性の気持ちをわかるべきっしー」


「ううう。痛いんやで。食べたモノを全部吐きだしそうなんやで?しっかし、慶次けいじくんが殺す気で殴ってこないのは誤算やったで?その所為で慶次けいじくんのこぶしを見切ることができなかったんやで?」


「うん?よんたん。それはどういうことだぜ?よんたんは殺気を感じない攻撃はほとんどかわせないってことなのか?だぜ」


 あ、あかん。慶次けいじくんにバレたら、シャレにならんのやで。慶次けいじくんの手の抜いた攻撃は、結局のところ、痛いのは変わらへんからなあ?それなら殺す気満々のほうがまだ、【瀕すれば鈍する(うさぎとかめ)】が発動するだけ、かわせる可能性があるもんなあ?


「ま、まあ。今のはわいが油断してただけやで?普段のわいなら、慶次けいじくんのこぶしのひとつやふたつ、額で受けきってみせるんやで?」


「さすがよんさまっしー。そこに痺れる、憧れるっしー!」


「まあ、そう言うことにしておくんだぜ。で?よんたん、カラス天狗の件はどうするんだぜ?俺様だって、仕事があるんだ。俺様がよんたんを四六時中、守ることなんてできないんだぜ?」


「せやなあ。そっちもあるけど、まずは【神の家(ごっど・はうす)】をほうをまずどうにかしたほうがええと想うんやんか?カラス天狗くんは、わいの命を狙っていると言っても、その刺客は妖怪なんやろ?そんな面妖なもん、清州きよすの街の中をうろついてたら、一発で捕まって、そのまま見世物小屋ですやん?」


「フシュルルルー。よんの言うこと、もっともだフシュルルルー。あと、言っておくが妖怪と言うのは、やめてくれフシュルルルー。それは神を貶める【呪い】の言葉だフシュルルルー」


「ああ、すんまへんな。つい、癖で言うてもうたやんか?気を悪くせんといてな?で、神の使いである、あんたらはひとの姿とは似ても似つかないんやで?だから、平気に街の中は歩けないはずなんや。だから、襲ってくるとしたら、夜やんか?だから、戸締りをしっかりしていれば良いってわけになるんや」


「ケケッ。言われてみれば、オイラがここに来たときに、誰かは知らないが、家の戸をぶち壊してくれていたんだったケケッ。親切な奴もいるもんだと感心したものだケケッ」


「ああ、俺様が吹っ飛ばしといたんだぜ。なんたって、よんたんの住んでる長屋は戸が開けにくいんだぜ。だから、蹴っ飛ばしたほうが早いんだぜ?」


「あのなあ?慶次けいじくん。その戸の開きが悪いのは、慶次けいじくんが毎度、ぶっこわしてる所為なのもあるんやで?千歳ちとせちゃんが、うーんうーんって気張っても開かない時があるんやで?」


「どうしても開かない時は田中くんの長屋に入れさせてもらっている時があるっしー。でも、風花くんが居ると、すっごく邪魔だ、早く出て行ってくださいなのですわ?って雰囲気を醸し出していて、つらいんだっしー」


「まあ、田中くんとこも新婚さんやからなあ。そりゃあ、はよ出て行ってほしいって気持ちも充分わかるんやで?でも、女性がひとり、こんな長屋が連なっているとこに立ってたら、いくら信長さまの兵士と言えども、おう、そこの可愛い子ちゃん。俺と一緒に甘味処に行かないか?って声をかけられる事案が発生してしまうんやで?」


「僕が可愛いのは仕方ないっしー。でも、僕に手を出して良いのはよんさまだけっしー。だから、よんさまはそんな要らない心配はしなくて良いっしーよ?それに、親切なひとが、よんさまの長屋の戸を蹴っ飛ばして、開けてくれるっしー」


「ほんま、なんで皆して、うちの戸を蹴っ飛ばしてくれるんや?そんなんやから、どんどん、開け閉めが大変になるんや。わい、そろそろ、こっから飛び出して、一軒家を構えたほうがええんちゃいますか?」


よんたん、一軒家はやめておいたほうが良いんだぜ?信長さまが津島から清州きよすに引っ越す時に、嫌がる兵士たちの宿舎がどうなったか、覚えてないのか?だぜ」


 ああ、そうやった。あの信長さまは気が狂ってしまったんかと想うくらいやったもんなあ。まさか、兵士の宿舎に自ら、火をつけておったもんなあ。わい、取るモノ取らずに焼きだされたもんやで。


「俺様もさすがにアレはどうかと想ったんだぜ。もう少しで虎の毛皮が燃えちまうところだったんだぜ。いやあ。信長さまはやることなすこと、ひととかけ離れているんだぜ!」

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